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落語と狂気

~雪月花sude~


 雪月花の麻衣と詩歩は、自分たちのステージが終わった後も楽屋に戻らず、ステージ袖からステージを見ていた。なぜなら、すぐに注目しているユニット、Awaiauluのステージが始まるからだ。

 楽屋に戻っている時間で一部見逃してしまうことを考えると、このままステージ袖から見続けるのが正解だ。


「Awaiaulu……どんなステージになると思う、詩歩?」

 

「今までの傾向から考えると、こちらの想像から少しズレた、あまり競合しなさそうな要素を入れてくることが多いよね。それが彼らのステージのインパクトに繋がっている。けれど、かっこいい系の曲やパフォーマンスから外れたことはないよね」


「そうね。一体、どんなステージで来るのかしら」


 などと話していると、ステージの中央にいつの間にか何かが現れた。横に広い木の台が置かれていて、その上に座布団が三枚敷かれている。台の横には『有珠の冒険旅行』という曲名らしきものが書かれた紙が掲げられている。


「ねぇ麻衣。あれってさ、どう見ても……」


「高座、よね。落語の」


 するとテケテンテンテン……という落語の始まりでよく聞くお囃子が流れ、Awaiauluの三人が現れた。全員落語家を想起させる和装に身を包んでおり、手にはセンスが畳まれた状態で握られている。

 三人が座布団の上に正座で座り、一礼するとお囃子がピタリと止まる。


 すると突然、和風でポップ、そして異常に速いテンポの曲が流れる。それと同時に三人は座りながら激しく踊り始めたのだ。

 歌の方は、異様に早口。そして歌詞はメチャクチャながらなんとなく話の内容が理解できる。

 特筆すべきは独特のリズムとキャッチーな歌詞が合わさり、曲が強烈に頭に張り付いて離れなくなってしまう。つまり中毒性が高いのだ。


「これって、もしかして……」


「電波ソング!? 和風の曲で!?」


 ちなみに歌詞は、よく注意して聞くと不思議の国のアリスを下敷きに落語っぽくしていることがわかる。だから『有珠の冒険旅行』なのだ。

 そしてクライマックス。最高潮の盛り上がりの中で三人が一礼すると、またテケテンテンテン……というお囃子が流れ、Awaiauluは退場した。


「これがAwaiauluよ」


「あ、筑波さん」


 麻衣と詩歩の後ろから現れたのは、Glorious Tailの筑波 朱音だった。


「Awaiauluは、誰もが注目しない要素を見つけ出し、それを広げていくの。だからどのライブでもとても強いインパクトを残せる。彼らと同学年で一番の成長株の小日向さんとは対照的ね。彼女は王道を進もうとしてくるから。

 もちろん、アイディアを実現するための歌唱力やダンスといったアイドルに必要な要素は、当たり前だけど高いレベルよ」


「な、なるほど……」


「MCを挟んだら、三年生のパートね。私達は二年生だけど、特例で大トリにしてもらっているの。私達のパフォーマンス、楽しみにしてて」


 そう言うと、朱音は自らの楽屋に戻っていった。


 


~紅太side~


 ステージを終えた俺たちは、楽屋に戻ってきていた。衣装は脱いでいない。一応俺たちはゲスト扱いなのでもう出番はないのだが、心持ちとしてライブが終わるまで着替えないでいるのだ。

 楽屋で俺たちは残りのライブをモニターで見ている。今はライブのラスト、3年生のパートをやっているが、俺たちの注目はトリ。2年生ながら特例で大トリを任されているGlorious Tailのステージだ。


「お、そろそろ始まるぞ」


 ステージに現れたのは、Glorious Tailの3人。落ち着いた色目の着物を着ているが、非常に動きやすく改造されている。

 BGMが流れ始めた。どうやら和ロックの曲となっているらしい。


「ん?」


「どうした、紅太?」


「なんか、目が一瞬変わったような……」


「雰囲気は変わったかも~」


 三人が歌い始め、本格的に曲が始まった。どうやら戦国時代の茶の湯について歌った曲らしく、茶の湯の知識が全く無い俺でも、曲調や歌詞でなんとなく茶の湯をイメージできる。

 そして一番のサビが過ぎると、なんだか様子が少しおかしくなる。


 筑波先輩達の目が段々狂気に染まっていき、歌詞に一貫性がなくなっていく。曲調も最初に想像したロックからガラリと変わり、グワッと加速し荒々しさすら感じる。


『茶器を、茶器を!』


『誰も持っていない茶器を!!』


『国では安い生活用品? そんなの知ったことか!』


『茶器のためなら城でも国でも売ってやる!!』


 茶器の歌が暴走し、曲が終わる。背後の巨大モニターには『茶の湯狂想曲』と凝った字体でデカデカと表示されている。どうやらこれが曲名らしい。


「あーそうか、そういうことか」


「何かわかったのか、蒼司?」


「この曲、おそらく戦国時代の茶の湯の流行を誇張して歌っているみたいだな。『国では安い生活用品? そんなの知ったことか!』『茶器のためなら城でも国でも売ってやる!!』って歌詞があっただろ?

 実際、茶器1つで国1つ分の値が付いたとか、外国で安い生活用品として作られた焼き物が日本でとんでもない高値で売れたとか、そういう話もあるらしいからな」

 

「なるほど、そういう事だったのか」


 つまりこの『茶の湯狂想曲』、戦国時代の茶の湯の狂気的な熱狂ぶりを誇張して表現した曲なのだ。

 そしてこの曲で、俺達は1つ学ぶことがあった。


「それにしても筑波先輩達、あの目は強烈だった」


「ああ。視線から狂気を感じてしまった。すさまじい表現力だと思う」


「僕達もすぐやれって言われて出来る物じゃないよね~」


 この一曲だけで、俺達は『負けた』と思ってしまった。

 だが、それと同時にこれからもレッスンを積んでいき、あの表現力を必ず手に入れてやると意気込んだのだった。

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