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――Interlude:3

 またあのヘンテコな夢の時間がやってきた。

 ただ今回はひとつだけ違っていて、あたしは摂理侵犯を発動させていなかったはずだ。

 ただベッドで眠っただけでこうなっちゃったってことは、こんなの本当にタチの悪い夢だったんだと諦めればいいのかな。

 でも、今回のはなんだか雰囲気が違っていた気がした。


〝――――――立ちなさいアリル。

 心を強く持たないと、ひとはあっという間に圧し殺されてしまうんだ。

 現実っていう、とても重たい世界にね〟


 厳しい言葉だけど優しいトーンで、誰かがあたしを諭している。

 たぶんあたしは泣いているのだと思う。

 目の前に俯いてへたりこんでいるこの女の子は、髪染め(デコ)もメイクもしていない無垢なままの、かつての小さなあたしだ。


〝――――本当はひとりでも強く生きていければ理想なんだけれど、誰もができるわけじゃない。

 だからぼくたちはこうやって身を寄せあうしかないんだけど――〟


 顔を上げようとしないあたしに近づいて、


〝――全部がぜんぶ甘えてても駄目なんだ。

 それだけだとただ弱くなってしまって、いつか後悔する。

 だから甘えた分、頑張れることだって見つけられるよ。

 きみにもわかるかな?〟


 大人の大きな手のひらが、あたしの髪をそっと撫でてくれていた。

 あたしの黒く濡れた髪の毛が照り返していた、オレンジ色の輝き。

 夢の中の世界は、オレンジに燃えていた。

 街が燃えている。

 あたしたちの街だ。

 とどまらない熱波があたりを飲みこみながら迫りきていた。

 照り付けて皮膚を焦がそうとする。

 炎の向こう側ではかつて建物だったものが、墓標みたいに黒くそびえ立っている。

 あたしが何か言った。

 なんて返事したのかはわからない。

 パチパチと爆ぜる音だけが聞こえてきて耳障りだ。


〝――うん、そうだね、ぼくだってアリルとおんなじ気持ちだよ。

 いなくなってしまったママやみんなのことが悲しくて、いますぐにでも泣いちゃいそうだ〟


 触れていた手のひら越しに、声が震えているのが伝わってきた。

 必死に堪えた果てにみせた笑顔に、もう涙も枯れてしまったあたしは勇気をもらえた気がした。


〝……でもね、泣くならあとにしようって、ぼくはもう決めてるんだ〟


 あたしの手を引いて立ち上がらせる。

 あごを上げたあたしの、垂れた前髪が流れ落ちて。

 光をなくしかけていた碧い瞳が、映りこんでくる炎に負けないくらいの輝きを取り戻していくのを見て。

 このひとに勇気をシェアしてもらったあたしから、このひとも勇気をシェアしてもらったんだ。

 それが五月蠅いくらい響いてくる心臓の音から伝わってきた。


〝――ぼくもアリルもこうして生きてるんだ。

 時間は勝手に流れてく。

 だからぼくは時間に追い抜かれないように前に進み続けたい。

 アリルにもいっしょに来てほしいんだ、ほら――――〟


 焼きつくような熱に負けないくらい、手のひら越しに伝わってくるこのひとの体温。

 とくん、とくん。

 あたしが立ち上がったのは、半分はこのひとの願いで、もう半分は自分の意志だ。

 そしてこのひとのもう片方の手には、真っ白な光を集めたみたいな、一振りの剣が握りしめられている。

 迫りくる炎を切り開くために、煌めく剣を掲げて彼は戦いに挑む――――


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