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【二式スカラのレポート――**/**/**:**】

 神にして悪魔なる〈ロータス〉を手に入れた人類は、共存の見返りに獲得した異端技術によって、停滞していた文明の壁を乗りこえることに成功した。

 だが、いつしか人類は〈ロータス〉の恩恵にも勝る恐怖に耐えきれなくなって、ついにそれを捨てる旅に出た。

 こうして殉教者となった我々の船は〈ロータス〉を乗せ、現在も地球から外宇宙に向け遠ざかり続けている。

 いつか我々の系譜が〈ロータス〉を克服してくれると信じて、この果てしない旅は続く――。



 二式スカラという英雄候補が表舞台から転げ落ちる前の栄光を、おれはずっと夢に見続けている。


 闘技場のステージに堂々と立ったおれ。

 押しつぶされてしまいそうな歓声をものともせず、センターラインの向こうに立ちはだかる対戦相手をじっと見すえている。

 眩いばかりの照明が突き刺さる。

 ステージを取りまくスクリーンが描きだす、おびただしい数の観客たち。

 最新の光学投影技術によって、奔流めいたインフォメーションが瞬いては掻き消されていく。

 ステージ背後には二式家のみんなと、おれを支持し応援してくれるたくさんの騎士たちが集まっていて。

 騎士と騎士の公式決闘。

 その勝者がつかみ取るものは、倒した相手の〈魔剣〉と、背負った家名の栄光だ。

 耳朶を殴り付けるような〝二式〟のコールは、とにかく強烈極まりない。

 英雄候補――つまり最強の騎士を煽るのはおれ自身と言うよりは、いつもステージそのものだから。


起動(boot)――行使権有効化(activation)――――ID2――……」


 刻まれた騎士紋の心理的トリガーとなるコードを口ずさみ、己が〈魔剣〉ID2を起動する。

 このときの対戦相手がどんな騎士だったのかなんて、今はもう思い出せそうにない。

 でもあの頃の二式スカラは、いついかなるシチュエーションだろうと不敵に口角をつり上げて、どんな相手にでも立ち向かえたんだ。

 たくさんの、本当にたくさんの人たちがおれを応援してくれていた。

 いや――二式家という優良ブランドを背負い、この世界で一番多くの〈魔剣〉を集めてみせた英雄候補だったから――。

 ――単に数字上の英雄候補だったから、上っ面だけで〝二式スカラ〟を応援してくれていたにすぎなかったんだ。


 そうして、一瞬で全てがこの手のひらからこぼれ落ちてしまった。

 おれは、怖くなったんだ。

 もう戦うのが怖い。

 他人が怖い。

 〈魔剣〉を巡って争い合うこの社会すべてが、怖い。

 十二基ある〈魔剣〉すべてを手にして騎士の頂点に立った英雄は、神にして悪魔なる〈ロータス〉――つまりラスボスと対決しなければならない。

 どうしてかって、〈ロータス〉の破壊こそが――〈ロータス〉という()()から逃れることこそが人類の悲願だからだ。

 でも、英雄が負ければ人類は滅びる。

 万が一勝てても、〈ロータス〉の異端技術を失った人類なんてそのうち滅びる。

 おれたちは地球人類を救う英雄だ、誇り高き殉教者だなんて鼓舞されてきたけれど、こんなのただの自殺志願者じゃないか。

 もうこれ以上、そんな恐ろしいもののために戦いたく、ない…………。


 確かに、決闘に勝ち続けることは気分がよかった。

 自分が認められた気になれるほどの歓声を浴びてきた。

 倒した相手の〈魔剣〉が自分のものになった瞬間、まるでRPGのレアアイテムを手に入れたみたいに嬉しかった。

 でも、あのまま目に入る光だけ見ていればよかったのか? ほんとに、本当に笑えない。

 暗闇の肌触りを思い出したとたん、そいつが体の奥底にあったのを思い出して。

 目と耳をふさいだって変わらない。

 強くなったところで、何も変えられなかった。

 何一つ変えることができなかった。

 ――何が英雄だ。

 どうにもならないこの世界を、おれなんかに救えるわけがない。


 おれは、かつてこの世界の命運を背負った最強の騎士で、

 そして今やこの世界で最低の引きこもりになっていた。


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