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柄シャツ


 インスタグラムを見ていたら柄シャツが流れてくる。

 毒々しい花をあしらったモノ、複雑な図形が刻まれたモノ、ただ単に派手な柄のモノ。


 男らしさとかそういうステレオタイプに従順で、ロールを演じることを厭わない私であるから、花柄を着てみたいとは思えなかったが、それでも派手好きな側面がどこかにあって私は私に突き動かされたのだった。一着三千円しない程度の柄シャツならば、ちょっと高い本を買うのと同じ。ここはひとつ大学生らしく、目についたものを買ってみようではあるまいか。


 『大学生』というロールを演じる建前で、らしさを出すためだと私の欲望はそのように形式ばってプレゼンしてきた。無論、あらゆる欲望を素通りさせてしまうメキシコの警察みたいな軟弱な自制心は容易にそれに頷いて、「では何がいいか」と議題を先に進めてしまった。

 自己破滅性質が備わっている。


 ということで、緑色のものを買うことにした。

 柄を描写したいものだが、何とも無作為で無秩序でいや、それゆえに魅力的だけれども、恐ろしく不細工にも見える塩梅、そのほどしか伝えようがない具合だ。

 しかしながら、そういう綱渡りをしたくなってしまったので、買った。

 無計画ゆえに住所を間違えて再配達も含め一週間かかった。


 いやぁ、実物を見るといつ着るのか、誰に似合うのかよくわからない。

 まずこれを着るのを恥ずかしいと私は思わないが、もし周りから不評であれば私の買った動機である『大学生』らしさに関わる。つまり、目的と手段を入れ替えたとはいえ、そこを破綻させることはできないのだ。

 明らかに自らと不協和音を奏でているこの視覚暴力を無理にでも手なずけ、従僕にするほかない。しかし、己の美的感覚を信じることが私にできない。


 まぁ、まずは文芸部にでも着ていけばいいか。

 いきなり本線で爆死することはない。

 まずはサンプルとして小さなコミュニティでの反応を伺い、そこからポピュレーションでの予想をたてる。実に数学的であり、我が学部らしい決断ではあるまいか。はははは……なぁ?


 滑稽である。果たして、ありのままの自分を求めたのか、他者の中の自分を求めたのか、いやもっとも自分とはいったい何なのか。誰に似合うか分からないこのヴェロネーゼグリーンの柄シャツの前で無為な哲学を一つ。二つ。……


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