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夜雨散歩


 夜になると急に一日を無為に過ごした気がして、私は外に出ようとする。


 都会は新鮮味も、自然感もないから私を鬱屈とした気分にさせる。

 夜はいい。人がいない。人がいないから社会がない。つまり新鮮で自然な夜なのだ。

 それを蝕むように街灯なんかが煌々と立ち尽くし、あらゆる闇を殺戮する天使の代わりをしている。しかし、空にはいまだオリオン座やいくつかの星が見える。


 つまり自然は完全には駆逐されていない。


 雨の日はまったく外に出る気にはならないのだけれども、夜に散歩をしたくなる衝動はまるで家がオーブンのようで速く逃げ出さないといけないと錯覚しているかのようだ。 だれしも炎の中から逃げ出したい。寧ろ雨は天からの祝福である。それに夜の闇は雨粒を照らさない。見えなければオッケーだ。


 お気に入りのレッドベルベッドの傘を差して、さっさと飛び出す。

 でも、もはや何度も通った道だ。

 知っているということは憂鬱だ。

 しかし、違うのは雨が降っていること。匂い立つ湿り気。

 久々に新鮮さと抱擁した。


 雨音は夜に粒となって気配おびただしく弾け飛ぶが、雨粒は闇の中で形を持たない。

 私の眼には映らない妖精のようだ。


 しかし、街灯なんかの近くだと雨は姿を見せて、怒れるスズメバチのようにフリッカーを飛び散らせる。青白い光の散乱、光を浴びて狂奔する雨粒たち。まるで印象しか私の瞳にしか残らないけれども、ごく弱い力に撃ち抜かれて解け死ぬ雨の妖精は怒涛を描く筆触りのようでもある。


 ウスバカゲロウという生き物がいる。成虫になってから六時間から十二時間そこらで湖の上で交尾を行い、そして死んでゆく。命の線香花火だ。そして、雨粒はそのウスバカゲロウよりも儚く生きるものなのだ。空から地に落ちる僅かな滞空時間、人々に捉え難い印象を与え、弾けるのだ。

 赤い傘の裏側を覗き込めば、薄っすらと積もった闇の中に雨粒の煌めきがまだ残っている。


 なお星よりも星らしく、瞬いて。


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