小説の執筆?
「ジャンヌ」
「はい、アンリエット様」
「これを読んでみて」
アンリエットはジャンヌに手書きの原稿を渡す。
「これは…恋愛小説…?」
「ど、どうかしら…」
「すごく面白いと思いますよ」
「そ、そうかしら!?」
「ただ、もうちょっと山場とか欲しいですね。いえ、こういうほのぼのしたお話ももちろん需要はありますから、無理に変える必要はありませんが」
大方アンリエットが自作した小説だろうと気付きつつ、気付いていない体で話を進めるジャンヌ。
ちなみに内容は、おそらくジャンヌが主人公のモデルだろうとわかるクールビューティー系女子と、おそらくアンリエットがヒロインのモデルだろうとわかる可愛らしい女子の百合系のお話だ。
何故初執筆で百合系ほのぼの恋愛小説を書いたのかはわからないが、まあアンリエットにはアンリエットの考えがあるのだろうとジャンヌは割り切った。
「そう…そうよねぇ…山場かぁ…」
「…例えば、このページのこのシーン。ここで、ヒロインが主人公に敢えて捕まります」
「え?」
「そこでヒロインが、こう、誘い受けっぽい言動をして、場が盛り上がる寸前で邪魔が入る、みたいなのもちょいとドキッとしていいかもしれません」
「…ありがとう、ジャンヌ!愛してる!」
この場面で愛してると言われると変に邪推してしまう…が、まあアンリエットに限ってそれはないだろう。有った方が嬉しいが。
また机に向かうアンリエットに、優しい表情を向けて温かい紅茶を淹れるジャンヌ。
まさかこの後、アンリエットがそのお話を本気で本にして売り出すなんて露ほども思っていなかった。