少年の行く先
アンリエットは、馬車で最寄りの孤児院に少年を連れて行く。
ジャンヌが少年の事情を孤児院に話し、奴隷契約書をその場で燃やして、少年を孤児院に託した。
この孤児院は、アンリエットが毎月必ず寄付金を送り慰問にも訪れる孤児院なので、信用はしていいだろう。
「僕。また月末にくるから、それまで元気でね」
「あの…」
「なあに?」
少年にアンリエットが微笑む。
「…本当に、ありがとう。これ、お礼」
少年がアンリエットに差し出したのは、綺麗なブローチ。
「…これは?」
「お母さんの形見。お母さん、元は貴族だったって。それは、お金になるって。でも、売れなかった。形見だから。でも、お姉さんにならあげる」
「そ、そんな大切なものを…!」
「いいの。もらって」
少年はぐいぐいとアンリエットにブローチを押し付ける。ジャンヌも少年に加勢する。
「それほど感謝しているということです。アンリエット様、受け取ってあげてください」
「ええ…んん…うん、わかったわ」
アンリエットは根負けした。
「本当にありがとう。またね」
「ええ。またね」
後日。アンリエットは偶然にも、お茶会の席での噂話でこんな話を聞いた。
曰く、とある男爵様が娘を探している。その娘は平民の男と何年も前に駆け落ちした。その時には子供も授かっていたという。
その娘の特徴は、金の御髪に青い瞳。貴族としてはありきたりな色だが、平民や奴隷にはなかなか無い色。
そう、それはあの少年と同じ色。駆け落ちした時期を考えても、少年の年齢はぴったり当てはまる。
アンリエットは、その話をジスランにした。そして、形見のブローチをジスランに託した。
「アン、ただいま」
「お帰りなさいませ、お父様!どうでしたか?」
ジスランは、アンリエットの問いに頷く。
「やはり、ブローチは駆け落ちしたお嬢さんのものだったよ。アンの助けた少年と男爵の血縁も、魔術で証明された。少年は男爵に引き取られたよ。お嬢さんの遺体も、改めてきちんとお家のお墓に埋葬されたよ」
「よかった…やっぱりそうだったのですね…」
少年の母のことは残念だったが、それでもきちんと埋葬されたのは良かった。少年も、きちんと引き取られたのでこれからは穏やかな生活を送れるだろう。
「これで安心して眠れるね」
「はい、お父様」
胸のつっかえがとれたアンリエットはホッとする。そんな心優しいアンリエットを、ジスランはそっと抱きしめた。