婚約の価値
「いいか?もしこのまま婚約を決めないでいたら、確かにお前の言う通りアンが色々危ない」
「そうだな、どんな手段を使ってでも手に入れようとする奴は必ずいる。今まで無事だったのは、父であるお前を恐れてのことだな。それでも、今後どう転ぶかはわからない」
ジスランはジェイドの言葉に頷く。そして続けた。
「だが、天才魔導師としてその名を轟かせるお前がアンと婚約して婿入りするのであれば話は変わる。他の有象無象なら、退けてでもと凶行に及ぶ奴もいるだろうがお前が相手なら滅多に手は出せないだろうし納得せざるを得ないはずだ」
ジェイドは国家魔導師であり、個人の力で子爵位を賜るほどの研究成果を出している。国にも多大なる貢献を果たしているため、アンリエットに相応しくないとは言えない相手だ。
また、魔導師としては文句なしの天才であるため亡き者にしようとしたところで返り討ちにされるのがオチである。
なるほど、ジスランの唐突な提案にも一理ある。
「だが、俺はお前と同い年だぞ。そりゃあ、俺は長生きする気満々だが…置いて逝く可能性もある」
「別にアンの子供が我が家を継ぐ日までは長生きしてくれれば、あとは問題ないだろ。その後ポックリ逝く分には構わん。そもそもアンの側には私もいるし」
「お前そういうところだからな」
ジェイドはジスランをジト目で見つめるが、ジスランはどこ吹く風だ。
「それに、アンリエットの意思はどうする?アンリエットはこんなおっさん相手でいいのか?二十五歳差とかさすがにヤバすぎないか」
「ヤバイな…」
「ヤバイだろ」
「だが、ジャンヌ曰くアンは歳上が好きらしいし」
「差がエグいんだって」
ジェイドは色々と無理な理由を並べ立てるが、頭の片隅ではやったやったと小躍りする自分がいるのも自覚している。
だからこそ、自重せねばと自分を律しているのだが。
「そもそも、お前くらいアンを大切にしてくれる男そう居ないだろう。アンに寄ってくる大体の奴は、打算ありきだ。それじゃ私は認められない」
それを言われてしまうと弱い。アンリエットに寄って来る者が打算ありきなのは想像がつく。そして自分は触媒として爪などは貰っているものの、人としてアンリエット本人を尊重しているつもりだ。
今まで父親として、アンリエットに近付く色々な男を見てきたジスラン。彼がそう判断するのなら、それは間違いないのだろう。
「…ジスラン。こっそり、アンリエットに探りを入れてくれ。俺と婚約するとしたら、嬉しいかどうか」
「ジャンヌにそれとなく聞いてもらう。良い反応が返ってきたら、その時はいいんだな?」
「その時は…好きにしてくれ」
「わかった」
ということで、アンリエットの知らない間に婚約話が進もうとしていた。




