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エステル家のお姫様は、今日も大切に愛される。  作者: 下菊みこと


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北の果ての森

ドラゴンはずっと泣いている。


お腹が空いたよ。お母さん、どこ?


そんな悲しい声が聞こえてしまった人間は、北の果ての森へ迷い込む。


それは、迷いの声。人を誘う恐ろしい声。


そして、声の主に会えば容赦なく食い殺されるのだ。













「…あら?ここは?」


アンリエットが目を覚ますと、知らない場所にいた。


記憶を辿るが、夜に自室のベッドで眠った記憶しかない。


「私、どうして…」


周りを見渡しても、霧が深くて見えない。困ったように立ち尽くすアンリエットだったが、突然霧が晴れた。


「あら?」


「…アンリエット!?」


「ジェイド様?」


霧が晴れた理由は、ジェイドの魔法だったらしい。


「ジェイド様、ここはどこでしょう?私たちは何故ここに?」


「ここは北の果ての森だ。おそらく、何者かに誘い込まれた!」


「まあ!」


びっくりしているアンリエット。その手を掴んでぎゅっと恋人繋ぎをするジェイド。


「逸れると厄介だ。手を繋いでおこう」


「はい、ジェイド様」


「ご主人様!」


「ぴゃっ」


「アンリエット様!」


そこに、ルーヴルナとルロワ、ジャンヌが現れた。


「やはりいらしていたのですね…」


「ぴゃっ」


「ご無事でなによりです!」


「みんなで迷い込んでしまったのね…」


困ったことになったかもしれないとアンリエットが思った時、さらに聞き覚えのある声が聞こえた。


「アンリエット嬢?皆さんもお揃いか」


「ナハトさん!」


これで、お茶会に参加していた全員が揃った。


「…さすがに、もうこれ以上誰もいないよな?」


「そうですね…」


「よし。なら、さっさとこの森を抜けるぞ!」


ジェイドが魔道具を起動する。すると、箱型の魔道具から大型の鳥の形の機械が現れた。


「森の外まで案内してくれ」


ジェイドがそう言えば、鳥型の機械は翼を広げる。しかし、飛び立つことはなかった。


「…くそっ、完全に森に閉じ込められたってわけか!」


ジェイドは箱型の魔道具に鳥型の機械を戻して辺りを見回す。


「…アンリエット、お前は俺が守るから」


「はい、ジェイド様…」


その時、声が聞こえた。


お母さん、どこ?お母さん、どこ?


その悲しげな声に、アンリエットは引き寄せられそうになる。


…が、ジェイドがそれを止めた。


「アンリエット、声に惑わされるな」


「でも、なんだか悲しそう…」


「あれは、獲物を呼び寄せる声だ。聞くだけ無駄だ」


ジェイドは声のする反対側に行こうとする。


「お前たちは大丈夫か?」


「私は魔力の耐性がありますから」


「私もです!」


「ぴゃっ」


「俺もだ」


やはり、とジェイドは言う。


「魔力の耐性がないアンリエットが危ないな」


「ジェイド様…」


「アンリエット。俺の手を握って離すなよ」


「…はい」


そして全員でアンリエットを囲うように歩き、声と逆側に突き進んだ。

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