アンリエットの久しぶりのお出かけ
「アンリエット様、お出かけの準備が整いましたよ」
「ありがとう、ジャンヌ」
アンリエットは侍女に微笑む。侍女であるジャンヌは、そんなアンリエットに内心キュンとしながら頭を下げた。
「じゃあ、久しぶりのお出かけに行ってみようか。この間は結局お庭の散策で終わっちゃったからね」
「はい、アンリエット様」
ジャンヌはこのお出かけのための荷物を持ちつつ、アンリエットに日傘をさして歩く。
「今日は風が冷たくて、柔らかな風が気持ちいいわ。きっと、あの丘でのピクニックは楽しくなるわね」
「はい、アンリエット様」
そして歩いて屋敷の近くの丘を目指すアンリエット。ジャンヌはそんなアンリエットに嬉しい気持ちになる。外に出られないのを嘆いていた日々が嘘のように、楽しそうに笑うアンリエットはやはり可愛らしい。
ジャンヌは、主人であるアンリエットにあまりお話はしない。アンリエットへの返事も短いし決まりきったことばかりだ。けれど、ジャンヌはアンリエットに忠誠を誓っていた。
なぜなら、ジャンヌはアンリエットに救われたことがあるからだ。
ジャンヌは元は辺境伯家の娘だった。けれど、父である辺境伯が娘であるジャンヌを虐待していた。
そんなジャンヌの事情をお茶会の席での噂話という形で知ったアンリエットが、父にねだり使用人としてジャンヌを雇ったことで虐待してくる親から離れられたのだ。
「ふう、なんとか丘を登れたわ。…まあ!すごく良い景色!」
アンリエットの嬉しそうな声に、ジャンヌも景色を見る。たしかに、ここは見晴らしがいい。
「近くにこんな素敵な場所があってよかったわ!さあ、茣蓙を敷いてピクニックにしましょう?」
「はい、アンリエット様。皆様、準備をお願いします」
「はい」
ジャンヌはアンリエットの日傘をさしているので、何人か連れてきた護衛のうち一人が茣蓙の準備をする。
「敷きましたので、どうぞお座りください」
「ええ、ありがとう」
アンリエットが座る。護衛の一人がアンリエットに日傘をさすジャンヌからランチボックスを受け取り、アンリエットに渡す。
「お嬢様、どうぞ」
「ええ」
アンリエットは景色を見ながらゆっくりとランチボックスに入っていたサンドイッチを食べる。
「ふふ、本当に良い景色。みんな、今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「わがままだなんて…アンリエット様は、もっと色々おねだりしてくださっていいのですよ」
「まあ!ふふ、やっぱりジャンヌは私のお姉さんね」
「い、いえそんな恐れ多い…」
「あら、わがままな妹はお嫌いかしら?」
くすくすと笑いながら冗談を言うアンリエットに、ジャンヌは困りつつも少しばかり楽しそうだった。