ある日の、とてもとても残酷な出来事
血が飛び散っていた。
肉が飛び散っていた。
数少ないお友達が、姉であろうその人を庇うように抱いて血の海に沈んでいた。
多分、そのお友達の敵であろう人達も肉塊になっていた。
彼らが主と仰ぐ、魔族達は戦っていた。
「…いや」
小さな声しか、出なかった。
魔族もやがて、刺し違えて共倒れ。
誰も救われない、誰も幸せにならない結末。
いつも不敵に笑う魔導師様は、間に合わなかったと拳を握る。
可愛い使い魔やお人形は、悲惨な光景から目をそらす。
「いや…」
自分は。
何もできなかった、自分は。
ただ、涙が頬を伝うだけ。
「…嫌!」
そこで、飛び起きた。
悪い夢を見た。
心臓がバクバクと音を立てる。
「ご主人様!?どうされました!?」
「ぴゃっ!?」
一緒に寝ていた使い魔とお人形は、心配してくれる。
「…アンリエット様、ご無事ですか!?」
遅れて部屋に飛び込んでくるいつもの侍女に、いつもの風景に、けれど安心は出来なかった。
嫌な予感がする。
このままではアレはきっと正夢になる。
「ジャンヌ…」
いつだって自分を守ってくれる、最高の味方。信頼出来る、大切な侍女に助けを求める。
「このままじゃ、ナハトさんやその大切な人達がみんなが死んじゃう…!私だけじゃきっとお友達を助けられないの、助けて!」
ジャンヌは一瞬面食らったが、頷いた。
「アンリエット様がそれを望むならば、私は全力でナハト様を…異教徒であろうとも、三日月教の皆様をお守り致します。ご安心を」
「ジャンヌ…」
「お話、ゆっくり聞かせていただけますか?アンリエット様」
「うん…!」
「では、その前にまずは呼吸を整えましょう。それから、温かなタオルで顔を拭いて、温かなホットミルクを用意しましょうね。…まだ、時間はありますか?」
アンリエットは小さく頷いた。
「多分…」
「こんな時間に非常識にはなりますが、ジェイド様にもお声掛けしましょう。私一人で対処出来るかわかりません」
「良いのかな…」
「でも、あの人の力も必要でしょう?」
こくりと頷くアンリエットに、ジャンヌは微笑んだ。
「大丈夫。彼の方は、アンリエット様にはベタ甘ですから」
いつもより意識して穏やかな雰囲気を醸し出しているジャンヌに、アンリエットはやっと安心して息を吐いた。




