星見教
「…ナハトさんが言っていた、星見教」
ナハトが帰った後、アンリエットはぽつりと呟く。
「気になるかい?アンリエット」
「はい…」
アンリエットの少し心配そうな様子に、ジェイドがその肩を叩く。
「大丈夫さ!ナハトが言っていただろう?彼らの主から信徒への加護がまた得られたと。天使であるアンリエットの血のおかげだとも。そう簡単に星見教にやられはしないさ」
「でも…」
アンリエットにとって、ナハトは既に数少ない友達だ。その脅威となり得る星見教。彼らは、ナハトの両親の仇でもある。
気にならない、とは言えなかった。
「…ふむ。なら、ちょっと星見教についての本がないか書庫を覗いてみようか。俺もお邪魔していいかい?」
「は、はい!」
ということで、ジェイドとアンリエットは星見教について少しだけ。危険のない範囲で調べてみることにした。
「なるほどなぁ。奴さんがナハト達三日月教を敵対視する理由は彼らの主の存在だな」
書庫の本を調べるという平和な手段で、色々調べてみた結果。アンリエットとジェイドは、まだなんとなく程度だが星見教のことを知ることが出来た。
「星見教…古くは、満月教」
「宗教としての名前を変えたのは、おそらく新月教の主…ヴァンパイヤに、自分達が主と仰ぐ存在を知られるわけにいかなかったからだな」
その星見教の主。それは、ヴァンパイヤの宿敵であろうことが推察された。
「星見教が崇拝する主…美しい人の姿に化けることのできる、獰猛な狼。その特徴から察するに…」
「人狼、だろうな。少なくとも新月教の伝説では、ヴァンパイヤと人狼は同じ魔族だが対立関係にある」
「そして、その星見教が人狼を崇めていることをナハトさん達三日月教は知らない…」
「知られないよう、警戒して隠蔽しているんだろう。敵に手の内を明かすことを避けるために」
「…ナハトさん達は、大丈夫でしょうか」
不安気に瞳を揺らすアンリエット。友達に、確実に危機が迫っている。だが、そんなアンリエットにジェイドが強気の笑みを見せた。
「ナハト達は三日月教の信徒。俺たちには居場所は明かされていないし連絡を取る手段はあちらからのコンタクトのみ。心配してもどうしようもないが…アンリエットのお友達だからな。もしナハト達に何かあった場合、それを知ったら俺を頼ればいい。アンリエットに呼ばれたら、いつだって駆けつけてやる」
「ジェイド様…ありがとうございます!」
アンリエットに甘いジェイド。そんなジェイドに、アンリエットはようやく安心して微笑んだ。




