ナハトの訪問
「アンリエット様。ナハト様から来週に、アンリエット様にお会いしたいとご連絡がありましたよ。どういたしますか?」
「もちろん了承の返事を出して!」
「かしこまりました。お伝え致します」
アンリエットは、連絡をもらってからナハトに会えるのをワクワクと楽しみにしていた。
そして一週間後、ナハトはアンリエットの元へ訪問してきた。
「こんにちは、アンリエット嬢」
「こんにちは、ナハトさん!」
「つまらないものだが、良ければ受け取ってくれ」
ナハトはリーベンの手作りの菓子を手土産に持ってきた。丁寧にラッピングされたそれを、アンリエットは大切そうに受け取る。
「ありがとうございます、ナハトさん!」
「姉の手作りの菓子だ。味は保証する」
「せっかくなら、お話しながら食べましょう!お部屋に戻ったらさっそく紅茶を淹れて、ジャンヌ!」
「かしこまりました」
そしてアンリエットは、ナハトを私室に招き入れる。そこには当然のようにジェイドがいた。アンリエットから、ナハトが来ると聞いてまた三日月教の話が聞けるかもと強制参加を決め込んだのだ。
ナハトも特別ジェイドに何を言うでもなく、「よっ!ナハト」と無邪気に手を振ってくるジェイドに軽く会釈をして隣の席に座った。それにアンリエットも続いて、二人の向かいの席に腰かけた。
ジャンヌは慣れた手つきで紅茶を淹れる。
「これ、ナハトさんのお姉様の手作りのお菓子だそうなんです!みんなで食べましょう」
「いいないいな!ありがとうな、ナハト!」
「礼には及ばない。そうそう、主からの伝言だ。アンリエットに」
「なんでしょう?」
アンリエットが首を傾げれば、ナハトは穏やかな表情で続けた。
「久方ぶりの天使の血、実に甘美であった。感謝する…とのことだ」
「まあ!」
「もう一つ。小さな主も、とってもとってもおいしくて、げんきでたよ!ありがとう!…とのことだ」
「あら…ふふ!」
ナハトの言葉に、アンリエットは笑う。
「ご満足いただけたようでなによりです。ですが、あの少量の血で足りましたか?」
「ああ。主は元々少食なんだ。ほんの少しの血で食事は足りる。それも、食事も三日月の夜だけで済むんだ。他の生物より燃費が良い…らしい」
「ほう!新月教で伝え聞くヴァンパイヤ伝説とは相違があるな!ぜひ詳しく聞かせてくれ!」
ナハトはアンリエットに会いにきたはずが、すっかりと好奇心に突き動かされたジェイドに付き合わされてしまった。しかし、新月教の人間とこうして三日月教について語り合う時間はやはり貴重で、なにより嬉しい。
自然と笑顔になるナハトに、横で聞いていたアンリエットも楽しそうに微笑んだ。それを見て、ジャンヌもナハトへの好感度をこっそりと上げていた。ルロワとルーヴルナはやはり、三日月教の話は物珍しく楽しそうに会話に混ざっていた。
主の言葉を確かにアンリエットへと伝えたナハトは、また来ると告げて満足そうに帰路に着いた。




