ナハトの事情
「ナハト、お帰り」
「姉さん。ただいま」
迫害された三日月教の信徒である少数民族。彼らは結束が強い。特に、家族間では。
「天使の血を主に捧げたと聞いたわ。よく頑張ったわね」
「うん、ありがとう」
ナハトは、幼い頃に両親を亡くした。三日月教の信徒はヴァンパイヤによる加護を受けているので病気にはならないし、多少の事故程度では死なない。また、魔術が得意になるので個人差はあるが戦闘能力も高い。では、そんな中で何故ナハトの両親が亡くなったか。
それは、新月教とはまた別の宗教…星見教の教徒に襲われたからである。三日月教は星見教についてあまり知らないが、星見教は三日月教を目の敵にしているらしい。そして星見教の教徒は主と仰ぐ者から加護を得ているようで、三日月教の教徒との戦闘に及び双方死者を出すことがある。
星見教も新月教に迫害される少数民族なので、手を取り合うことが出来ないかと三日月教側は手を差し伸べているが…その手はいつも叩き返されるのだ。
「最近、ご加護を受ける機会が増えたわね」
「血を捧げているのもあるけれど、星見教への防衛策でもあるね」
「星見教…怖いわ」
「姉さんは僕が守るよ。そのために強くなったんだ」
唯一の家族である、姉。守らなければならない人。この人を守るために、僕は生まれてきた。…そう、ナハトは思っている。
そして、姉であるリーベンもナハトを同じように思っていた。
戦闘においてどうしても男性には敵わず任務などには参加できないし、出来ることは少ないかもしれない。それでも可愛い弟を支えることこそ、リーベンの喜びだ。いつかは一族の中で一番血の遠いお嬢さんを嫁に迎えるだろう。そして同じ頃自分もお嫁に行くことになる。それまでは、家族の時間を大切にしたい。
「ありがとう、ナハト。頼りにしてるわ」
「うん、任せて」
そんな境遇のナハトとリーベンだから、新月教より星見教を恐れている。それだから、三日月教に偏見のないアンリエットに対してナハトもそこまで偏見なく接することができたのかもしれない。
ナハトはリーベンに夕飯の用意をしてもらうと、アンリエットの話をした。リーベンはアンリエットの話を聞いて、とても喜んだ。ナハトに一族の外のお友達が出来たと。ナハトはリーベンのその様子に、照れ臭そうに笑った。
「早速今度のお休みに、会いに行っておいで」
「うん。主から御言葉を預かっているからね」
「ふふ、仲良くね」
「うん。アンリエット嬢にたくさんお話を持っていかないと」
「一族に伝わるお伽話とかも喜ばれると思うわ」
リーベンの提案に、ナハトは頷く。
「それは良いね!今度姉さんに昔読んでもらったお話を聞かせてあげようかな」
「良いと思うわ。ふふ、ナハトすごく楽しそう」
「うん、姉さんにもお土産話を持ってくるね」
「それは楽しみだわ」
姉弟の楽しそうな会話は、尽きることはなかった。




