魔導師
「さて、そろそろ来る頃かな」
ジスランがそう言うと、応接間のドアが開いた。
「ご名答ー!」
黒い髪に黄金の瞳。ウラリー王国魔導界のトップ、ジェイドがノックもせずに入ってきた。
「ノックもせずに入るな」
「なんだよー、俺たちの仲だろー?」
「うるさい」
「ひっでーの。でもそんなお前も好きだぜー?」
「気持ち悪いこと言うな」
二人のやりとりを見て、アンリエットはくすくすと笑う。それにジェイドが反応した。
「君がアンリエットか?」
「申し遅れました。私はアンリエット・フルール・エステルと申します。父がいつもお世話になっております」
「へー…天使様は中身まで天使だな。可愛い」
「手を出したらぶちのめすぞ」
「しないしない!褒めただけじゃんかぁ…」
ジェイドは困った顔を作るが、内心ジスランの反応を楽しんでいる。それを理解しているジスランは呆れてため息をついた。
「あ、アンリエット。俺はジェイド。ジェイド・ローラン・ランメルト。領地はないけど、一応子爵位を賜ってる。よろしくな」
「はい、ジェイド様」
「やっぱり可愛いなぁ…嫁にもらっていい?」
「殺すぞ」
「やーんこわーい」
ジェイドはアンリエットの後ろに隠れる。ジスランは無言で睨みつける。アンリエットはそんな仲良しな二人に嬉しそうに笑った。
「お父様がこんなに人と仲良くしているの、初めて見ました。ジェイド様、本当にありがとうございます。父のこんな姿を見られて嬉しいです」
「そーお?それは良かった。ところで、おじさんアンリエットにちょっとお願いがあるんだけど、いーい?」
「は、はい。なんでしょうか」
「天使様の爪とか髪があると魔導に使えるんだよね。ちょっとくれない?」
「…えーっと」
アンリエットは迷う。髪や爪は、切った分くらいならあげても困らない。だが、相手は男性なのもあって忌避感がないわけではない。
けれど。
「血とか唾液でもいいんだけど」
「爪と髪でお願いします!!!」
恩人がそこまで求めるのなら、仕方がないじゃないか。アンリエットは血と唾液は拒否したが、結局爪と髪は渡すことにした。
「あ、アン?いいのかい?断っていいんだよ」
「でも、恩人ですから」
「さすが天使様ー!ありがとうー!」
アンリエットに感謝を述べつつ、その手をそっととって手のひらに無限に包みに入った飴玉の雨を降らせるジェイド。
「あ、溢れてしまいます!」
「じゃあこのくらいにしようか」
「い、頂いていいのですか?」
「うん、色んな味があるから味わって食べてね。オススメはレモン味」
「お前はどこまでもマイペースだな…」
ということで、爪と髪をお礼代わりに渡すことになった。
「月に一回程度の間隔で回収しに来るから、それまでこの瓶に詰めて保存しておいて」
「はい!」
「じゃあね、アンリエット。日傘、有効に使ってね」
そしてジェイドは帰っていった。ジスランは疲れた、と顔に書いてあって、アンリエットはそんなジスランを見て楽しそうに笑った。