血を捧げる
「それだけで良いのでしたら、喜んで」
「!…本当にいいのか?」
「はい。ただ、身体があまり丈夫ではないのです。加減していただけると助かるのですけれど」
「血を捧げていただけるのなら、人体に影響が出ない程度にとどめるとも。ありがとう、アンリエット嬢。勝手を言って、本当にすまない」
「いえ、いいのです。その代わり、私にたくさん、主と仰ぐ方々のお話を聞かせてくださいませんか?」
アンリエットの言葉に、ジェイドは相変わらず優しい子だと半ば呆れ、半ば愛おしく思う。ナハトは、そんなアンリエットの言葉にさらに感動した。
「本当にありがとう。貴女ような新月教の教徒は初めてだ。みんな我々には石を投げつけるのに」
「まあ!そんなことをされたのですか!?」
「ああ、それが普通の反応なんだ。それなのに貴女と来たら…本当に、感謝しかない」
そしてナハトはアンリエットに一歩近づいた。
「その…申し訳ないが、血を分けていただく儀式を始める。攫うつもりではいたが、一応生き血を保存するケースも持ってきたからこちらに回収させてもらう」
「はい、どうぞ」
「その…魔導師殿。結界を解いてもらえると助かる」
「…まあ、アンリエットが同意しているならそれを尊重するけどな。もし万が一の時は速攻で止めるぞ、いいな?」
「ふふ。大丈夫ですよ、ジェイド様。ナハト様…ナハトさんは悪い方ではないです」
アンリエットの言葉に、ナハトは複雑そうな顔をする。
「いや、最初は貴女を攫うつもりだったのだが」
「それでも、こうして正直に事情を説明してくださいましたもの。ね、ジェイド様」
「…まあ、害意があるようには見えないけどな」
「ふふ。ね?」
「…本当にかたじけない」
そして、ジェイドが結界を解いた。ナハトが不思議な魔術で、アンリエットの血を少しだけ奪い特殊なケースに収めた。
「…これだけいただけば、主は満足されるだろう。ありがとう、痛みはないな?体調も大丈夫か?」
「…はい!なんともないようです。すごい魔術ですね!」
「主から魔力をいただいているからな。魔力の緻密な操作が必要だが、それは僕の得意分野だ」
「まあ!すごいわ!」
「そうでもない」
そこに、席を外していたジャンヌとルロワ、ルーヴルナが戻ってきた。
ジャンヌは、ジェイドがいれば大丈夫だろうと少しルロワとルーヴルナに体術を教えていたのだ。
ちなみにルロワとルーヴルナにせがまれて、アンリエットにまでお願いされたので渋々である。本当はあまりアンリエットからは離れたくないのが本音だ。
「アンリエット様、ルロワ様とルーヴルナ様の本日の体術の特訓が終了しました…何奴!?」
「ぴゃー!」
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「ジャンヌ、私のお客様よ。安心して。ね、ジェイド様」
「あー、うん。変わり者のお客様だ。俺も見てるし大丈夫」
「…失礼しました」
一瞬で警戒態勢に入ったジャンヌだが、アンリエットとジェイドの言葉を受けナハトに頭を下げて謝罪した。ルロワとルーヴルナはアンリエットに走り寄って抱きついた。アンリエットはそんなルロワとルーヴルナを抱きしめて抱っこする。
「あ、いや、こちらこそ侵入してすまない」
「侵入?」
「ジェイド様も気付いたらいらっしゃることもあるでしょう?そう珍しいことじゃないわ」
「…そうですか」
疑問は持ちつつも、アンリエットが受け入れている相手ならと特別問い詰めないジャンヌ。
ルロワとルーヴルナは、しばらく見極めるようにナハトを見つめたが害意がないと判断してアンリエットの腕から降りた。




