神話
ある日アンリエットは、書庫で神話に関する本を見つけた。
「あら…新月教とは違う神話だわ」
国で信仰される神話とは別系統の神話。アンリエットは心を惹かれたらしい。
「今日はこの本を読んで過ごしましょう!」
ルロワとルーヴルナは楽しげな様子のアンリエットに、特に反対することもなく受け入れた。
アンリエットが窓辺で風を感じながら読書する間、ルロワとルーヴルナは簡単な魔法の特訓を二人で楽しんだ。
一方でアンリエットは、三日月教と呼ばれるらしい宗教の神話を読み耽る。
「三日月教は、三日月の夜に特別な儀式をしていたのね…」
少なくとも、アンリエットの暮らすウラリー王国の民は満月の夜に最も魔力が高まり、新月の夜には魔力が足りなくなる。だからこそ新月の夜、神に祈りを捧げているのだが…三日月教は、違ったらしい。
「三日月の夜、自らの血を主に捧げる…ちょっと怖いわ。でも、神聖な儀式だったのね」
アンリエットは、三日月教の主を思い浮かべる。
「どんな神様なのかしら…イラストが今のところないわ」
肌は白く、鋭い牙。人の血を好むされる神。
「…なんだか、神様じゃなくて」
魔族。それが頭に浮かんだ。ヴァンパイヤ。そう呼ばれる種族が一番近いような…。
「…うーん。魔族の奉仕種族の神話なのかしら」
ヴァンパイヤを崇拝する人間もいたのかもしれない。アンリエットは、それはそれで面白いと思った。
「人と魔族の共生が昔からあったのなら、それはそれですごいことよね」
血を捧げる、とはあるが死ぬほどの量ではないらしい。逆に彼らの主も、彼ら信徒に魔法による加護を与えていたとの記載もある。彼ら信徒は、他の人間よりより多い魔力を得られていたという。
「ふふ、やっぱり神話はどこのお話も面白いわ」
他にも、主を怒らせてしまった時の話や主に助けられた少女の話などたくさんの三日月教のお話を読むことができた。かなりボリュームのある本だったため、気付いた時には日が暮れてしまっていた。
「あら、もうこんな時間?面白かったわ」
アンリエットは三日月教の神話の本を、書庫に戻す。
「ふふ、今度また別の神話の本も探してみようかしら!」
ご満悦の様子のアンリエットに、魔法の特訓を楽しく続けた結果身体はへとへとになったルロワとルーヴルナはそろそろ構えと抱きついた。
「ご主人様!そろそろ構ってください!」
「ぴゃー」
「あら!うふふ、ごめんなさいね?二人とも待っていてくれてありがとう!一緒に食事をして、お風呂に入りましょうか!」
「ぴゃー!」
「はい!」




