夢を見た
「お母様」
「なあに?アンリエット」
「私とお母様はどうして体が弱いの?」
「それはね、天使だからよ」
「天使?」
…ああ、そういえば。天使についての知識は、幼い頃に教えてもらっていたのだ。今更、思い出した。
「天使には、魔法や魔術は使えないの。そして、天使は魔法や魔術の触媒には最適。だからね、アン。お父様のそばを、離れちゃダメよ」
「はい、お母様!」
この頃は、まさか母があんなにも早く亡くなるなんて思っていなかった。
でも。
「お母様、大好きー!」
「ふふ、アンのほっぺはむにむにね」
それでよかったのだと思う。何も知らず、母に甘えているくらいでちょうど良かった。
その日々は、すごく楽しかったのだから。
「お母様、見て!蝶々!」
「可愛らしいわね」
「捕まえる?」
「いいえ。好きに飛んで、好きに生きるのが一番だわ」
「そっかぁ」
お母様との日々は、正直幼かったせいであまり思い出せない。けれど時々、こうして夢に見る。その全てが、愛おしい。起きたら、何故か忘れてしまうのだけど。
「お母様、ずっと一緒にいてね!」
「…ええ。ずっと、ね」
ああ、まだこの幸せな夢を見ていたいのに。
もう、刻限だ。
「おはようございます、アンリエット様。朝ですよ」
「んん…おはよう、ジャンヌ」
「…泣いてらっしゃるのですか?アンリエット様」
そう言われて気付く。泣いていたらしい。
「あれ?なんでかしら」
「嫌な夢を見ましたか?」
「んー。そうなのかしら。よく覚えていないの」
「では、さっと顔を洗って気分を切り替えていきましょうか」
「そうするわ」
アンリエットは、夢の内容は覚えていない。それが良いのか悪いのかは、誰にもわからない。




