表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

6 崩れぬ岩 溶けぬ氷

「カティア!」

「アーヴィング様!」

「聞いたか!?」

「聞きましたか!?」


 カティアとアーヴィングは互いに頷き合う。


 お互いほぼ同じタイミングで道の途中でバッタリ出会った。彼らの目的が同じだったからである。


「いったいどうされたのですルイス様は? あんなに仲良しだと思っていたのに突然このような!?」


「うー……すまん、カティア。俺がいらん事を言ったせいかもしれん」


 アーヴィングが事の経緯をカティアに話すと、

 

「……やはりルイス様とお姉様は少し思考回路が独特ですわね。私たちも口喧嘩して別れ話みたいな事を勢いで言ったりはたまにしますけれど、今回のお姉様たちのはなんか違いますわよね。やばいですわよね」


「ああ。俺たちはただの口喧嘩だ。俺はカティアを一番に愛してる。喧嘩してお前なんかとは別れてやる! みたいな事を言ったりした時もあったけど、そんなのは口から出たでまかせに過ぎん。だが、あの兄様たちがこんな事になったのは初めてだ。どうしようカティア。このままじゃ俺、親父に殺される」


「んもう、情けないですわね。でも困りましたわ……このままだと、私たちのお父様やお母様もどんな騒ぎになるやら……」


「や、やっぱりまずいよな何か手を打たねえと……」


「こうなったら奥の手ですわ」


「おお!? 何か良い策があるのか!?」


「ええ。アーヴィング様、私たちも別れましょう!」


「は!? 何故だ!? 嫌だぞ俺は!?」


「演技ですわ演技。いいですか? 私たちも婚約破棄をすれば、お姉様たちが復縁せざるを得ません。お姉様たちが復縁したら、私たちも元に戻りましょう」


「な、なるほど……」


「でもそれだけじゃまた別れ話になってしまうかもしれません。なので、こう致しましょう」


 と言ってカティアが打ち出した提案、それは――。




        ●○●○●




 ――数日後。王立学院隣の大宮殿にて。


 今日は月に一度開催される月例舞踏会。16歳を迎えた淑女は今日という日がデビュタント(社交界デビュー)となる。


 大勢の人がひしめきあう中、一際目立つ男女が二組あった。それは目を見張るような紳士と淑女のお似合いのカップルという意味合いもあるにはあるのだが、コレに至っての理由は単純なそれではない。


「おい……アレはどういう事だ?」


「いや、わからん……。マリアージュ家とグランドール家は頭でもおかしくなったのか?」


 そんなざわめき、ヒソヒソ声が飛び交う。


 何故なら、舞踏会場で目立つその二組はマリアージュ家とグランドール家のちぐはぐな状態のせいであった。


「俺でいいのかカティア」


「ええルイス様。もう私とアーヴィングも別れましたもの」


 無骨な岩の男、ルイスのパートナーには妹のカティアが。


「リエラ……ほんっとうにすまない……」


「何を謝る事があるのですかアーヴィング様。私はむしろありがたいですわ」


 氷の令嬢、リエラには弟のアーヴィングがパートナーになっていたからである。


 これこそカティアが打ち出した作戦。パートナーを入れ替えてリエラとルイスの本心を引き出す作戦だ。


 リエラとルイスはどう見ても相思相愛なのをカティアはよく理解している。ただお互いに愛という感情を鈍らせてしまっているのは刺激が足りないからだと思った。そこで互いに別のパートナーが舞踏会で共に居れば、嫉妬心から本心に気づくのではと考えたのである。


 そしてパーティは開始され、食事や語らい、ダンスの時間が訪れる。


 一斉に男女のペアで踊るワルツの時間だ。


 そしてリエラの華々しいデビュタントはまさかのアーヴィングと踊る事となる。


 小気味の良い音楽が流れ、ダンスが始まる。


 アーヴィングは魔法は苦手だが歌やダンスといったリズム感を必要とするものは得意で、リエラをしっかりサポートし、素晴らしいダンスを披露して見せる。


 二人のダンスをルイスと共に見ていたカティアは、チラリ、とルイスの様子を窺う。


「うむ。これでいい」


 しかしカティアは誤算であった。


 カティアをエスコートし隣にいるルイスは、何故か腕を組んで満足そうな顔をしているのだ。


 カティアの予想ではこのワルツをアーヴィングと踊らせる事で、ルイスをやきもきさせてやろうという狙いがあったのに、全く効果がなかった。


「な、なあリエラ」


「なんでございましょう、アーヴィング様」


 ワルツを踊りながら、アーヴィングとリエラは小声で会話する。


「さっきからその言葉づかい、やめないか?」


「私はただのいち男爵令嬢にすぎません。公爵令息にあたるアーヴィング様に失礼な言葉は使えません」


 アーヴィングは頭を抱えたくなった。


(どう見ても怒ってるじゃんか……)


 リエラの表情の変化は乏しくても、その態度はあからさまだ。

 そもそも以前までリエラは、ルイスとアーヴィングにはもっと砕けた喋り方だった。


 そしてこんな話し方をするのは初めてではない。彼女が何か気に入らない時にしかならない状態なのである。



この作品をご一読いただき、ありがとうございます。


もし読まれてみて面白かった、続きが気になると思われた方は、この下にある【☆☆☆☆☆】評価とブックマークなどで応援してくださると嬉しいです。


誤字脱字報告や些細な感想まで全て受け付けておりますので、遠慮なく頂ければ幸いです。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ