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10 愛の形は人それぞれ

「ふう、良い汗をかいたな。どうだカティア。これでだいぶ暖まっただろう?」


「はい」


「ははは、カティアもだいぶ落ち着いて大人になってきたな」


 ルイスは笑うが、カティアはこのロマンスの欠片もない男の謎の筋トレに付き合わされて、呆然としているだけである。


 と、そこに。


「ルイスざまッ!!」


 突然、木々の隙間から大声を発して現れた女性の声にルイスとカティアはギョッとした。


 そこには号泣しているリエラの姿があったからだ。


 リエラはルイスとカティアの方へ走り寄り、


「馬鹿ッ!」


 パンッ、とルイスの顔を引っ叩いていた。


「リエラ……?」


 ルイスは呆然として、リエラの方を見る。


「馬鹿! ルイス様、どうしてカティアと一緒に筋トレを……! 本当に、本当に私の事なんてどうでも良いのね!」


「リエラ、違う。俺は」


「違くないわ!」


「いや、聞いてくれリエラ。俺がカティアとやったのは、まだただのスクワットだ。当然それ以上の事はしていない」


「本当、ですか?」


「ああ。特別メニューはお前とだけでしかやらないと前にも言っただろう」


「ふぅううう……」


 リエラは泣いている。


「マジか……」


「お姉様が泣くなんて……」


 カティアとアーヴィングは初めてリエラの泣く姿を見て驚愕としていた。氷の令嬢が涙する姿を見た事がなかったからだ。


「リエラ、俺はお前に言わなくてはならん事がある」


 ルイスは、涙を流すリエラの肩を掴んで真剣な眼差しで見据えた。


「お前が女として見れないと言ったな。アレは嘘だ」


「嘘?」


「ああ。そこだけは嘘だ。俺はお前以外の女の裸は見たくないと思った。つまり女として見ている。よってアレは嘘だ。お前とアーヴィングをくっ付ける為の嘘だ」


 何を言っているんだお前は、と思っているのはカティアとアーヴィングだけで、どうやらその言葉はリエラには不思議と届いているようで、


「さっきカティアと話した。愛し合う男女は裸の付き合いがある、と。それはおそらく俺が長年開発を続け、最終的に突き詰められた究極トレーニング法のアレに近い行為だと理解した。俺の究極トレーニング法、あれはリエラ、お前としか俺はやりたくない」


「はい……はいッ! 私もよ、ルイス様ッ!」


「すまなかったリエラ。俺はどうやらお前の事が一番好きみたいだ。婚約しよう」


「私も愛しておりますルイス様。婚約、し直しましょう」


 そう言って二人は抱き合った。


 マジで意味がわからなさすぎるので、良い加減痺れを切らしたアーヴィングが声を出す。


「ちょっといいですかお二人さん」


「うむ、どうした弟よ」


「俺たちさっぱり理解が追いつかないんですが、どういう事か説明してもらえますか?」


「わからんのか、馬鹿め」


 ルイスは勝ち誇ったかのようにリエラの肩を抱きながらそう言うと、


「お姉様。私も全く意味がわかりません」


「ごめんなさいカティア。あなたたちには少し難しいお話だったわ」


 と、何故かこれも上から目線で言われ、基本姉が大好きなカティアでさえ、なんかイラッとしていた。


「ふう、仕方がない。まだお前たちは精神的に幼いようだから俺とリエラが説明してやる。なあリエラ」


「ええ、そうねルイス様」


 なんなんこの二人殴って良い?


 と言わんばかりの表情でカティアとアーヴィングは顔を見合わせるが、黙って話を聞く事にする。


「それにはまず俺たちの秘密から話さねばなるまい。いいか? リエラ」


「こうなれば仕方ないわ。ルイス様、全て教えて差し上げて」


「リエラの許可が降りたので話そう。俺とリエラは裸の付き合いの最高峰を行っている」


「「!?」」


「お前たちが驚くのも無理はない。リエラは俺の肉体全て、隅から隅までを把握している。もちろん下半身の局部も含めてな」


「ルイス様はつとめて冷静だけど、私はそれはそれなりに恥ずかしい行為だと理解しているからあなたたちには話さなかったの」


 ルイスとリエラの言っている事がぶっ飛びすぎてて、カティアとアーヴィングは口を開いたまま、眉間に皺を寄せていた。


「俺の究極の鍛錬法では、やはり衣類など邪魔なのだ。俺の肉体の問題点を見てもらう為にリエラに協力してもらっていた。さすがリエラは武に長けたマリアージュ家の者だ。俺の筋肉のつき方、魔力の行き渡り方について全て細かく適切に解説してくれた。そして俺は裸のまま、リエラの前でのみひたすらにトレーニングを重ねていたのだ」


「でも私が言ったの。そのトレーニングは私の前以外でやる事は非常識だから、絶対に駄目よ、と」


「うむ。だが先ほどカティアに言われた男女間の裸の付き合いの話を聞いて思い出したのだ。俺はリエラ以外とアレをやる気にはならん、とな」


 それから更に詳しく説明を進めるルイスとリエラだが、一般常識人のカティアとアーヴィングには理解の限界であった。


 とにかくよくわからないが、ルイスの中では裸を見せる、という行為が全く恥ずかしくないわけではないらしく、それをカティアに諭された時、リエラ以外に見られたくはないし、逆にリエラの裸を自分以外の者が見るのは我慢がならない、と言った。


「リエラの身体を見るのは俺がやるべきだ。俺以外にリエラを完璧に磨けるものなどいない。もちろん筋肉だけではないぞ。骨格形状、肌の状態、関節の柔軟さ。それらを確かめる為にリエラを生まれたままの姿にする必要があるが、それをやってもいいのはやはり俺だけだと思い直したのだ。すまないな、アーヴィング」


 ルイスはアーヴィングの肩をぽん、と叩いて言った。


 アーヴィングもカティアも呆れ顔だったが、でもきっとこの堅物の岩のルイスにはそれが最高の愛の形なのだろうな、と理解しておく事にした。


「じゃあ兄様、婚約破棄の件は……」


「ああ、無しだ。やはり俺はリエラとしか結婚できん。リエラ以外の肉体を見たいと思わぬわ。はっはっは」


「まあ、ルイス様ったら。相変わらずおバカね。うふふ」


 とにかくこうして無事、元の鞘に収まったのである。


「じゃあ俺たちもまた元に戻るんで……なあカティア」


「ええ……そうですわねアーヴィング様」


 二人がそう言うと、ルイスが思い出したかのように、


「そうだアーヴィング。お前はいいのか? リエラと結婚したかったのだろう?」


「いや、だからそれはガキの頃の話であって、今の俺はカティア一筋なんだよ。ちゃんと話聞けよ兄様」


「なんだ、そうなのか。全く、貴様の言葉が足らないせいで危うくわけのわからん事になるところだった。なあリエラ」


「本当ねルイス様。アーヴィング、気をつけなさい。カティアもあまりルイス様を茶化さないように」


「「はい、すみませんでした」」




 岩の令息。氷の令嬢。


 彼らの事は、実の姉妹、兄弟ですら計り知れない。


 だが、そんな彼らもほんの少しずつ、男女としての愛を理解し始めているのだろうな、とカティアとアーヴィングは思った。




 二人は顔を見合わせて、呆れながらも苦笑し、そしてひと安心していたのだった。






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