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誰が為の生  作者: 早乙女なな
3/14

生きながらの死 3

私の家はマンションの二階。

元々高い所が苦手だったからこの階にしたのだが、今ではそんな自分を少し呪ったりもしている。


水色の古いドアを開けて玄関に入る。靴を脱いで、上着をリビングのソファに雑にかける。

洗面所で手を洗って、冷蔵庫を確認する。

「あ、卵がない」


卵があれば料理はなんでも出来るのに、なぜか卵を切らしてしまっていた。

深いため息一つついた後、ソファにかけた上着をもう一度着て、軽い荷物だけを持って家を出た。

卵の味にこだわる人もいるが、私はどうでもいいので、近くのコンビニに売っているものを適当に買っている。


今日も目の前にあったコンビニに入り、パックで売られている白い卵を買った。

店を出て家の方向に歩き出した途端、足が突っかかり前のめりに倒れる。


こういう時は、全てがスローモーションに見える。だからか、受け身は難なく取れた。

それに加えて、先程買ったばかりの卵が、パックを飛び越え汚いコンクリートの上にベチャッと落ちる瞬間もハッキリと見た。


ああ、もったいないなあ。なんて考えている間に、頭を強く打ち付ける。

あれ、受け身は取ったのに。


激痛。それより、卵を買ったお金が無駄になったことが悔しかった。

「痛ったぁ……」


「だ、大丈夫ですかっ」

男の声だった。見れば短髪の赤髪をした、同い年くらいの男が、私に走りよってくる。

「怪我してませんか?救急車呼びましょう」

「い、いや、救急車呼ばなくても大丈夫です」

それより卵が。と、私は床に落ちた卵を指した。


あ。と、男の口が開く。

「あ、待っててください。買ってきますっ」

男は、私が先程出て来たばかりのコンビニに駆け足で入って行った。


「いえ、大丈夫です……」

と、男にはもうとっくに届かない言葉を口にする。

突然走ってやって来たあの男は誰なのか。私には身に覚えもなかった。


大体、気持ち悪く落ちた卵を見れば、そうですか残念でしたねだけで済ませてしまいそうなものだが、あの男はそうではなかった。

少しすると、男はコンビニから出て来た。手にはビニール袋をさげている。中にパックの卵が入っているのだろう。


「レジ袋、有料ですよね?」

「いいんです。エコバッグも持ってないでしょ?」

その通りのことを言われて何も言えないので、静かにうなずく。

「やっぱり、へへっ」


変な笑い方をしながら、私にビニール袋を差し出してくる。

「はい、お待たせしました」

「あ、ありがとうございます」

礼だけ言って、その場を去ろうとする。


「あ、ちょっと待って」

男が私を呼び止める。何?もう用なんかないよ。

これ、と言われて渡されたのは、神社にある御守りだった。

「また転ばないように」


男は悪気もなく笑顔で私の瞳を見つめている。

「はあ、すみません……」

あまりもらいたくはなかったが、恐らく相手に悪意はないので、もらっておく。


じゃあこれで、と言って、半分駆け足で男から離れる。

男は戸惑いながら、片手で頭をかき、片手で私に向かって手を振っていた。

照れてるんだが、カッコつけたいんだかわからない。


何あいつ。

第一印象はそんな感じだった。


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