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ネズミ

 ネズミはどこにでも潜り込み、目的の餌を齧っていく……。



「なぁ、技術士さんよ、これどうなってるんだ? まさか本当に『幽霊が閉じ込められている』なんて言わないよな…?」


 目の前の操者パイロットが、まるで子供の様に怯えた顔で俺に訴えかけてくる。


「そんなわけ無いでしょう。幽炉ってのは工業製品ですよ? そんな得体の知れないモンが入り込む余地なんて有りませんから。接続の際のノイズですから大丈夫ですよ」


 俺も子供を諭す親や教師の様に振る舞う。慣れた風景。


「そうは言うけどさぁ、『苦しい』とか『痛い』とかハッキリと言ってくるんだぞ? 輝甲兵の中には俺しか乗ってないし、俺は痛くも苦しくも無いのにやっぱりおかしいだろ」


「…ふう。少尉さん、アンタお疲れの様だから少し休暇を取ったらどうだい? 特別に縞原重工の保養所のチケット分けてやろうか?」


「休めるものならオレだって休みたいよ! でも最近『虫』の攻勢が激しくて非番も非番になってないし、部屋で眠ろうにも例の声が頭に響いて一睡も出来無いんだ…」


「俺がアンタの上司に直接話を付けてやるから、まずは休みな。もう変な事は忘れてノンビリしてきなよ」


 俺は操者の肩にポンと手を置く。


「そうは言うけど俺が居ないとこの基地が…」


 操者の声はそこで途切れる。俺の手に備え付けられた小型テーザーによる電気ショックで、彼の神経と意識は一時的に機能を停止し、全てを俺に委ねるようにもたれかかってくる。


「ほらやっぱりお疲れなんだよ。医務室に連れて行ってやるから寝てなって」


 周りには他の操者や整備兵らも居る。彼らの目を糊塗する為に、俺もひと芝居打つ必要がある。なんとも無駄でバカバカしいとは思うが、これも仕事だからな、仕方ないさ。



 俺の仕事は指定された奴を指定された場所に連れて行き、指定された奴に引き渡すだけだ。

 獲物(ターゲット)がどんな奴で何をやらかしたのかは知らないし興味も無い。


「よし、ご苦労さん。仕事の早い奴は好きだよ」


 医務室で俺の獲物を受け取った男は、全く感情の篭もらない声で俺を賛辞する。

 彼の後ろに控えていた2人の男がターゲットを両側から挟んで拘束する。


「いつも通りに運んでおけ。…このパターンだと今回は『精神病院無期入院』コースかな?」


 …やめてくれ。俺はそんな事には興味無いんだ。


『会話を切る』 ただその為だけに煙草を咥え火を点けた。クソ不味い煙に肺がいぶされて、ただでさえ悪い気分が更に悪くなる。


 俺は『ネズミ』と呼ばれる縞原重工お抱えの特殊部隊の1人だ。ネズミはどこにでも潜り込み、目的の餌を齧っていくのさ……。


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