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『隣人』

死人に語る口はなし

作者: 鈴木

 一日にして両親を失った赤ん坊は、双方親族がいない為に、魔術師ギルドによって運営されている、保有魔力の高い子供(孤児とは限らない)ばかりを集めた施設で養育されることになった。

 両親の思惑通り、その赤ん坊は母親を越える魔力を有していたからだ。


「しかし、あの女はなんだって凡庸な魔力しか持たない夫を選んだのでしょうね」


 日当たりの良い部屋の窓際で、雇っている世話人の女に抱かれて眠る赤ん坊を入口そばから見遣ったギルドのサブマスターは、どうにも解せないと言いたげに眉を顰めながら傍らに立つギルドマスターへ問い掛けた。


 魔道具の共同研究をするなら魔力は多いに越したことはない。魔力量の大小は出来ることの幅に無情な差をつける。魔道具の扱いでは、その差が露骨に出ることも珍しくない。


「直接聞いたわけではないが、親しかった者が言うには、魔力相性がこの町の住人の中では最高だったからだ、と当人は明かしていたそうだ」

「魔力相性ですか」

「生まれて来る子供が受け継ぐ魔力規模に期待が持てるという意味だ」

「魔力量は親は関係ないのでは?」


 この世界の定説を口にして、サブマスターは更に眉間の皺を深くする。

 一般的にはそう言われており、実際間違ってはいない。

 魔力量の大きい親からは大きい子供が、小さい親からは小さい子供が生まれ易い傾向にある、と統計を取って主張する者もいるにはいるが、真実は全てただの偶然だ。

 魔力量と遺伝に因果関係はない。

 それがこの世界の真実だ。


 つまり。


「女がそう思い込んでいただけだな。実際は関係ない。生まれてきた子供が都合良く母親を越える魔力量を有していたのも完全な偶然だ」

「そう言えば父親の方も同じようなことを言っていましたね」

「自身がそれなりの魔力規模のある両親から生まれてきた事実を棚上げにしてな」

「自分は例外であって、本来なら子供は両親と同等量の魔力を持って生まれて来る筈と?」

「自分は上手く発現しなかっただけで、その因子は持っている筈だから、魔力量の大きい女と子供を作れば確実に高魔力の子供が生まれると思い込んでいた」

「双方、素直でないだけで、気持ちをあけすけに表せない代わりにその妄想を言い訳にしたということは?」

「……君がそうした夢想的な可能性を口にするとは思わなかったな」


 本気でそう思っているのだろう、皺の多い目元を全開にして吃驚を表すギルドマスターに、サブマスターは冷めた表情で肩を竦めた。


「それこそ一つの可能性を提示したに過ぎません。ただの思い付きで現実性は考えませんでした。戯言です」


 らしくないことを言ったと体裁悪く取り繕っている風でもなく、その言葉に嘘はないのだろう。

 ギルドマスターも深くは追求せず、そうか、とだけ頷いてきっぱり否定した。


「ないな。どちらもひらすらに研究一辺倒だ。少々病的なほどに」


 それは自身がギルドという組織内で見てきた双方の姿から導き出した人物像だった。

 慧眼のある人物ではある。

 しかし、他者が断言出来るほどに人の内面は単純なようで、その実、複雑でもある。


「そうですか」


 サブマスターは頭ごなしに否定はしなかったものの鵜呑みにもせず、内心では死人に語る口はなし、ともはや永遠に解消されることのない不可解を意識の外へ追い遣った。

 元より固執するような疑問でもなかった。










覚書

ギルドマスター シナムケッド・ネーニンメージー

サブマスター  ビルザリエサ・パドゥルーヴ

赤ん坊     ヴィベータ・ホーシューヌ

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