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70話 別のナニか

更新が滞ってしまい、すみませんでした……!

3章完結まで更新していきますので、よろしくお願いします!


 一瞬自身の目に映るものを理解できなかったイゼルだが、すぐに現実を認識。


「リュースさんっっ!!」


 悲痛な叫び声が響くと、全員が我に返る。


 リュースの胸を腕で貫いたのは、あろうことか――ロイトだった。


「チッ。咄嗟に身体を捻ってズラしやがったか」


 ロイドの腕には、半分にかけた血濡れの魔石が握られている。


「ロイトォォォオオッッ!!」


 即座に飛び込んだドロテアが蹴飛ばすと、壁を突き破り音を立てて転がっていくロイト。

 ドロテアは崩れ落ちるリュースを受け止めると、ポーションをかけようとした。

 それを、リュースが弱々しい力で腕を掴んで止める。


「ドロテア……僕のことはいい……。それよりも、アイツを逃がすな……」


「な、何言ってんだい! これくらいの傷、きっと治るよ!! だからそんなこと言うんじゃないよっ!!」


 ドロテアは制止を無視してポーションをかけるが、煙が立つばかりでぽっかりと空いた風穴は塞がらない。


 そこへ、首をコキコキと鳴らしながらロイトが戻って来る。


「ったく、いってぇな……。おい、ソイツをよこせ。半分じゃどやされちまうだろーが」


「ロイト、てめぇ自分が何してんのかわかってんのか?!」


 デーテが掴みかかると、ふーとため息をつくロイト。


「雑魚が邪魔してくんじゃねーよ」


「おやめっ!!」


 ドロテアの叫びも空しく、ロイトは面倒そうにデーテの首を手刀で刎ねた。

 ゴロゴロと転がった首は息子であるニクスの前で止まる。


 わなわなと震える手で物言わぬ屍となり果てた父の首に触れ、温もりが伝わって来たことで現実なのだと実感させられたニクスは絶叫。


「と、とうさぁぁああああああああああああああんッ!!!!!!!」


 レッタは父の突然の行動も理解できないし、もう一人の父親のような存在だったデーテの死も信じられず、茫然と立ち尽くしたまま動けない。

 

 ロイトは興味無さそうにレッタを一瞥すると、臆病者がと吐き捨てて横を通り過ぎていく。


「そいつとそこのガキをよこせば見逃してやるからよ、さっさと渡してくんね? こっちもさ、もう帰りてーんだよ」


 ふわぁとあくびをしながら言い放つロイトに、殺気立つドロテアたち。


「何があったのかは知らないが……きっちり落とし前はつけてもらうよ、ロイトォォオオオッッ!!」


 腰の収納拡張魔道具(マジックバッグ)から双剣を取り出し、勢いよく鞘から引き抜くと斬りかかるドロテア。

 ロイトは楽しそうにニヤッと笑うと、全ての剣戟を真っ向から弾いてみせた。


「へぇ……やるじゃん。でも、やっぱ今の状態でも人間にはちと分が悪いかぁ?」


「何訳のわかんないこと言ってんだいっ!!」


 続けざまに双剣を右に左に鋭く振るうドロテア。

 ロイトはそれらを最低限だけ弾き、残りは完全に見切ったうえで躱して見せる。


 十……二十……。

 繰り返される二人の激しい攻防に、ネムですら加勢を躊躇させられていた。


「これはなかなか……。人間にしては頑張ってる方じゃね??」


「さっきから何をっ! あんただって人間じゃないか!!」


「クク……こいつは傑作だなぁ! まだ気付かねぇのかよ?!」


 鍔迫り合いしていたロイトは、双剣を大きく弾き返すと後方に飛び退いた。

 すると、ハハッと不適に笑いながら、両手を広げて自身の姿を見せびらかすようにポーズを取る。


 上から下まで、どこからどう見てもいつもと同じにしか見えないドロテア達は、ロイトの言葉が全く理解できずに眉を顰めた。


「おばあ様、ロイトさんは何者かに操られているのですか……?」


「さっぱりわかんないね……。だが、洗脳にしちゃあまりに動きのキレが良すぎる」


「ロイトによく似た別人という可能性は?!」


「あれが変装だってんなら、冗談きついねぇ」


 ドロテアの言葉に、チラリとイゼルを見やるレーティア。

 イゼルと似たような技能(スキル)を持つ人間……もしくは魔物なら、不可能ではないと思える部分もあった。

 

「ドロテ……ア……。あれは……ロイトじゃ…ない……。今はも…別……の何…か……」


 無理に声を絞り出したせいか、苦しそうに吐血するリュース。


「助ける方法はないのかい?!」


「……」


 ドロテアの言葉に、リュースは力なく首を横に振る。


「……全く、やんなるねェッッ!!」


 ギリッと音が聞こえるほど強く歯がみしたドロテアは、瞳に殺気を宿らせるとロイトの姿をした何かを屠るベく強く踏み出した。


「やっと気づいたのかよォ?! おっせーんだよなァ!!」


 嬉々とした様子で迎え打ったロイトは、先ほどよりも更に鋭いドロテアの一撃に口笛を吹いて感心した様子をみせる。


「一々癪に触るねぇ!」


「おいおい、おれサマはこれでも驚いてるんだぜェ? こんなにつえー人間と遊べんのは初めてでよォ!!」


 ドロテアの熟練した双剣捌きから繰り出される連撃と笑顔で撃ち合うロイトに、戦慄する一同。


 長年側にいたネムから見ても、今のドロテアの動きはほとんど全力に近い。

 それでも尚仕留められないばかりか、相手には余裕すら感じる。


 それはつまり、相手の方が実力が上なのではないか。

 ネムたちがついそんな疑問を抱いてしまうには、十分過ぎると言える状況だった。


 思わず表情が沈んだ弟子たちに気づいたドロテアは、ハンっと鼻で笑って見せる。


「安心しな! いいかい、奥の手ってのは大抵リスクが付きまとうもんだ。だからこそ、使うタイミングを間違えちゃあいけないんだよ!」


「この状況で強がりかよォ?! だったらさっさと見せてみろやッッ!!」


 力づくで鍔迫り合いを押し込むと、意地悪そうに笑うロイト。


 ドロテアは不敵にニッと笑い返す。


「何バカなこと言ってんだい。あんたのような卑怯者に、奥の手なんて使う価値もないよっ!」


「あぁ?!?!」


「ようやく身体が温まってきたところなんだ……。あんたはたっぷりと痛めつけたあと、誰の命令でここへ来たのか吐いてもらうからね。すぐにくたばるんじゃないよッッ!!」


 瞬間、動きのキレが一層増したばかりか、攻撃の手がさらに速くなったドロテア。


「おいおい、まじかよ?! 今までは全力じゃなかったってか!」


 嬉々として応じたロイトだが、徐々に押され始めたことで困惑した表情を浮かべ始める。


 長年の修練により積み重ねられた洗練された巧みな二本の剣捌きに反応が遅れ始めたばかりか、圧倒的な手数に対処しきれなくなってきたのだ。


「凄い……」


 今まで自分が全力だと思っていたドロテアの実力はまったくの勘違いであり、まだまだ底が見えないことに心底感動するとともに、改めて彼女との遠すぎる差を思い知らされたネム。


 それはレーティアたちも同様であり、ドロテアに師事した事で自分たちは更なる高みに登れると強く確信するに至った。


「クソがッ! おれさまが……おれさまが人間(むしけら)風情に押されるなんてこと、ある訳ねぇんだッッ!!」


 頭に血が上り、先ほどまでとは打って変わって力任せな一撃が目立つようになったロイト。


 今のドロテアにそんな攻撃が当たる訳もなく、ロイトの左手による大振りの薙ぎ払いを屈みこんで躱したドロテアは、懐へと潜り込むとがら空きになった胴体部に二本の剣閃を走らせる。


 かろうじて右腕を割り込ませはしたものの、ロイトは勢いよく後方へと吹っ飛び壁へと打ち付けられた。


 右腕は骨まで断たれたものの肉で繋がっており、胸には深々とした傷が刻み込まれたロイト。


「やれやれ……。右腕はもらったと思ったんだけどねぇ。あのタイミングで反応するのかい」


 呆れたようにぼやくドロテア。


 彼女はロイトが斬撃の瞬間に自ら後方へと飛ぶことで、直撃を免れていたことに気づいていた。


「おれさまが強化した身体を斬っただとォ?! ……チッ、わーったよ。心底認めたくねぇ事実ではあるが、仕方ねぇ。テメェはこの状態じゃ倒せねぇくらい強い、人間(むしけら)のくせにおれさま達の領域に足を踏み入れるに至った存在――明確な敵だと認めてやるよ。褒美はそうだな……おれさま()()()()を、その目で最後に拝めることか」


 真顔のまま、冷たい視線でドロテアを見据えたロイト。


 右腕から流れ出ていた真っ赤な血がピタリと止まったかと思うと、突如としてロイトの身体中にある穴という穴から深い緑色の液体があふれ出し、身体の表面を覆っていく。


 あっという間に全身を包み込んだ緑の液体は、バリボリとまるで身体を捕食しているかのような、不快な音を立て始める。


 ドロテアはすぐさま斬りかかるも、まるで水を斬っているかのような、確かな手応えが返ってこないことにますます不気味さを覚えた。


 あまりに異様な状態に有効そうな対処方法が思いつかないまま、やがて音が止むと同時に液体が波打つと、全身に銀鎧を纏う首のない騎士のような姿に変貌を遂げるのだった―――。

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