69話 リュースの発表会
イゼルvsレッタ・ニクスの決闘からおよそ2週間と少しが経過した。
あれから二度レーティアたちは村へと戻って来たが、結局レッタとニクスは謝罪していない。
朝から晩までガイラ山へと篭ることで会わないようにしているにも関わらず、残念だなどとわざとらしく嘆いていた。
リュースはもう一人のイゼルとの邂逅をきっかけに以前にも増して部屋へ篭るようになってしまい、一日のほとんどを研究に充てている。
ドロテアは怒っていたが、イゼルとしては無理に頼むのも憚られたため一人修行に明け暮れていた。
だが、今日は朝いちばんに部屋からリュースが飛び出してくると、一人修行していたイゼルの元へと嬉しそうに駆け寄ってくる。
「イゼル君! 聞いてくれよ! ついに、ついに僕はやったよ! さすが僕だよ、僕ってばすごい!!」
「え? ど、どうしたんですかリュースさん??」
「ああ、ごめんね! フー……。えっとね、イゼル君の問題、その解決の糸口になるであろうことを閃いたんだ。僕の経験から言っても、間違いなくなんとかできると思う。どうだい、すごいだろ?!」
一度大きく息を吐きだして自身を落ち着かせたリュースが、目をランランと輝かせながら語り聞かせた。
「ほ、本当ですか……? 僕はもう、みんなに迷惑をかけるかもって……。誰かを傷つけるかもって、そういう心配をしなくて良くなるんですか?!」
「ああ……そうだよ。僕はもう少し問題がないかの検証をしてみるけど、そう遠くないうちに結果を出してみせるから。もう少しだけ待っててね」
「ありがとうございます……っ!!」
今にも泣きそうな顔でお礼を告げるイゼル。
少しでも早く安心させてあげたい、その一心で経過を報告したリュース。
感情が揺れ動いてしまったため心ノ仮面への影響が気になるところではあったが、怒りや悲しみといったものではないので気にすることをやめ、優しくイゼルの頭を撫でた。
それからおよそ一週間。
ちょうどレーティアたちが報告に戻って来たとき、リュースの研究も確かな結果が出たということで報告会が開かれることに。
広間に一同を集めたリュースは、結果について語り始めた。
そこには、ドロテアの静止も聞かずに参加したレッタとニクス、二人の付き添いとしてデーテとロイトの姿もある。
今日こそ謝罪したいと、勇気を振り絞りやって来たレッタとニクス。
事情を聞いていたドロテアも二人を無下にすることもできず、どうしたもんかと考えているとリュースがイゼルの持病を直す薬とすれば問題ないだろうと言ってくれたのだ。
「まずは僕の方からで良いということなので、さっそく説明しちゃうよ。イゼル君が長年抱えて来た持病は、幼少のころの治療が原因らしくてね。回復薬では効果が期待できず、八方ふさがりだったんだ。でも、そこはめちゃくちゃすごい僕という存在があれば、なんとかなってしまうんだなー!」
ニコーと満面の笑みで自画自賛するリュースに、苦笑いの一同と呆れて言葉もないドロテア。
リュースはこうして自分の成果を人に聞かせるのが好きで、昔から事あるごとに人を集めては発表会をしていた。
そんなことを思い出しながら、ドロテアは相変わらずだねぇと肩を竦める。
リュース曰く、後見への知的好奇心の刺激と知識の享受のきっかけを作る。とのことで、過去の発表会が概ね好評だったことも、ドロテアが止められない原因ではあるのだが。
「治療は魔物の毒に侵されたことによる解毒と傷口の治癒の2つを行ったようなんだけど、この際に毒が突然変異を起こして無力化されず体内に残ってしまったことが、彼の異変のキッカケになったと僕は睨んでね。すでに身体に取り込まれて一部と化してしまっている毒を、どのように無効化するか? これが課題だったんだ」
だんだんと専門的な話になっていき、真剣に話を聞き始めた一同。
その様子にリュースは嬉しそうに微笑むと、コホンッと軽く咳払いしてから説明に戻る。
「では、レーティア君。貴女ならこんなとき、どのようなアプローチをしてみますか?」
「む? そうだな……。より強力な解毒薬を作る、もしくは探す……とかか?」
突然質問を振られたものの、しっかりと考えて答えを出したレーティアに拍手を送るリュース。
「うん、毒に対して様々な方法を試してみるのは良いことだね。これからも突然誰かに質問を投げかけるかもしれないから、自分ならどうするだろう? と考えながら話を聞いているように。僕ももちろん、レーティア君の言ったことを実際に試しているからね。素晴らしい着眼点だよ」
自分の意見が的外れでなかったと褒められ、少し嬉しそうにするレーティア。
「ただ、残念ながらすでに身体が毒を毒だと認識していないようで、解毒薬による効果はほとんど得られなかったんだ。毒が体内にある、この一件不自然なことがすでに自然なことになってしまっているんだろうね」
残念そうに首を振るリュースに、表情を曇らせる一同。
いつの間にか、全員がリュースの話に夢中になっていた。
「次に僕は、それなら身体にもう一度毒だと認識させられないかと考えた。身体が認識を改めてくれれば、解毒薬が利くようになるかもしれないからね。では、ジレグート君。君ならどうする?」
「んー……。オレっちなら、もっかい同じ毒を飲ませてみるかもな。事前に解毒薬を用意しときゃ万が一は起こらないだろうし、改めて同じ毒が入って来たことで身体が毒だと思い出すかもしれねぇだろ?」
「うん、まさにその通りですね。僕もまったく同じ発想に至りました。しかし、こちらも残念なことに毒以上のリスクがあることが発覚したんです」
「リスク……?」
ジレグートが首を傾げると、こくりと頷くリュース。
「毒を再度投与した際に、身体が拒絶反応を起こしてしまう可能性です。強すぎる毒に、身体が耐えられない可能性が浮上したんですね」
思いがけないリスクに、静まり返る一同。
「続いて僕は、それならいっそ毒を無効化するのではなく今のまま共存できないだろうか? と考えました。取り除けないなら、影響を最小限にすればいいじゃないか、ってね。では、リリス君。貴女なら、もし毒と共存しなきゃならない状況になってしまった場合、どのような方法を試してみるかな?」
「……反対の影響を与える何かを探すか作るかして、中和できないか試す?」
「うん、よくそこにたどり着いたね。しっかりと考えてた証拠です。僕も、正反対の影響が出るものがないか必死に調べました。しかし、期待するものを発見するには至りませんでした……」
そう言って、わざとらしくガックリと肩を落としたリュース。
だが、次の瞬間には興奮した様子でガバッと前のめりになった。
「ですがっ! そこで気づいたんですっ!! 今の異常な状態を平常にしている因子! その力を強めてやれば、今後も安定していられるのではないか?! 時間制限も限りなくゼロに近くなるんじゃないか?! その着眼点から作ったのがこちら!!」
バーン!! と効果音が聞こえそうなほど、懐から勢いよく取り出した1つの瓶。
中には薄っすらと青い光を放つ液体が詰まっている。
「さぁ、イゼル君。どうぞこちらに。僕の計算では9割9分成功するはずなんだけど、万が一もあるからね。なにかあれば僕が対処するから、これを飲んでもらえるかな?」
そう言ってリュースが手渡した瓶を受け取ったイゼル。
――これを飲んだら、僕はどうなるんだろう。でも、それでも――。
現状のままではいられない。
そう思い、イゼルが瓶の蓋を開けて薬を飲もうとしたその時。
「ッ?!」
突然イゼルを突き飛ばしたリュース。
イゼルが持っていた瓶が宙を舞い、パリンと儚げな音を立てて割れる。
「なにが……」
起き上ったイゼルが視線を向ければ、そこには胸を貫かれて口から血を流すリュースの姿があった―――。
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『食べられる魔法?!~神に愛された寵児だと勝手に持ち上げたくせに、初級魔法しか使えない無能だと追い出された挙句指名手配されました。今さら勘違いだった、戻って来てくれと言われてもさすがに無理です~』
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こちらは比較的サクサク読み進められる作品になってます。
良ければぜひ!




