68話 もう一人の想い
リュースが開始と言うや否や、勢いよく駆けだすレッタ。
先ほどとは違い、今度は自分のほうが格上などという驕りも油断も感じられない、正真正銘実力通りの鋭い一撃でイゼルを狙う。
抜き身ではないが、直撃すれば骨折は確実だろう。
だが、イゼルはそれをいとも容易く木剣で真正面から受け止めて見せた。
「なぁっ?! ざけんなよ、なんで折れねぇんだ?!」
驚愕の表情を浮かべたレッタが力づくで木剣を弾くと、背後へと飛びずさる。
そこへすかさず入れ替わりで懐に潜り込んだニクスが、がら空きの胴体へ向けて拳を放つ。
「どうだっ!」
拳に伝わる手応えに声を上げたニクスだが、すぐに誤りだったと気づく。
いつの間に剣から手を離していたのか、イゼルの左手が拳を受け止めていたのだ。
「まだまだ甘いぜ! っと」
拳を掴んだまま腹部へと突き蹴りを見舞うイゼル。
咄嗟に左腕を割り込ませたニクスだが、手を掴まれていたことで後ろへ飛んで力を逃がすこともできず、直撃した衝撃でゴロゴロと後ろへ転がっていく。
「ニクスっ?! くそ、どうなってんだよ! あいつは才能がないから修行をつけてもらえねぇんだろ?!」
レッタが感情に任せて叫ぶが、当のイゼルは涼しい顔で早く来いよと右手の手の甲をレッタたちに向けたまま、人差し指でちょいちょいっと挑発する。
「レッタっ! アレをするぞっ!」
「あぁ?! チッ、しゃーねぇ!」
苦し気な顔をしつつ、素早く立ち上がり体勢を整えたニクスが走り出し、レッタもそれに続く。
二人は横並びで走り出すとイゼルの少し手前で大きく横に飛び二手に別れ、同時に左右からの挟撃を仕掛ける。
タイミングも息もピッタリで、普段から二人が得意としている連携なのだとすぐに察するイゼル。
だが―――。
「魔物相手なら有効かもしれないけどなぁー。人間相手の練度は低いみたいだな?」
イゼルはあえてギリギリまで攻撃を引きつけ、紙一重のタイミングで上空へと飛び上がった。
突然攻撃対象を失った二人は、味方の攻撃を避けるために無理やり身体をひねったことで体勢が崩れる。
空中で身を翻しながら着地したイゼルは、すぐさま腰を落とすと右にいたレッタの足を回し蹴りで引っかけて転ばせ、途中で軌道を変えると左にいたニクスへは蹴りの直撃を見舞った。
勢いよく飛んでいくニクス。
レッタもバランスを崩して倒れたところを、すでに立ち上がっていたイゼルに蹴飛ばされ吹っ飛んでいく。
積み上げられていた藁束に突っ込んだお陰で衝突の衝撃こそなかったものの、連携をあっさりと破られたことと、直撃した蹴りによるダメージで顔を顰める二人。
「くそ……くそっ! てめぇ、わざと俺らを弱いフリして騙してたってのか?!」
「なんなんだよ……! こんなこと、ありえるわけがないんだっ!!」
両者は威勢よく吠えるが、未だ立ち上がることはできずにいる。
「もうさ、潔く負けを認めたら? お前らに勝ち目なんてねーよ?」
イゼルの言葉にギリッと歯噛みした二人は、ゆっくりと立ち上がる。
レッタは剣を鞘から引き抜き、ニクスはレッタの腰からナイフを引き抜き両手にナイフを構えた。
「安心しろよ、殺しはしねぇ。二度と冒険者をやれねぇ身体にはするけどな」
「僕たちを侮ったこと、あとで後悔するんだね」
すでに決闘の域を逸脱しているのも理解できないほど、頭に血が上った二人。
「バカだねぇ……。相手との実力差を見極められない、認められない時点で才能ないのはお前らの方だよ」
獰猛な笑みを浮かべたイゼルが一瞬で二人の正面に回り込むと、まったく反応できていない二人――レッタのみぞおちに木剣の柄を、ニクスのみぞおちに回し蹴りのかかとをめり込ませる。
「「ガッ……」」
同時に膝を折り、丸まったまま悶絶する二人。
「勝負ありですね。この決闘、イゼル君の勝ちとします」
二人を見下ろしたまま木剣をトントンと肩で遊ばせていたイゼルと、悔しそうに下から見上げる二人。
対照的な姿が映し出される中、リュースによる勝利宣言が響き渡った。
納得がいっていない様子の二人に近づき、リュースが回復薬を飲ませてやる。
「なぜ止めたっ?! 俺たちはまだやれたんだっ!」
「そうですっ! あいつびいきの審判の判定なんて無効だっ!」
ついにはリュースにすらかみつく二人に、呆れたリュースは目を細めて威圧した。
「私は公平な判断を下しましたよ? 急所を攻撃されるまでまったく反応できず、その上受けたダメージで蹲ったまま動けないあなた達に、一体何ができたんですか? もう一度同じ状況を再現してみますか?」
リュースの言葉に反論できない二人は、キッとイゼルを恨めし気に睨みつけると無言でその場を去っていった。
やれやれと肩を竦めたリュースがイゼルへ視線を向けると、辺りにピリピリとした雰囲気が漂い始める。
「初めまして……で良いんですかね? アナタが噂の、もう一人のイゼル君ですか」
「あー、この気配……。あんたがオレが生まれるキッカケを作ったヤツか」
イゼルの言葉に、表情を曇らせるリュース。
「やっぱりそうなんですね……。単刀直入に聞きます。アナタはなんですか? 別人格と説明していたようですが、そんな生易しいものではないですよね?」
殺気を漏らしながら睨むリュースに、クックックと笑うイゼル。
「半分正解ってとこだな。オレはイゼルの別人格でもあり、まったく違うモノでもある。あんたのことだ、ある程度検討はつくんじゃねぇか? なんせ『狂戦士』を克服してみせたんだ」
「なぜアナタがそれを……?! いや、まさか……。そんなことありえるわけが……」
イゼルの言葉に、ブツブツと何かを考え始めたリュース。
顔からどんどん血の気が引いていき、真っ青になっていく。
「で、他になんか聞きたいことはあるか? 可能な限り答えてやるぜ?」
ハッと我に返ったリュースは、頭を振って気持ちを切り替えると少し考え込んだ後、質問を口にした。
「……リミットはあとどれくらいですか?」
「何事もなく今の生活が続けば、およそ1年前後。あとは状況次第だな。今日みたいなことが度々起こればどんどん短くなるし、もっと大きな何かがあれば……すぐに最悪の展開、ってこともありえる」
「そう、ですか……。2つ目、なぜアナタは故意的にイゼル君が本来の実力を発揮できないよう邪魔しているのですか?」
「アイツらの心に影を落とさないためだ。お前さんなら知ってんだろ? コイツの親がどれだけの実力者だったか。コイツはあの二人の血を色濃く継いでるんだ……それこそ、親を超えるほどにな。ネムとの模擬戦だけでも加速度的に成長しちまうコイツを見て、アイツラに折れられると困るんだよ」
自分に親指を突き立てながら話すイゼルに、どこか納得した様子のリュース。
燻っていた違和感の答えを知れたことで、合点がいったようだ。
「最後に。アナタはイゼル君を一体どうするつもりなんですか? いえ、どうしたいんですか? と尋ねた方が良いんでしょうか」
「……オレはコイツの影だ。影はどんな時でも傍らにいて、強い光に覆いつくされたときに消える。だが、逆もまた然り。一寸の光すら通さぬ闇に覆われても、影は消える。それならオレは……闇に溶けるより、光に包まれて消えたい。……それだけさ」
「……すみません。僕がすべき質問ではありませんでしたね」
どこか寂し気に答えたイゼルに、視線を落としたリュース。
「あんたはただイゼルの命を救っただけだ、気にすることはない。……お得意の閃きで、なんとかこの状況を打破してみせろ」
そう言うや否や、イゼルの身体からフッと力が抜けて倒れこみそうになり、リュースが受け止める。
「本当にあの時の選択が正しかったのか……。どれだけ時間が経とうと、答えはでないんでしょうねぇ……」
スーと眠るイゼルの顔をちらりと見たリュースは、空に輝く三日月を見つめながら悲しそうに呟いた―――。
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『食べられる魔法?!~神に愛された寵児だと勝手に持ち上げたくせに、初級魔法しか使えない無能だと追い出された挙句指名手配されました。今さら勘違いだった、戻って来てくれと言われてもさすがに無理です~』
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