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67話 まるで詐欺師


 ドロテアによる本格的な指導が始まり、およそ一ヶ月が経過した。

 彼女はレーティアたちを連れてガイラ山に篭ると伝えると、すぐさま準備を整え出発。一週間に一度報告と補給に戻りはするものの、それ以外は常に山頂のダンジョンで厳しい修行を行っている。


 イゼルは日中リュースにマンツーマンで修行をつけてもらっているが、今まで共にいてくれたネムや仲間たち、そしてまとめ役のドロテアがいなくなったこと。加えて、修行後はリュースが研究のために部屋へと篭り切りになってしまうため、村に一人きりになったことで生活に変化が生じていた。


「あぁん? 誰かと思えば、寄生虫のイゼルくんじゃねぇか。てめぇ、まだここにいたのかよ」


「凄いよね。僕なら恥ずかしくて生きていられないよ。ドロテア様が君に修行をつけない理由、まだわかんないのかな? 才能ないんだよ、君」


 イゼルが一人村の近くで木剣を振るっていると、山から帰って来たニクスとレッタがそう言い放つ。

 毎日練習場所を変えているにも関わらず、わざわざ探してまで言いたい放題言って帰る二人。


 さすがに手を出せばどうなるかくらいの分別はついているのか、10分ほど口汚く罵ってつまらなそうに帰っていく。それの繰り返し。

 イゼルがそれらを無視して練習を続けることが気に食わないのか、飽きもせず毎日やってくるのだ。


「ケッ、守ってもらえるからって調子乗りやがって。なんだよ、今まで毎晩あの姉ちゃんたちの相手でもしてたのか? そりゃー愛玩動物は守らなきゃならねぇよなぁ?!」


「ククッ……やめなよレッタ。本当のことを言ったら可哀そうじゃないか。もしかしたら、戦闘ではからっきしの彼も夜の戦闘なら凄腕なのかもしれないよ??」


「そりゃ傑作だな! そっち方面に才能全振りってか!! いやー、あの姉ちゃんたちもそりゃ喜ぶわな! ま、見るからにケツの軽そうなビッチ臭漂ってるもんなぁ」


 アッハッハと高笑いを上げたあと、ニヤニヤと嫌らしい笑みのままイゼルを見下ろすレッタ。

 自分のことだけでなく、ついに仲間のことまでバカにし始めた彼らに我慢できなくなったイゼルが口を開く。


「……レーティアさんたちの悪口を言うのはやめてもらっていいですか? ありもしない想像をさも本当かのように語るなんて、まるで詐欺師ですね」


「あぁ?! 誰が詐欺師だコラ!!」


 カッとなったレッタの怒声が響くが、隣に立つニクスはニヤリと笑うとレッタの肩に手を置いて諫める。


「まぁまぁ、落ち着きなよレッタ。きっと彼は、図星をつかれてしまったから必死なんだよ。ほら、もしかしたら見てくれが良いだけで、夜の方も凄くないのかもよ? 万が一、彼女たちが僕らの良さに気づいて僕らを気に入ってしまったら、彼としては一大事じゃないか。だから焦ってるんだよ」


「あー、確かになぁ。なよなよしてやがるし、どう考えてもアッチもしょぼそうだもんなぁ。おっ、良いこと考えたぜ。今度あいつらが帰って来たら、決闘を申し込もうぜ。勝った方に一日服従とかって条件つけて、たっぷり犯してやればこいつのことなんてすぐ忘れちまうだろ??」


「お、名案だね。でも、すぐに壊さないでよ? レッタはすぐ無茶させるから、娼館なんかもすぐ出入り禁止になっちゃうじゃないか」


「大丈夫だって。あいつらも冒険者なんだから、そうそう壊れねぇよ。こいつのお古ってとこは気にくわねぇが、あいつら見てくれだけはピカイチだし、なんせドロテア様の弟子だからな。利用価値もあるし、せいぜい可愛がってやろうぜ」


 なぜ彼らがレーティアたちに勝てると思い込んでいるのかは置いておいて。

 

 大切な仲間たちをあろうことか性狂いのように蔑み、好き勝手に言い放題な二人に、イゼルは沸々とマグマのような怒りがこみ上げる。

 そこで、フッと意識が途絶えた。


「……あー? 決闘ならオレが受けてやるよ。今からで良いだろ? なぁ?」


 突然ガラリと雰囲気が豹変したイゼルに、一瞬たじろぐ二人。

 だが、すぐに再び見下したような視線に戻ると、面白そうに顔を歪めた。


「なんだコイツ、急にキレちまったのか? 器のちっせぇやつだな。決闘を受けてやってもいいんだが、なんせ俺たちにメリットがねぇんだよなぁ」


「そうだね……。あ、これならどうだい? 君が負けたら、すぐさまここを出ていき二度と彼女たちに近づかない。それならいいんじゃない?」


「お、名案だぜ。おら、どうすんだよ。その条件なら受けてやるぜ??」


「ならオレが勝った場合、お前らはみんなが見てる前で今までしてきたこと、今日言った数々の侮辱をありのまま説明し、土下座して謝罪しろ。いいな?」


 イゼルの言葉にニヤァっと醜悪な笑みを浮かべた二人は、了承すると鞘に納めたままの剣と矢を番えていない弓を構える。

 イゼルはそのまま木剣を構え、レッタが駆けだしたのを皮切りに決闘の火ぶたが切って落とされた。


「おらぁッッ!!」


 ブォンッ! と大きな風切り音を立てて振り下ろされるレッタの剣。

 イゼルが見切って右へと身体を逸らして躱すと、見越したように回り込んでいたニクスが弓の手下――弓の持ち手から下半分の部分――を握ったまま横なぎに振るった。

 完全に背後から急襲に成功したことでその顔は勝ち誇っていて、勝利を確信しているようだ。


「弓使いが近接戦闘はできないと思ってた?」


 ニクスの言葉にニッと不敵に笑ったイゼル。

 腕を上から背中側へ回すと、ニクスの持つ弓の押付側――持ち手より上半分――の弦と弓の隙間に木剣を差し込み、くるくるっと弦を木剣に絡めると勢いよく引っ張った。


 理解が追いつかないままあっさりとニクスの腕からすっぽ抜けてしまった弓は、勢いそのままにレッタの顔面へと直撃。

 鼻血を垂らしながら地面へと尻もちをついたレッタの元に、イゼルに蹴り飛ばされたレッタが吹っ飛んでいった。

 

 重なり合うように倒れこんでいる二人の前に立ちはだかったイゼルが、地面に転がるレッタの剣を横へと蹴り飛ばし、二人へと木剣を向ける。


「オレの勝ち、だなぁ?」


 フッと微笑を浮かべながらの勝利宣言に二人はカッとなるが、これは殺し合いではなく決闘。

 武器を奪われ剣を向けらている状態である二人の負けは明らかであり、これで決着――となるはずだった。


「まだ拳が残ってんだよぉ!」


「僕の武器は弓だけじゃないッッ!!」


 レッタは勢いよく立ち上がると拳を振りかぶり、ニクスは腰からナイフを抜き放つ。

 

 やれやれと肩を竦めて相手取ろうとしたイゼルだったが、第三者の気配を察知して飛び退いた。


「おや、僕に気づくんですねぇ」


「……リュースさんじゃないすか。何してんすか、こんなとこで」


 突如として現れたリュースに、面白く無さそうにレッタが呟く。


「休憩がてら散歩していたら、面白そうなことをしていたからね。少し見学させてもらってたんだ。……それより、いくらなんでも決闘で抜き身のナイフはまずいと思いますよ? ニクス君。レッタ君も、決着したあとでの攻撃はルール違反です」


「……はぁ?! まだ俺らは負けてませんよ! あれくらいの状況、負けたうちに入りません!」


「そうです。()()のルールでは致命傷さえ与えなければ問題ありませんし、行動不能になるまで終わりません」


 一般的なルールではなく、自分らのルールでこの決闘は行われている。

 そのような取り決めは一切なかったにもかかわらず、ニクスは平然とそう言ってのけた。


「……なるほど。ま、良いでしょう。ここからは私が見届け人ですから、あとから文句はつけさせませんよ? もちろん、それで構いませんよね?」


「……ああ、かまわねぇよ」 「ええ、もちろん」


 二人が了承したのを確認し、リュースはイゼルに無言で頷いて見せた。

 そうして、リュースの開始の合図で再び開戦の火ぶたが切って落とされる―――。


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