66話 面影
イゼルの危うさの正体を知り、同時に彼がかつての仲間であるメリィーザとエリシルの忘れ形見だと知ったドロテア。
結局、あれからもリュースとそれぞれが知る情報を交換しあったり、今後の対策を考えたりとしているうちに、いつの間にか日が昇っていた。
「ドロテア、1つ頼みがあるんだ。シュヴァイゼルトはたぶん、あのときのことも……メリィーザたちのことも覚えていない。なんせ、まだとても幼かったからね。彼の異能についてはいずれ説明しなければならないけど、今はまだ伏せて置いてくれないか?」
「……なんでだい? 坊やの気持ち次第だけど、あたしは本当の親を教えてやるべきだと思うよ。……いや、違うね。知っていてほしい、が正しいか……。あの二人の生き様を、実の息子が知らないなんて酷い話じゃないか」
「わかってる。でも、まだ今はその時じゃないと思わないか? 彼には支えてくれる仲間がいるけれど、それでも不安定なことに変わりない。事実を知っても落ち着いていて、普段と変わらなく見えるかもしれないけど、それは心ノ仮面が影響しているのは間違いないんだ。今の彼に、これ以上負担になりかねない真実を伝えるのはメリィーザたちも望まないんじゃないかな」
「……でも、現状確実な解決の手立てはないんだろう? もし万が一、誰もが望まぬ結果になってしまったとき……坊やはメリィーザたちのことを一切知らずに逝っちまう」
「大丈夫。僕が必ず光明を見つけてみせるよ。任せてよ、僕が優秀なのは君も知っているだろう?」
ニッと笑ったリュースに、思わず肩を一発殴ったドロテア。
「まぁいいさね。認めたくないけど、少なくともあたしより頭が良いのは確かだからね。しばらくはあんたの指示に従ってやるよ。その代わり、あんたはネムと共にイゼルの面倒を見てやんな。あたしよりもあんたの方が向いてるだろ」
「そうだね、彼の様子を観察もしたいしちょうど良いかな。……人語を理解する魔物、というのも気になるしね」
リュースの優しい瞳の奥に、一瞬ギラッと黒い炎が灯ったことを見逃さなかったドロテアだが、口にすることはなかった。
彼の出自が関係していることが明白だったから。
こうして新たにリュースを加えた一行は、ドロテアが留守を任せられる存在が出来たことで自由に動けるようになり、レーティアたちの修行へと本格的に乗り出した。
結果、今まで以上に厳しいものとなったのは言うまでもない。
それからおよそ一ヶ月。
ようやくドロテアから及第点をもらえたレーティアたちは、ついに修行を次の段階へと移すことを告げられた。
これにより、ネムがイゼルから離れてレーティアたちに合流することが決定。
「今までありがとうございましたっ!」
「いえいえ。最後までお付き合いできず、申し訳ありません」
「そんなっ! ネムさんが毎日相手してくれたお陰で、僕もようやく少しだけドロテアさんの動きが見えるようになりました。本当にうれしいですっ」
あれからも三度、魔物の集団による襲撃を受けた一行。
その全てをドロテアが相手したのだが、一月前には一切動きが見えなかったイゼルも、三度目の襲撃の際には1割程度ではあるが見えるようになっていた。
この成長は間違いなくネムの献身的な対応によるもので、イゼルもそれを重々承知しているからこそ、心の底から湧き上がる笑顔をネムへと向ける。
「……」
イゼルの顔を見たまま、石のように固まるネム。
「ネムさん……?」
イゼルが不思議そうに顔を覗き込むと、ネムがびくっと身体を震わせた。
「はっ! す、すみません。少し考え事をしておりました。用事を思い出したので、私はこれで」
ぺこりとお辞儀をすると、あっという間にその場からいなくなるネム。
イゼルもネムが去って行った方へ改めて頭を下げると、なぜかニヤニヤと笑っているリュースの元へと駆けて行った。
「青春ですねぇ……」
「え??」
思わず口に出してしまった言葉にイゼルが首を傾げると、爽やかな笑顔で誤魔化すリュース。
「ああ、なんでもないんですよ。では、今日からイゼル君も次のステップへと進みましょうか」
「はいっ! 宜しくお願いします!」
「ハッキリ言ってイゼル君の技能はどれも少々トリッキーと言いますか、強力ではあるのですが扱いが非常に難しく、格上の相手などにはよく考えて使用しないと通用しないでしょう。そして、通用したとしても1回限りです。二度目はありません。だからこそ、駆け引きが重要になってきます。ですが、君の場合はそれだと先がない……ということは理解できていますよね?」
「……はい」
リュースの厳しい言葉に、表情を曇らせるイゼル。
冒険者という職業は己の腕っぷしが最大の武器であるため、等級の高い冒険者ほど目立つ同業者の情報収集を怠らない。
特にどこかに拠点を置いて活動する冒険者はそれが顕著で、自身の築き上げた地位を奪われかねない事態に陥らないよう、徹底している者がほとんどだ。
その点、現状は流れで有名とは言い難いものの、イゼルは非常に目立つ存在足りえると言える。
スキルの特殊性、初のEランク認定者という事実、冒険者ギルドの幹部であるゲラートとの確執。それに加えてドロテアという高名な白金級冒険者とも接点をもったことで、何らかのキッカケを機に瞬く間に噂が広がってもおかしくない。
否……一部の情報はすでに広まり始めているだろう。
「地力を鍛えることはもちろんですが、イゼル君には戦闘のセンスがあります。ネムくんとの模擬戦を見ていても思いましたが、短剣や刀など様々な武器を高水準で扱えていましたからね。ただ、メインは剣のようですね? 何か思い入れでもあるんですか?」
「特に何かある、という訳ではないんです。ただ、とてもしっくりくるというか……なんでなんでしょうね。レーティアさんに強い憧れのようなものがあって、その影響で刀を使いたいと考えていたんですが。戦闘中などは無意識に剣を使ってしまうことが多くて、今は剣をメインに鍛えてます」
「なるほど……。そうなんですか」
イゼルの言葉に、どこか嬉しそうに過去を思い出すリュース。
剣――特に片手で扱える直剣は、メリィーザが愛用していた武器だ。エリシルはよく、幼いシュヴァイゼルトを抱いて彼の訓練する様子を眺めていた。
メリィーザ自身、まだ剣すら振れないシュヴァイゼルトに愛剣の柄を握らせながら自慢してみたりと、物心つく前から父の姿と剣に触れていたことが、彼の身体に――心に刻み込まれているのかもしれない。
あくまで想像でしかないが、そうであったなら嬉しい。そんなことを考えながら、懐かしい記憶に浸り空を見上げるリュース。
――全体的な雰囲気はエリシル……貴女に似ていますが、強い意志と優しさを感じさせる目元はメリィーザにそっくりですよ。二人の子はこんなに大きく、強く育っています。彼の問題も私が必ず解決の糸口を見つけますから……安心して見守っていてくださいね。
今は亡き友人に心の中でメッセージを伝えていると、リュースが黙り込んだまま遠い目をしていることにオロオロとしだすイゼル。
「あ、あのっ。僕は剣が向いてないとかですかっ?!」
「おっと、ボーッとしてしまいましたね。すみません。そう言う訳じゃなくて、イゼル君の姿が古い友人と被って見えたものですから、つい物思いにふけってしまったんです」
「そうなんですか……?」
「ええ。彼はとても強く、そして温かい人でした。イゼル君もきっと、彼のようになれますよ。私が保証しましょう」
「……はいっ! がんばります!」
イゼルの気合の入った表情に二人の面影を感じたリュースは、優しく微笑むと杖を構えていつでもどうぞと声をかける。
ぺこりと一度お辞儀をしてから剣を構えて向かってくるイゼルの攻撃を受け流しながら、メリィーザやエリシルとの訓練の日々を思い出し、再び心が温かくなるリュースだった―――。
いつもお読み頂きありがとうございます!
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら、↓の☆から評価やブックマークで応援お願いしますー!
みなさまの応援が力になり、執筆への活力に繋がりますのでぜひー!
よろしくお願いしますー!




