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61話 ドロテアの実力


 レーティアたちが中腹を脱し、修行場を山頂付近にしようと決めた翌日。

 件の話をネムに伝えたところ『一度手合わせしましょう』と提案された彼女たちは、朝早くから普段イゼルとネムが修行に使っているロッテ近くの平坦な場所へと訪れていた。


「どなたからでもいいですよ。皆さんの判断が無謀ではないと、実力で示してください」


 ネムの言葉に、目を見合わせるとニヤリと笑うレーティア達。

 魔物相手で自身の成長に手応えを感じてはいたものの、果たして今の自分たちはどこまでネム相手に通用できるようになったのか。

 アリゼムを出て以来手合わせの機会もなかったため、あの頃との明確な違いを知れるとあって俄然やる気を出した。


「私から行こう」


 レーティアがネムの前に立つと、両者互いを見据えて練習用の木製武器に手をかける。

 レムローが開始の号令を出すべく大きく息を吸い込んだとき、待ったがかかった。


「……待って。何かが集団で近づいてくる」


 リリスの言葉に気を張りつめる一同。

 ほどなくして全員が気配を察知し、戦闘態勢に入った。

 レーティアとネムはすぐさま武器を真剣に持ち替え、目を閉じて様子を探るリリスの言葉を待つ。


「……20、30……もっと多い」


 索敵に意識を集中しながら呟かれた言葉に、眉を顰めるレーティア。


「魔物の群れか、はたまた人間の集団か……。どちらにせよ、油断できる状況じゃないな」


「ある意味、オレっちたちがここに居たことが幸いだな。最悪の場合でも、村人が避難するだけの時間は稼げる」


「そうですね。レムローさん、申し訳ありませんがすぐにロッテへ戻り、おばあ様方に事情をお伝え願えますか? おそらくおばあ様は気づいていると思いますが、避難させるにしても人手は多い方が良いでしょうから」


 ネムの言葉を受け、一瞬悩んだ様子を見せたレムローはすぐに思考を切り替えるとロッテ目掛けて走り出す。


「いいか、全員無事に戻って来いよ! 絶対だからな!!」


 顔だけ振り向きそう叫ぶと、さらに加速していった。

 後姿を見送った一同はうっすらと微笑むと、気を取り直して集団が迫る方へと向き直る。 


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


「皆さん、一つだけ。会話ができそうな相手がいた場合は生かして捕らえてください。なぜここを襲おうとしたのか、その真意を聞きだす必要がありますから」


 徐々に迫ってくる土煙を見つめながら、嫌な予感のするレーティアが零した言葉。

 ネムも同じことを感じていたのか、すでに戦闘を前提として話している。


「その必要はないよ。あたしがやるからね」


 背後から声がかかり振り返れば、いつの間にかドロテアが武器を携え立っていた。


「おばあ様自らですか?」


「ああ、そうだよ。思えば、まだ師匠らしいことなんてほとんどしてないだろう? あんたらが師事したヤツがどの程度のもんなのか、その片鱗だけでも知っといて損はないはずさ」


 そう言いながらレーティアたちの前へと出ると、腰に携えられた二本の剣の柄に手をかけ、じっと土煙が立つほうを眺める。

 瞬間、自身の存在を知らせるかのように強い殺気を放つが、土煙は収まる気配を見せず勢いが増したかのようにすら見えた。


「ふむ……。相当腕に自信のあるやつが率いているみたいだね。軽い運動くらいにはなりそうで安心したよ」


 喜色を多分に含んだ声音でそう告げたドロテアは、一同に手出しするんじゃないよと言い残してスタスタと前へ歩き始める。

 ほどなくして姿を現した50近い魔物の群れはドロテアの前で止まると、集団の中からひと際大型の地竜――体長5m近い焦げ茶色の鱗に蜥蜴のような姿で、翼は生えておらず左右に三本ずつ生えた計6本の太い足が特徴の下竜種――の上に座る全身をすっぽりと紺色のローブで覆う人影が声をかけてきた。


「あぁー……? ずいぶんと気持ちの良い殺気を放つから期待してたのに、ババアかよ。つまんねーな」


「レディーに向かって失礼なやつだね。だいたい、他人様と喋るときは顔くらい見せるもんだ。ケチをつけるなら、なおさらね。素顔を晒す勇気もない臆病者のくせに、いっちょ前な口を聞くんじゃないよ」


「あぁ?! 上等だよ。どちらにせよ全員ぶっ殺せば問題ねぇんだ、隠す意味もねぇ!」


 ドロテアの煽りに見事に反応した人影は、怒りの滲む声でそう告げると勢いよくローブを脱ぎ捨てた。現れたのは、全身をびっしりと茶色い鱗で覆われた人型のナニか。

 二本ずつの手足、二つの黄色い双眸に鼻と口。フォルムは人のソレだが、縦に割れた瞳孔や手足に生える鋭い爪や口元から覗く鋭い牙と、人ならざる者の姿をしている。

 

「ずいぶんといかした姿じゃないか。なんだい、頭のおかしい科学者に魔物と融合でもさせられたのかい?」


「そんなチンケなもんじゃねぇ! オレ様は地竜を統べる者、地竜人(アースドラゴニュート)だ!!」


 自信満々といった様子でニヤリと笑うと、自身の力を誇示するかのようにドンッと存在感を示すアースドラゴニュート。

 ドロテアは『へぇ……』と少し感心した様子を見せる一方、レーティアたちはガイラ山の中腹で戦っていた魔物より数段上の存在感を放つアースドラゴニュートを前に、ピリピリとした雰囲気を醸し出す。

 地竜ですら頂上付近に出没する魔物と大差ないレベルだと言うのに、その上それらを統べる者もいる現状、人手不足だというのが本音だった。

 ドロテアとネムが主戦力を相手取っている間に、少しでも相手の数を減らさねば……そう考え行動に移そうとしているレーティアたちに視線を向けたドロテアは、不敵に笑うとスタスタと歩き出す。


「言っただろう? 相手はあたしがするから、手出しするんじゃないって。いいから黙ってみてな」


「なっ?! いくらなんでも……!」


 焦った様子のレーティアの肩にネムが手を置くと、問題ないと微笑を浮かべながら首を振る。

 そうこうしている間にもどんどんとアースドラゴニュート率いる集団に近づいていくドロテアを前に、地竜たちが一斉に襲い掛かった。


「おいおいお前ら、ババアなんぞ喰ったところで腹の足しにも――」


 呆れた様子のアースドラゴニュートだったが、襲い来る地竜をいとも簡単に細切れにしながら悠然と自身目掛けて歩いてくるドロテアを目にして、ピタリと固まる。


「なんだい、率いるって言うくらいだからもっと連携を取ってくるもんかと期待したってのに。立派なのは見てくれだけかい」


「は、はぁぁぁああ?! なんなんだよテメェ!! そいつらは『竜』だぞ?!」


「だからなんだい。昔から人間は獣だろうが竜だろうが、必要とあらば狩ってきたんだ。それのどこがおかしいんだい?」


 当然といった様子で不思議そうに首を傾げるドロテア。

 お前ら遊んでないでさっさとぶっころせ! と連れて来た全地竜に命令するも、飛びかかろうが突撃しようが、例外なく細切れにされてボトボトと地面に転がる地竜だったモノ。

 全ての地竜があっという間に討伐され、ようやく目の前に立つ人間が異常であることに気づいたアースドラゴニュートは、本能が命じるままに引くべきか、否かの決断を迫られた。

 だが、生物の上位種とも呼ばれる竜種として生まれた彼にとって、今まで散々見下してきた人間風情に怯えて逃げ出すなど、プライドが許さない。

 警鐘を鳴らす本能を信じられなかったことが、彼にとっての最後で最大の失敗だった。


「ケッ、人間にしちゃそこそこやるってのは認めてやらぁ! だが、しょせん人間。オレ様のような上位種とはそもそも身体の作りがちげぇんだよぉ!!」


 グワッと伸びた鋭い爪を勢いよく振り上げ、ドロテア目掛けて飛びかかるアースドラゴニュート。

 それを左手に持つ剣で受け止めると、ドロテアは大きなため息をついた。


「つまんない相手だったね」


 キィンと音を立てて爪を大きく弾いたドロテアは、そう言い残すと踵を返しレーティアたちの元へと歩き始める。


「はぁ……?! どういうつもりだババア!」


 あっさりと渾身の一撃を弾かれたことに動揺しつつも、それを隠すように強気に振る舞うアースドラゴニュート。


「なんだい、気づいてなかったのかい?」


「は……? ま、まさか……あ、あぁああアあああぁぁぁァアアアッッ――」


 ボトボトと指先から細切れになって崩れ落ちていく自分の身体に気づき、絶叫を上げたのもつかの間。

 それが最後の引き金となり、一瞬で全身が地面に転がったアースドラゴニュート。

 命乞いすらする暇もなく、自身の過信によりその生命は終わりを告げたのだった―――。

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