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56話 噂の剣士

お久しぶりです。

ようやく落ち着いて来たので、更新を再開したいと思います。

もうしばらくは更新頻度が低いと思いますが、よろしくお願いします!


 イゼルたちはゆっくりと露店を覗いたりしつつ、門から闘技場までのメインストリートを進んでいき、道中ややありつつもようやく闘技場へと到着。

 ひとまず見学をしようということになり、フィールドではなく観客席の方へと進んだ。


「わぁ……いろんなところで戦っててすごいですね!」


 イゼルが嬉しそうに眺める先では、直径がゆうに100m以上はあるであろう広々とした円形のフィールドを十字に区切ったように、四か所で冒険者同士が実力を競い合っている。

 観客たちは目当ての冒険者や好みの戦闘スタイルなど、見たい冒険者の模擬戦が行われている区画の場所を陣取り楽しんでいるようだ。

 イゼルたちも最も質が高いと感じた模擬戦を観戦し、あぁでもないこうでもないと仲間内で意見を交わす。

 やがて決着がつくころには身体をウズウズとさせており、自分たちも飛び入り参加するか街を出て身体を動かすかを悩み始めた時。

 ひときわ歓声が大きくなり、客席の注目が一か所へと集中した。


「ん……? 有名な人物でも来たのか?」


 レーティアが不思議そうに首を傾げながら観客の視線を追うと、ちょうど目の前のフィールドにゆっくりと歩いて現れた女性。


 明るいミルクティー色をした長く綺麗な髪、髪色とお揃いのくっきりとした瞳はどこか退屈そうで、整った顔立ちながらも無表情で冷たい印象を受ける。

 白いYシャツに黒のコルセットを着ているせいで豊かな胸がより強調され、黒地のロングスカートには白のエプロンのような前飾りがついていて、一見メイドや家政婦のような恰好をしているにも関わらず、背中にはシンプルなロングソードを担いでいて妙なチグハグ間を覚えずにはいられない。


 いろんな意味で目立つ彼女が立ち止まり軽く一礼すると、まるで待ってましたと言わんばかりに冒険者たちが我先にと一斉に襲い掛かった。


「えっ?!」


 予想だにしない光景にイゼルたちが思わず飛び出しかけるが、女性は一切表情を変えないまま必要最低限の動きで迫りくる冒険者たちをのしていく。

 ある者は掴みかかろうと突き出した腕を逆に掴まれ、あっという間に後方へと放り投げられる。ある者は懐に潜り込もうとしたところを蹴り飛ばされ、またある者は殴り掛かったところへカウンターでみぞおちに掌打を入れられた。


「「「「「……」」」」」


 イゼルたちが唖然としながら見つめる中、女性はあっという間に20人以上はいたであろう冒険者たちを全員行動不能へ追いやって見せると、つまらなそうにフーとため息を吐き、辺りを見回す。


「他にはいませんか? どなたでも構いません、我こそはと思う方はぜひ……おや? 見ない顔ですね」


 女性はイゼルたちと目が合うと、興味深そうに目を見開いた。

 声をかけられた一行は顔を見合わせた後頷くと、客席から飛び降りフィールドへと降り立つ。


「初めまして、で良いんだろうか。もしかして、貴女が噂になっているという腕試しを募集している流れの剣士という方か?」


「噂は存じ上げませんが、おそらくそうだと思います。そちらは旅の冒険者といったところでしょうか?」


「ああ。最近実力不足を痛感することが多くてな、良い修行場を探しているんだ。見たところずいぶんと腕が立つようだが、どこか心当たりはないか?」


「なるほど。それでしたら、力になれるかもしれません」


「ほう?」


「私は腕試しを募集している。貴女方は修行場を探している。なら、私を相手に修行すれば良いと思いませんか?」


 明確に自分の方が実力が上だと言ってのける女性に、顔をしかめるレーティア。

 だが、先ほどの模擬戦ではほとんど実力を出していないこともわかっているだけに、隠しているであろう力を正確に推し量れずにいる。

 言葉通り自らが劣っていれば良い修行になるし、ただの自意識過剰であったならそれまでの話。そう考え、あえて挑発に乗ることにした。


「それなら、少し手ほどきを頼もう。武器は入り口で借りれば良いのか?」


「ええ。刃を潰した練習用のものを持っているのであれば、それでも大丈夫ですよ」


「いや、借りてくるとしよう」


 入口で愛刀と同じくらいの使用感だった刀を選び、愛刀の代わりに帯刀して元の位置に戻る。


「ここのルールはご存じですか?」


 首を振ったレーティアに、女性は簡単な説明をした。


 1.あくまで模擬戦なので、目などの治療が困難な部位への攻撃は無し

 2.技能(スキル)の使用や殺傷性の高い攻撃方法は禁止

 3.故意的な場合を除き、原則模擬戦における両者の怪我は自己責任


「以上ですね。問題ないですか?」


「ああ、問題ない。そういえば名乗っていなかったな、私はレーティアだ」


「ご丁寧にありがとうございます。私はネムと申します。では、いつでもどうぞ」


 そう言って手の平を見せたネム。

 武器を構えることもなく、ただその場に立っているだけなのに一切隙がない。

 まずは様子見しようと距離を詰めて逆袈裟に抜刀して斬りかかろうとしたところ、ネムは自身も半歩前に出て刀の(かしら)を右手で抑えて抜刀を阻止、左の手刀を首元に突き付ける。


「……参った」


 背後に飛びずさったところですぐに追撃されるであろうことは目に見えており、覆せる方法が思いつかず潔く負けを認めざるを得ない状況だった。

 わずか数秒で負けてしまったレーティアに、驚くイゼルたち。


「少し意地悪が過ぎましたね。良ければもう一度どうですか?」


「ああ、ぜひ頼む。それと、次からはちゃんと当ててくれ。修行にならん」


「かしこまりました」


 ぺこりと一礼したネムに、再び挑むレーティア。

 だが、その後も彼女の攻撃が当たることは一度としてなく、二度、三度と地面を転がった。

 ネムに背中の長剣を抜かせることすら叶わないまま、やがてレーティアの限界が訪れる。


「……くそ、一矢報いることすらできなかったか……」


「いえいえ、大抵の方は一度のされるとそこで諦めてしまいますが、貴女は何度となく立ち上がり挑んだ。すぐには厳しいでしょうが、まだまだ強くなれますよ」


「そうか……」


 悔しそうなレーティアだが、明確な目標ができたことでその目はやる気に満ちていた。


「……私も相手してほしい」


「ええ、かまいませんよ」


 じっと見つめていたリリスも意を決して挑むが、最大の武器だった速度で敗北を喫し、ひたすら背後に回り込もうとしては捕まり投げられる、といった一連の流れを繰り返すこととなる。

 それはジレグートも同様で、力なら負けねぇと意気込んで挑んだものの、純粋な力勝負で敗れ去り、ひどく落ち込んだ。


「僕も……お願いします!」


「喜んで、可愛いチャレンジャー」


 三人の戦いを見て頭の中でイメージトレーニングをしていたイゼルは、開始と同時に懐に飛び込み、剣を抜刀すると見せかけ一歩後退。前に出てきたネム目掛けて剣を振り抜いた。

 関心した様子を見せるネムはあっさりとそれを回避すると、がら空きになった胴体目掛けて掌打を繰り出す。

 咄嗟に身体を半身にしてかわし、一度距離を取ったイゼルは剣の切っ先をネムに向けたままじっと出方を伺った。


「よく観察していますね。ですが、それは悪手です」


 フッと掻き消えるようにその場からいなくなったネム。


「えっ?!」


 完全に見失ってしまったイゼルが慌てて周囲を伺うが、右を見ても左を見ても見つけることができず、咄嗟に上を見上げた。


「残念、後ろでした」


 背後に回り込んだネムが左手で口を押え、右の手刀を首筋にあてがう。

 ゆっくりと両手をあげ、降参の意を示すイゼル。口から手が離れると、振り返りネムを見つめた。


「凄いですね……。背後にだけは回り込まれないように気を付けているつもりだったんですが」


「ええ、なのであえて回り込ませて頂きました。確かに相手を観察することも重要ですが、それは相手が自分と同等かやや格上、もしくは格下の場合です。遥かに格上の相手では、間を開ければ今のように何もわからないまま殺されるだけですよ? まぁ、無謀に突っ込んでも同じなのでなんとも言えないところですが」


「なるほど……。勉強になります!」


 それから小一時間ほどイゼルも挑み続け、時折現れる他の挑戦者の動きも観察しながら、一同は代わる代わる陽が暮れるまでネムに揉まれ続けた。

 宿屋に戻ってからはパパッと食事などを済ませ、それぞれベッドの上でネムの動きを思い出しながら、イメージトレーニングを怠らない。

 明日も挑みに行こうと決意したイゼルたちは、どうすれば彼女へ追いつけるのか、その一点をひたすら考え続けた―――。

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