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51話 再会


 祝勝会から二日後の正午前。

 ギルドから連絡を受けたイゼルたちは、ユリーアとシクルと共にギルドマスター室にて新しく赴任したギルドマスターと対面していた。


「この度セリエンス支部ギルドマスターとなった、ガレリアだ。まずは、ギルドを代表して謝らせてくれ。こちらの都合で迷惑をかけたばかりか、報酬を渡すのが遅れてしまい本当にすまない」


 茶色い短髪をワイルドにアップバングし、戦士然とした非常にがたいの良い中年の男が躊躇することなく机に手をつき頭を下げる。

 一同は前任のギルドマスターとの差に驚きつつも、質実剛健な気質を感じさせるその姿に期待と共に安心感を覚えた。


「いえ、気になさらないでください。僕たちもゆっくりセリエンスを観光したりできたので」


「そう言ってもらえると助かる。シクルとユリーアにも大変嫌な思いをさせてしまった。今後は同じことがないよう、ギルドマスターとして尽力すると誓う。どうかこれからも、ギルドに力を貸してもらえないだろうか」


 今度はユリーアたちへと頭を下げ、真面目な表情で頼むガレリア。


「は、はいっ! 今後とも、宜しくお願いしますっ!」


「もちろんです。どうぞ宜しくお願いします」


 ユリーアとシクルも笑顔で返事をし、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとう。さて、まずは遅れていた報酬の件を片づけてしまおうか。迷宮主(ダンジョンマスター)――王魔蛇(キングサーペント)の魔核だが、これが通常よりも遥かに大きいそうで、研究機関が相場より高い金貨十枚で買い取ってくれることになった。討伐報酬が金貨十枚の、合わせて金貨十八枚だ。そこに魔物の氾濫(スタンピード)を未然に防いでくれた報酬として、金貨十五枚が追加。さらに、今回の迷宮(ダンジョン)は不審な点だらけだったため、危険手当として金貨七枚が支給されることになった。合わせて、計金貨四十二枚が今回の報酬となる」


 小袋に入れられた金貨をどさりと机に置くと、中身を確認してくれと促すガレリア。

 レーティアが慣れた手つきですぐに確認を終え、問題ないと頷いた。


「君たちがいなければ、この街はどうなっていたかわからない。改めて、礼を言わせてくれ。……ここからは俺個人としての話だ。報告書は読ませてもらったが、いかんせん不明瞭な点が多い。良ければ、君たちが見た事、感じた事を率直に教えてもらえないだろうか?」


 ガレリアの言葉に顔を見合わせた一同は、一人ずつ各々が感じたこと、体験したことを語っていった。

 時折顔を顰めたり、眉間をもみほぐすような仕草をしつつ、最後まで静かに聞いていたガレリアは話が終わるとフーーーと大きなため息をつく。


「……思っていた以上にひどいな。ミーナ、アリー、サラ、エンの四人については、俺の方でも注意して見守っておく。……俺の立場でこれを言うのもおかしな話なんだが、おそらく君たちは今後も同じような扱いを受けることがあるだろう。それほど、冒険者というのは『職業(クラス)』を重要視している。それはギルド上層部も同じだな。だが、正直言って本当に実戦で優秀な結果を残せる高ランクは少ない。クラスに頼りっぱなしで、基礎的な部分が抜け落ちているヤツが多くてな。だからどうか……()()()()()()実力ある君たちには、冒険者をやめないでもらいたい。我がままな願いだがな」


 申し訳なさそうにしつつも、しっかりとイゼルたちの目を見据えて頭を下げた。

 飾り気なく本音で語ってくれるガレリアに好感を抱いた一行は、そのつもりですと返すとしばしの雑談を経て部屋を後にした。

 ジレグートのみ、今回の一件で鉄級(アイアン)へと昇級することが決定していたため、受け付けで手続きを済ませて新しいギルドプレートを発行してもらった。


「ジレグートさん、おめでとうございます。こちらをどうぞ」


 シクルが両手の上にプレートを置き差し出すと、気恥ずかしそうにしつつも笑顔で受け取ったジレグート。プレートを取る際に少し手が触れたせいなのか、二人とも頬をわずかに赤らめている。


「……まさか本当にこんな展開が待っているなんて」


「ば、ばかやろっ! そんなんじゃねぇやいっ!!」


「そ、そうですよっ! 私は別に……」


 リリスがぼそっと呟いた一言を敏感に聞き取った二人は慌てて否定するも、どこか似た反応にユリーアが微笑みレーティアがニヤニヤとしていた。

 唯一イゼルだけがきょとんと首を傾げていたが、和やかな雰囲気に一緒に笑い出す。


「イゼルさんたちはこれからどうするんですか?」


「そうだな……。あらかたセリエンスの目ぼしいところも見終わったし、近いうちに出発しようかと思っているよ」


 こほん、と軽く咳払いしてからシクルが話題を切り替えると、クスクスと笑いながら答えたレーティア。


「……ん。しばらく修行したい」


「だなぁ。素材集めもしたいしな」


「なら、北に向かうんですかっ?」


 ユリーアの言葉に、悩まし気に唸るレーティアたち。

 セリエンスの北――王都方面に向かえば、道中手ごわい魔物が出る地域や迷宮(ダンジョン)が存在する。それ自体は好都合なのだが、王都にはギルド本部があり、王都に近づけば近づくほど職業(クラス)絶対主義の風潮が強くなるのだ。

 反対に南――ガーレイ大森林を南西に抜けると、アルプレナ教の総本山であるアルバール神聖共和国方面へと続く。アルバールでは職業(クラス)のランクによる格差がないのは良いが、寄付という名目で冒険者の報酬や買取金から一定の割合で徴収されてしまう。

 どちらも一長一短であり、イゼルたちは未だに行先を決めかねていた。


「でしたら、北東に向かってはいかがですか?」


「北東というと……闘技場のあるアリゼムか? だが、闘技大会はまだ先だったような……」


 内情を察したシクルが提案すると、首を傾げるレーティア。


「あそこでしたら、街の特色上クラスというより実力至上主義なところが強いので、王都などに比べれば活動しやすいんじゃないでしょうか? なんでも、ここ最近流れの凄腕剣士様が居ついたとかで、こちらにも噂が流れて来るほど有名になってるみたいですよ」


「あっ、その話は私も聞きました! 暇つぶしで腕試しを受け付けているとかなんとか? 良い経験になるって言って、アリゼムに向かう冒険者さんも多いみたいです!」


 二人の話に耳を傾けていたレーティアたちは、興味深げに頷く。


「ほう……? 確かに興味深い話だな。だが、アリゼムか……。徒歩だと時間がかかりすぎるな。今後も必要になる機会も多いだろうし、いっそ先行投資で馬車でも買うか?」


「……良いかも。でも、誰か御者できる?」


「オレっちは無理だな」


「私もしたことがない」


「僕もないです……」


「……私もない」


 チーンと落ち込む四人に、慌てて代替案を上げるシクル。


「御者でしたら一時的に雇うこともできますし、少し割高になってしまいますが御者付きの馬車をレンタルすることもできますよ!」


「ふむ……。今回はひとまずレンタルか? 御者としての技能を習得するのも課題点の一つだな」


 一度見に行ってみようという話になり、ユリーアたちと別れてギルドを後にしたイゼルたち。

 北門のすぐ近くに馬車関係専門の店があると聞いた一行は、道中出店で肉串などの軽食を購入しながらゆっくりと向かって行った。


「?!」


 その途中、焦った様子のイゼルが路地裏目掛けて突然駆けだすと、首を傾げつつもそれに続く四人。

 日中だと言うのに建物の影で薄暗く湿っぽいその場所には、痛みで小さなうめき声を上げる全身傷だらけの男性が一人倒れていた。

 顔や腕など、何度も執拗に殴打されたであろうことが一目でわかるほどにひどく腫れ上がっている。


「大丈夫ですか?!」


 慌ててイゼルが駆け寄り回復薬(ポーション)を飲ませると、腫れが徐々に引いていき小さな傷が癒えていった。

 痛みが和らぎかろうじて動けるようになった男性は、壁に手をつきながらなんとか立ち上がる。


「すまねぇな……。ありがとうよ。お陰で助かった……。だが、生憎俺には返せるもんが何もねぇばかりか、あんたらを巻き込みかねん厄介者だ。助けて貰った身で申し訳ないが、悪いことは言わん。今見たことは忘れて、さっさとここを立ち去った方が良い……」


 そう言って踵を返すと、壁にもたれかかりながら路地の更に奥へと向かおうとする男。


「間違っていたらすみません。あの、僕の顔に見覚えはありませんか?」


 じっとその男の顔を見つめていたイゼルが、そう問いかけて呼び止める。


「あんたみたいな冒険者に知り合いは……。ん……んん? あ、あんときの坊主か……?!」


 否定しようと振り返り、ちらりとイゼルの顔を見て目を見開く男。


「やっぱり! 乗合馬車の御者さんですよね?!」


 感動の再開とはとても呼べないが、それでも再び出会えたことに嬉しそうに顔を綻ばせたイゼル。

 一方の男は、心底安堵したといった表情で静かに涙を流していた―――。

3章のスタートです!

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