50話 新たな魔剣(2章エピローグ)
イゼルたちが全員参加で盛大に祝勝会を行い、その後数日かけてゆっくりとセリエンスを観光しつくした頃。
セレイルへと戻ったリコルは持たされた書状をギルドマスターへ提出し、救援依頼を完遂したとして鉄級へと昇級。ゲラートからの口添えもあり、翌日にいくつかの討伐依頼を達成するだけで晴れて鋼鉄級となった。
夕暮れ時ではあったが、いち早く報告すべく鋼鉄色のプレートを携えシャンバール家へと足を運ぶとすぐに書斎へと通され、笑顔で出迎えるザギム。
「おぉ、無事鋼鉄級へ昇級したそうじゃないか。さすがだな」
「いえ、それほどでもないですよ。それより、これで私は娘婿に入れるんですよね?」
あえてイゼル――シュヴァイゼルトのことは伏せ、報告をしなかったリコル。
ザギムに生きていると知れれば機嫌が悪くなることはわかりきっていたし、ましてや邪魔をされたなどと言える訳もない。
ゲラートの部下からも忘れるよう念押しされていたため、口にできないということもあるが。
「ああ、もちろんだ。あとひと月ほどで戻ると連絡が来ていたから、そこで正式に発表しようじゃないか」
「ありがとうございます。それで、いくつかお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「1つ目は、メアクレール嬢との結婚披露宴が終わり次第、彼女と……出来ればエリーザ様も連れて王都に行きたいので、彼女たちを説得することに協力してほしいのですが。ゲラート様より直々にご指導をつけて頂けることになっているので、顔を覚えて頂く意味でも共に連れて行った方が良いと思うのです」
「ほう……? ゲラート様というと、まさかギルド幹部の?」
「ええ、そうです」
リコルが肯定したことで、驚くや否やすぐに満面の笑みを浮かべた。
「凄いじゃないか。もう繋がりを持ったばかりか、そこまで気に入られているなんて」
「私に興味を持ってくれていたようで、出張の帰り道にわざわざセリエンスに立ち寄ってくれたんですよ。食事などにも誘って頂き、大変有意義な時間を過ごせました」
報告を聞いていたザギムは満足そうに何度も頷くと、椅子から立ち上がりリコルの肩に手を置く。
「そうかそうか。本当に素晴らしい結果じゃないか。ゲラート様のお気に入りになれば、金級なんてあっという間だろう。これで王都への移転も時間の問題だな」
「ええ。ゲラート様も、いずれ王都にて活躍してほしいと仰っていましたからね。短い間でしたが稽古もつけて頂き、新しい技能をいくつか習得しましたよ」
「おぉ! いやはや、どうして神はこれほど差を作るのだろうな。あの恥さらしは、よほど前世で罪を重ねたんだろうか? アッハッハッハ!」
上機嫌で高笑いするザギムに、小さく「……ええ、きっとそうですよ」と作り笑いを浮かべたリコル。この会話を続けたくなかった彼は、すぐに話題を切り替えた。
「それで、二つ目ですが。ゲラート様からも指摘されたのですが、私は様々な魔剣を持ってこそ真価を発揮できる職業なので、新たな魔剣をいくつか用立ててほしいのです」
「それならちょうど良いな。昨日、ぜひリコルに見てもらいたいと流れの武器商人がやって来てな。なんでも、セリエンスで一度話をしたことがあると言っていたが……」
「……すぐには思い浮かびませんね。会って顔を見ればすぐにわかるでしょう」
「そうだな。明日また来ると言っていたから、今日はもう休むと良い。ほら、これは私からの祝いだ。好きに使ってかまわないが、羽目を外しすぎないようにな?」
そう言って小袋を投げ渡す。
リコルはぺこりと頭を下げ書斎を後にすると、少し進んだところで小袋を開いた。中には金貨が五枚入っており、ニィッと笑うと夜の街へと躍り出る。
貴族御用達の娼館へと足を運ぶと好みの女を二人見繕い、一晩購入。残りの金で酒を頼むと、美女二人を侍らせて個室へと消えていった。
その翌日。
朝方シャンバールの屋敷へと戻り、好きに使って良いとあてがわれている部屋で寝ているとノックの音で目が覚める。
扉を開けると、ザギム付きの執事が立っていた。
「リコル様。昨日旦那様がお話になっておられた、武器商人が尋ねて参りました」
「ああ……そうか。メイドを二人よこしてくれ。準備させる」
「かしこまりました」
執事がお辞儀をしてその場を離れると、入れ替わるようにメイド二人が到着。
すでにお手付きのメイドであったため、着替えや身だしなみを整えさせながら好き放題悪戯し、しばらくしてから書斎へと向かったリコル。
「失礼します」
ノックをしてから部屋へ入ると、書類とにらめっこしているザギムがいた。
「ああ、来たか。応接間に待たせてあるから、先に行ってくれ。これを片づけたら私も向かう」
「わかりました」
ザギムが鳴らした鈴の音を聞きやってきた執事と共に応接室へと移動すると、優雅に紅茶を飲む頭まですっぽりとフードを被るローブ姿の人影がソファに座っている。
顔が良く見えず、眉をひそめたリコル。
「フードで顔を隠しているとは、ずいぶんと礼儀知らずなやつだな」
「あア、すみませんネ。これは取れないのですヨ。お久しぶリ、で良いんでしょうカ?」
「その喋り方……貴様、あの時の! 生きていたのか?!」
わざとらしい抑揚をつけた喋り方。全身をすっぽりと覆い隠すローブ。
紛れもなく、リコルへ迷宮攻略の鍵だと魔剣を渡した謎の人物だった。
「アハハハハ。今日ハ、私で試し切りをするのはやめてくださいネ?」
「……チッ。まぁ良い、で何の用だ」
この場で深く追求されても面倒だと判断したリコルは、話を聞くために机越しに対面したソファへ腰かけた。
「どうやらあの魔剣がなくなってしまったようなのデ、新しいのをいくつか持ってきたんですヨ」
「なに……? 突然触手が生えてくるような、わけのわからん武器を使えるかっ!」
ローブ姿の人影の言葉にダンジョン内での出来事を思い出し、怒りで机に手を打ち付ける。
「言っておいたじゃないですカ。アレは貴方にしか扱えなイ、ト」
「どういうことだ……! しっかりと説明しろ!!」
「えエ、もちろんですヨ。あの魔剣ハ、失われた古の製法で作られているんでス。なのデ、市場に出回っている魔剣よりも能力が高いのですガ、その分扱える人が限られるんですよネ」
「……それで?」
「通常、魔剣を打つ際には魔核を一つだけ使用するというのは知っていますカ?」
「ああ」
「魔核を二つ以上入れて普通に鍛えるト、器が耐え切れずに崩壊してしまうんでス。ですガ、古の製法を用いれば二つ使用することがでキ、飛躍的に能力が向上するんですヨ。もちろン、代償もありますけド。魔核とは言わば魔物の心臓……根幹ですかラ。適性がないものが持つト、強すぎる魔剣の力に負けて身体の主導権を奪われてしまいまス」
フフ、凄いでしょウ? とあっけからんと笑う姿に、怒りでプルプルと身体を震わせるリコル。
「貴様……そんな大切なことを一切説明せずに、俺さまに渡したってのか?! あぁ?!」
「怒らないでくださイ。貴方は『魔剣士』、魔剣を従える者なのですから大丈夫ですヨ。むしロ、私の提供する魔剣以上のものなんテ、まず手に入らないですヨ? それこソ、高難易度の迷宮を攻略してようやく見つかるかどうカ、というレベルの魔剣なのですかラ」
自身の職業にとって魔剣の能力は生命線であることを理解できているだけに、以前振るった魔剣の能力を忘れられないリコルは言葉に詰まった。
今までにも何本か魔剣を試してみたが、あれほどの一本には出会ったことがない。ましてや技能が二つもあるものなど、王都で開催されるオークションでもまずお目にかかれないだろう。
様々な思惑が頭の中を巡る中、ローブ姿の人影はスッと一本の魔剣を取り出すと机の上に置いた。
「フフ。悩んでいるようなのデ、持ってきたうちの一本を特別にお見せしましょウ」
「……ッ! これは……」
魔剣が放つ存在感の強さに、思わず手に取ったリコル。
『魔剣士』のスキルの一つ、『魔剣掌握』ですぐさま能力を把握し、その圧倒的な力を前に興奮で身体を震わせた。
「実はですネ。私としてモ、無能……イゼルと言いましたカ? 彼が非常に邪魔なのですヨ。なのデ、ぜひとも貴方には彼を消してほしいのでス。その魔剣は良い相棒としテ、貴方の力になってくれるでしょウ。もちろン、お代は結構ですヨ」
「ほう……? ククッ、良いだろう。一時的に協力してやろうじゃないか! それで、もちろん他にもあるんだろ? 俺が欲しいと言えば、ザギム様は必ず購入してくれる。あるだけ見せろっ!」
「フフ、ありがとうございまス」
その後やってきたザギムを交え、ローブ姿の人影が販売用に持ってきた魔剣四本全てを白金貨一枚で購入。提供された分と合わせて、計五本の新たな魔剣を手に入れたリコル。
商談を終えるとすぐさま街の外へと繰り出し、片っ端から目につく魔物を屠っていった。夜になっても興奮は収まらず、無我夢中で剣を振り続ける。
月明りに照らされた魔物の死骸が散らばる中、己を満たす全能感に酔いしれたリコルの高笑いだけが静かな夜空に響くのだった―――。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
この話をもって2章は完結となり、次からは3章となります。
引き続き楽しんで頂けるよう執筆していきますので、今後とも追放ノ道化師<クラウン>をよろしくお願いしますー!




