46話 上を目指します
イゼルたちがセリエンス迷宮を踏破した翌日。
いつものイゼルに戻ってはいたが、昨夜の――四人での話し合いについてはまったく覚えていなかった。
レーティアたちは意図的に隠しておいたのだろうと推測し、疲れてすぐ眠ってしまったのだと説明。色々ありましたもんねと苦笑いを浮かべるイゼルを見て、なんとかならないのだろうかと思いを馳せる。
朝食を済ませた四人は、部屋に集まり今日の予定を考えていると、ノックの音が響く。
「イゼル様方御一行でお間違えないでしょうか? 先ほどギルドから伝令があり、話があるので時間のあるときに顔を出してほしい、だそうです」
要件を伝えた宿屋の主人はぺこりと頭を下げると、その場を後にした。
ひとまずギルドで話を聞いてからその後のことを考えることにした一行は、準備を済ませるとギルドへと移動。イゼルたちに気づいたユリーアがシクルに声をかけると、個室へと場所を移す。
「お呼びたてしてすみません。実は、あの後本部へとすぐに報告を上げたのですが、ゲラート様がセリエンスにおられるということで、直々に対処して頂くことになりまして――」
ゲラートの見解は以下の通り。
1.ギルドマスターとして、魔物の氾濫を阻止しようと尽力している冒険者に対し、権力を笠に着た傍若無人な振る舞いはお粗末と言うほかない。
2.その者がどのような者であれ、緊急時において情報とは生命線であり、真偽の確認を急がせるならばともかく、足を引っ張ろうとするなど言語道断。
3.件の報告も事実であったが、結果として冒険者がその身を挺して解決してくれたからこそ無事に済んだものの、一歩間違えれば数多の命が危険に晒されていた事実はとても重い。
4.上記の理由から、セリエンス支部ギルドマスターはその地位をはく奪。及び、冒険者ギルド職員からも除名処分とする。
5.報告にあった魔剣は要調査案件として扱う。
「以上が事の顛末です。すでにギルドマスターは昨日付けで任を解かれました」
「ふむ……。蜥蜴の尻尾切りというやつか」
シクルもレーティアも複雑そうな表情をしており、この結果に納得いっていないのが顔に出ている。
「魔剣についても調査案件とするとは言っていますが、リコルが持っていた魔剣だと認知されていますからね。おそらく、詳細不明として片づけられるでしょう」
「アレはそんな生易しいもんじゃねぇ。しっかり調査しねぇと、後々大惨事になりかねんと思うがなぁ……」
呆れた口調でジレグートが零すが、本部がそれほど危険視していない以上、どうにもならないのは明白。実物を目にしているからこそ、危機感を強く持っているというのもあるだろう。
「それから、ミーナさんたちのことですが。彼女たちの処分は、イゼル様方に一任されることとなりました。本人たちは罪を認めているのですが、いかんせんリコルの報告と食い違う部分も多くて。ギルドとしてもどう裁くべきか判断できず、被害者であろう皆様に決定していただこう、という結論に落ち着きまして……。最も重いものをお望みでしたら、冒険者ギルドからの除名処分にも対応する、とのことです」
「そこにリコルは含まれていない、ということか?」
「……はい。リコルはあくまで迷宮主を討ったのは自分であり、襲われた被害者だと主張しております。ゲラート様も、お互いの主張が食い違っている以上、どちらも明確な証拠を提示できない以上真偽を明らかにするのは不可能であり、これ以上の追求は無意味だという見解を示しました」
「……Sランクさまさまだね。まぁ、冒険者ギルドとしても将来的に高い戦力になるってわかりきってる以上、無下に扱えないんだろうけど」
元受付嬢として、一定の理解は示したものの不満そうなリリスに、シクルとユリーアは頭を下げる。
「まぁ仕方ないと割り切るしかないか……。ヤツらはヤツらで、危険度の高い魔物が出たときなんかは命がけで討伐に向かわされるわけだからな。人類にとって必要な存在なのは間違いない」
「そう言って頂けると助かります……」
自身のふがいなさ故か、疲労困憊といった様子のシクル。
ユリーアも恩人に対して何もできないことが歯がゆいのか、悔しそうな表情をしていた。
そんな中、ぐっと何かを考え込んでいたイゼルが口を開く。
「あの……。ミーナさんたちは、今どこに?」
「エンさんの体調のこともあり、ギルド直営宿の一室にて休んでもらっていますよ?」
「お会いすることはできませんか? 話が聞いてみたいんです」
「ですが、それは……」
困り顔のシクルに、レーティアも続く。
「私からも頼む。彼女たちから攻撃を受けたのは事実だが、それはリコルの命令の上で、だ。なぜやつの命令に従っていたのか、気になるんだろ?」
「はい……」
「フッ。イゼルらしいな」
嬉しそうに笑うレーティアがイゼルの頭を撫でる。
すっかり頭を撫でることがクセになっていることに気づいてないレーティア達を見て、シクルも頬を緩ませると個室を出てミーナたちの元へと案内した。
部屋の扉をシクルがノックすると、中から「どうぞ」と声がする。
「あなたたち……」
イゼルたちを見て驚いた様子のミーナ。
それ以上は何も言わず、静かに部屋の中へと案内した。
「お会いするのは何度目かですが、きちんと挨拶をしたことはないので初めまして、ですかね。イゼルです、よろしくお願いします」
「レーティアだ」 「……リリス」 「ジレグート、よろしくな」
イゼルに続き三人が挨拶すると、びっくりして固まるミーナたち。
「えっと……ご丁寧にありがとう? うち……違うや、私はミーナです」
緊張した様子で挨拶するミーナ。
薄い水色の長い髪をツインテールにした、幼さが残るものの綺麗な顔立ちの少女で、見た目だけなら10歳と言われても信じてしまいそうな幼女体型をしている。
「アリーです」
続いて自己紹介したのは、薄緑色の髪をワンサイドアップでまとめた猫目の美少女。
表情もあまり変わらず、淡々とした喋り方はとてもクールな印象を感じさせた。
「さ、サラですっ!」
ウェーブのかかったオレンジ色の髪を揺らしながら、元気いっぱいに頭を下げた少女。
素朴な顔立ちだが整っていて、アリーたちと同年代そうだが体つきは最も大人びている。
「……エンです」
最後に挨拶したのは、薄い赤色のストレートヘアが印象的なやや勝気な印象を受ける美女だった。
四人の中で一番大人びた雰囲気を持っており、レーティアやリリスに負けず劣らずのスタイルをしている。
彼女は人狼に取り込まれた影響なのか、一晩たった今でもアリーたちに身体を支えられながらようやくベッドの上で身体を起こせる程度にしか回復していなかった。
「体調はどうですか? どこかおかしいところはありませんか?」
心配そうにイゼルが尋ねると、目をぱちくりさせたあとフフッと笑う。
「ええ、大丈夫よ。貴方のお陰で助かったと聞いているわ。本当にありがとう」
ベッドの上で丁寧に頭を下げるエン。
「本当にありがとうっ! うちらがこうして生きていられるのも、また話せたのも全部イゼルさんたちのお陰です! なのに、うちらは……謝って許されることじゃないけど、本当にごめんなさいっ!」
ミーナが涙を零しながら頭を下げると、アリーとサラもごめんなさいと何度も口にしながら頭を下げた。
「今日はそのことでお話を聞きたくて、シクルさんに無理を言って連れてきてもらったんです。ミーナさんたちが彼に従っていた理由が何かあるのでしょうか?」
「……いえ、なにもありません。で、ですがっ、アリーたちは関係ないんです! うちが……うちがリコルについていこうって決めて! なので、責任はうちにありますっ! どうか、彼女たちだけは……!」
「ミーナ、何言ってるの。私たちは話し合って決めた、一人だけ罪をかぶろうなんて許さない」
必死に頭を下げたミーナを、鋭く睨むアリー。
おどおどとしながらも、二人の間を取り持とうとするサラ。
三人の様子を見ていたエンは、フーとため息をついた。
「大した理由じゃないわ。私たちは全員、両親が貴族の不興を買って処刑された孤児なの。孤児院で育った私たちは、運良く冒険者になれる職業を授かった四人でパーティーを組み、鋼鉄級まで上り詰めることができたの。だけど、女だけのパーティーっていうのは目立つのよ。男たちから色目を向けられることも多くてね。ついに貴族にも目をつけられてしまって、困り果てていたところをリコルに助けて貰う代わりに、今回の救援に協力する約束で参加したって訳。彼に逆らえば、私たちは後ろ盾をなくし、貴族の言いなりになるしかない。ただそれだけよ」
よくある話だわ、と自嘲気味に笑うエン。
「う、うちの両親は、間違ってることを間違ってるって声をあげたら、怒った貴族にあらぬ罪を着せられて殺された……。子爵家の御曹司にたてつけば自分もああなるかもって考えたら、その時の光景が蘇って……」
嗚咽をもらしながら涙を流すミーナ。
アリーとサラも同じ経験をしているようで、静かに涙を流していた。
「私も同じようなものね。両親のしたことが、間違っていたとは思ってないわ。でも、ああはなりたくなかったのよ……」
我が身可愛さに他者を蹴落とそうとした時点で、憎んでいたはずのあいつらと同じことをしていると気づけなかった愚か者だけどね。
そう言って涙を流したエンは、放っておけばすぐに命を絶ってしまいそうな、虚ろな瞳をしている。
「レーティアさん……。皆さんが言っているようなことは、日常的に起こっている話なんですか?」
「……ああ。頻繁にとは言わないが、よく聞く話だ」
「どうしてそんなことが許されるんですか? 貴族だからですか?」
「……そうだな。やつらは、他者を黙らせる力……権力がある」
「僕にも……僕にも、そんな力があれば止められますか?」
ぐっと拳を握りしめ、真剣なまなざしで問いかけるイゼル。
「力に力で対抗しても、争いを生むだけだ。だが……守ることはできる。冒険者等級が高くなれば、貴族とておいそれと出だしはできん。それは、その冒険者が庇護する者とて同じだ」
「等級……。わかりました。僕は……もっともっと強くなります。同時に、上を目指します」
真剣な表情で宣言したイゼル。
その時初めて、明確に自分の意志で等級を上げたいと強く願い、実現させると決意した―――。
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