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44話 コイツとは関わらないでくれ


 ギルド内がざわつき始め、警備隊長が口にした言葉の真意をあーでもないこーでもないと議論し始める冒険者たち。

 ただ一人、そんな事実を認められない――認めたくないリコルだけが、怒りでワナワナと身体を震わせていた。


「ふざけるなっ! 銀級(シルバー)の女ならまだわからなくもねぇっ! だが、そいつは不正で鉄級(アイアン)になった、最底辺の無能だぞ?! なんでそんなやつにあっさり負けを認めてんだ! てめぇもそいつから金でも渡されたのかッッ?!」


 怒りを顕にして叫ぶ姿に、冒険者たちが静まり返る。


「確かに職業(クラス)の恩恵は偉大だが、それが全てではない。Eランク認定されたが努力で冒険者として鉄級(アイアン)鋼鉄級(スチール)まで上り詰め活躍する者もいれば、Aランクでも落ちぶれあっさり命を落とす者もいる。Sランクだからといって、君に彼らを見下す権利も、憶測で貶める権利もありはしない」


 低い声音で言い放った警備隊長。

 その言葉に一部の冒険者――自身もDランク以下のクラスを授かった者たちは賛同し、申し訳なさそうな視線をイゼルたちへと向けた。


「だからなんだってんだ!! どれだけ綺麗ごとを並べようが、一定以上の強さを得るには恩恵無しで超えられない壁が存在し、先に進めるのは俺様のような持つ者だけ! そして、いざというときに本当に活躍できんのもな!! だからこそ、クラス同様冒険者等級だってランク分けされてるんだろーが!! それは力のねぇやつが夢を見て、足踏みを乱さないためにだろ?!」


 リコルの言葉に、「そうだそうだー!」と同意を示す冒険者。彼らは自身がBランク以上のクラスを授かった者たちだった。

 実力社会の冒険者たちにとって、クラスは言わば1つの指針。必然的に実力に直結するクラスランクは重要視され、ランクの低い者は高いものにこき使われ搾取されることもザラにある。

 だからこそ、リコルの言葉を正しいと思うものも多く、横暴な態度も受け入れられていた。


「君の言うことは最もだ。小規模な相手と戦うときには、君のような高いクラスランクを持つ者が重要視されるだろう。だが、大規模な相手と戦うときはどうだ? 君一人で解決できるのか? 君が前線に出ている間、誰が後方を守る? 誰が支援する? 誰が救援物資を運んでくる?」


「ぐっ……。そんなもの、前線にも出れねぇような雑魚にやらせときゃいいだろ! 命をかけて戦うのは、いつだって俺様のような力を持つものなんだ!!」


「……そうか」


 悲しそうな、それでいて哀れな者を見るような瞳をリコルに向けた警備隊長。


「……何事かね?」


 そこへ、身なりの整った老年の男性が現れた。

 グレーのスーツに身を包み、白くなった髪をオールバックにまとめているが、背筋はピンと伸び年齢を感じさせない肌艶をしている。

 鋭い眼光に冒険者たちですら一瞬ビクッとなる中、最も驚いていたのはギルドマスターだった。

 額に汗を浮かべながら、手をきりもみして近づく。


「ゲラート様! ど、どうしてこのような場所に?!」


「ここにSランク所持者(ホルダー)が来ていると聞いてね。迷宮(ダンジョン)の報告を聞きがてら、顔を見に来たんだよ」


 口元に笑みを浮かべながらも、一切笑っていない瞳にギルドマスターの顔が引きつる。


「それで? 噂のSランクホルダーはここにいるのかね?」


「は、はいっ! リコルくん、こっちに来て挨拶しなさいっ!」


 雑な扱いに一瞬ムッとしたものの、ギルドマスターの腰の低さから相応の地位にある人物なのだろうと予測したリコルは、社交界に出ているときのような貴族然とした所作で出向いた。


「初めまして。ご紹介に預かりました、リコルと申します。ゲラート殿がお探しのSランクホルダーとは、私のことでしょう」


 優雅な動作で一礼し、にこりと微笑んだ。


「さすが、直に子爵になろうというものは雰囲気が違うな。ご丁寧にどうも、私はゲラート。一応、冒険者ギルドの幹部をさせてもらっている。今後も君には活躍してもらうことになるだろう、宜しく頼むよ」


「有難きお言葉。今後とも冒険者ギルド、引いては民のために精一杯努力させて頂きます」


 まるで別人のようなリコルの態度に、警備隊長をはじめシクルやユリーアたちも顔をしかめる。

 だが、口に出して文句を言えるものは居ない。

 ゲラートがわざわざ会いに来た人物へケチをつければ、ゲラートの面子を潰すようなものだからだ。


「それで? この騒ぎは一体なんだね。もしや、迷宮主(ダンジョンマスター)が討伐されたのか?」


 ゲラートの質問に、言葉を失う一同。

 その雰囲気を機敏に察したリコルが、満面の笑みで質問に答えた。


「ええ、その通りです。ですが、私が討伐を終えたあと、仲間のフリをしていた冒険者と後からやってきた冒険者たちが徒党を組み、迷宮水晶(ダンジョンクリスタル)を奪っていきまして。今、その罪を問うていた所なのです」


「ほう……?」


 目を細め、顎を撫でながらリコルから事のあらましを聞いていくゲラート。

 全てを聞き終えた後笑い声を上げると、リコルの肩をぽんぽんと二度叩いた。


「君の言うことが真実なのだろうな。だが、証拠もなく言い争っても埒が明かない。それならいっそ、この程度の手柄なぞ譲ってやれば良いのだよ。君が授かったクラスなら、今後もっと大きな手柄をいくつも立てられるだろう。ここで無駄に使う時間のほうが惜しい。違うかね?」


「その通りでございますね。ですが、私としてもセレイル支部に送り出して頂いた身であれば、手ぶらで帰ってしまうとその顔に泥を塗ることになりましょう。それでは、申し訳が立たず……」


「ハッハッハ。律儀な男なのだな、君は。それなら、私のほうで一筆したためよう。どうだね?」


「有難うございます。これでギルドマスターも、セレイルの冒険者たちに面目が立ちましょう」


「なに、気にするな。それより、君の話が聞きたいな。これから食事でもどうかね?」


「ぜひ」


 リコルはゲラートから見えないよう、イゼルたちにざまぁみろと言わんばかりにニヤリと笑うと、彼の後に続いてギルドを出ていく。

 残された警備隊長やギルド職員、レーティアたちは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


「おいおい、しけた面してんなよ。鶴の一声でヤツの罪は水に流されちまったが、結果は変わらないんだ。なぁ、ギルドマスターさんよぉ?」


「……ッ! なぜ私に言うのかねっ!」


「確かにな。D級ダンジョンで王魔蛇(キングサーペント)が出たんだ、どう考えたって異常だろう」


 レーティアの言葉にシクルたちとのやり取りを思い出したギルドマスターは、顔から血の気が引いて真っ青になった。


「この度のやり取りも、全て記録していますので。ダンジョンクリスタルの鑑定結果を含め、全て本部へと通達致します」


「あ……あああああ……」


 力なく崩れ落ちたギルドマスターを横目に、頭を切り替えた警備隊長も一礼するとギルドを後にする。

 周囲にいた冒険者たちも、様々な表情をしながら散っていった。


「改めて、この度は本当にありがとうございました。お陰で、セリエンスは救われました。にもかかわらず、深いな思いをさせてしまい申し訳ありません」


 深く頭を下げたシクルに、続くように頭を下げるユリーアや他の職員たち。


「気にしないでくれ。それよりも、内密に報告したいことがある。あと、彼女の状態を診てもらえないだろうか」


 こそっと耳打ちすると、エンへ視線を向けるレーティア。

 シクルはすぐに頷き同僚にエンたちのことを頼むと、控室へと移動。

 リコルがもっていた謎の魔剣のことや、それを手にした男冒険者の末路など、本部に報告するべきか否かを相談。

 念のため報告は上げるが、おそらくリコルが関わっていることもあり、もみ消されるだろうと渋い顔をしたシクル。

 それならそれで構わないとレーティアが告げると、力及ばず申し訳ありませんと頭を下げた。


「だいたいこんな所か。そうだ、近いうちに祝勝会を開こうと話しているんだが、良ければシクルとユリーアも来ないか?」


「私たちも参加して宜しいのでしょうか……?」


「ああ、ジレグートのやつがぜひともと言っているし、良ければ参加してやってくれ」


「な、なにおう?!」


 慌てて抗議しつつも、気恥ずかしそうに顎髭をいじるジレグート。


「フフ、そうですか。では、お言葉に甘えてぜひ。ユリーアもずっとイゼル様方のことを気にかけていたので、喜ぶと思います」


「それは良かった。では、近いうちに日程を決めよう」


 最後はお互いに笑顔で別れると、宿屋へと戻る一行。

 ダンジョンで汚れた身体を綺麗にし、衣服を着替えるとイゼルから話を聞くべく部屋に集まった。


「オレの話はする。だが、その前に1つ言っておかなきゃならねー。あんたら、今後コイツとは関わらないでくれ」


 自身の身体をトントンと親指でつつきながら、真剣な表情で告げるイゼル。

 その言葉に、三人は凍り付いたように固まった―――。

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