43話 立ち位置
「ギルドマスター、それと……リコルと言ったか。話を聞きたいから、本部まで同行してもらおう」
警備隊長がそう告げると、狼狽えだすギルドマスター。
「ど、どういうことだねっ?! 連れて行くなら私たちでなく、そこの犯罪者どもだろう?!」
「はぁ……。これを見ろ」
呆れた様子で首を振ると、羊皮紙をギルドマスターの目の前に掲げて見せる。
「これがなんだと……。ん? んんっ?! 迷宮主が王魔蛇だとっ?! 将軍級魔蛇ではなく?!」
最初は興味なさそうに目を通していたギルドマスターだったが、ダンジョンマスターの項目を見て驚きながら羊皮紙を食い入るように何度も見直す。
「彼……リコルが先ほど告げた内容と、事実が異なるようだな。そうなると、彼の報告自体怪しいと判断せざるを得ない。だから、話を聞かせろと言っている」
「ど、どういうことですかリコルくんっ?!」
状況が呑み込めず、助けを求めるようにリコルへと視線を向けるが反応はない。
警備隊長が怪訝そうに見つめていると、小さくため息をついてから笑い出すリコル。
「いやぁ、あまりにも小さく弱かったので、てっきり将軍級だと思ったんですが。僕の勘違いで、実際は王級だったみたいですね」
お騒がせしてすみませんと謝りながら、笑みを絶やさない。
ギルドマスターはその言葉にほっとした表情を見せ、周囲も「なんだ、そういうことかよ~」と笑いだす。
だが、警備隊長だけは冷たい視線を送っていた。
「彼はこう言っているが、どうなんだ? 君たちの意見を聞きたいんだが」
イゼルたちへと視線を向ける警備隊長に、肩を竦ませて笑うイゼル。
「アレが小さいって言えるなんて、リコルくんは普段どれほど大きな魔蛇を倒しているのか気になりますよ~」
「というと?」
「オレたちが十階層で見たキングサーペントは、体長10mを超える異常なサイズでしたからね~」
「なにっ?! でたらめばっか言ってんじゃねぇぞ!! どこまでハッタリをかませば気が済むんだよ!!」
おどけながら話すイゼルに、焦りを隠せないリコル。
その言葉が事実だと証明されてしまった場合、嘘に嘘を重ねてしまった手前もう撤回はできないし、誤魔化すこともできないのだ。
そんな内心を見透かすように、笑うイゼル。
「それを証明することはできるか?」
真面目な表情で告げる警備隊長に、ジレグートが鱗を一枚取り出して見せた。
「こいつはそのキングサーペントから剥いだもんだ。鱗のサイズを見りゃ、本体のサイズを推し量れるんじゃねぇか?」
受け取った鱗を見て、誰もが息をのんだ。
それ一枚で小盾が作れそうなほど立派な鱗。とてもじゃないが、これが蛇の鱗などと信じられないだろう。
「なんだソレは、そんなものがサーペントの鱗のはずないだろ? どうせつくんなら、もっとマシな嘘を思いつけなかったのか? まぁ無能とその仲間じゃ無理な話か」
鱗を一目見て嘘だと断じたリコルは、余裕を取り戻すとハハッとあざ笑いながらイゼルたちを見下した。
「ふむ……。すまないが、鑑定員を呼んでもらえるか?」
警備隊長がシクルへ声をかけると、カウンターの奥から一人の女性を連れて戻る。
ウェーブがかかったオレンジ色のロングヘアに、たれ目がちな瞳。どこかおっとりとした印象を感じさせる女性だった。
「ギルド職員で中級鑑定士のエレノアですー。こちらを鑑定すれば宜しいですかー?」
警備隊長に問いかけると、こくりと頷いたのを確認してエレノアが『鑑定』のスキルを発動。瞳が青白く光りを灯し、手渡された鱗をじっと見つめる。
「この鱗はサーペント種のものですねー。ですが、変異体と出ているので通常の個体のものではなさそうですー。上級鑑定員でしたらもっと詳しいことがわかるかもしれませんが、私にわかるのはここまでですねー」
ふぅーと息を吐きだしながら、見えた情報を伝えるエレノア。
「サーペント種のものだとわかっただけで十分だ。ありがとう」
「いえいえー」
ゆったりとお辞儀をしたエレノアは、シクルと共にイゼルたちの傍へ並ぶ。
その姿を見たリコルが、異議を申し立てた。
「くそっ! こんな結果認められるか! 見ろ、そいつの立ち位置を! どうせその無能から金を握らされて嘘の結果を伝えたに決まってる!!」
「そ、そうだっ! 思えば、ここの職員――とくにそこのシクルやユリーアなんかはそこのガキに肩入れしていたっ! そんなやつらの証言などアテにできんっ!」
なんだかんだと理由をつけて、無効だと言い張る二人。
だが、そんな言い訳が通じるほど警備隊は甘くない。
「そうか。ならばなおさら、同行してもらわないとな。お前たちの言う不正とやらがないよう、こちらで上級鑑定員を手配しよう。それならば文句はあるまい?」
警備隊長の提案に、良い言い訳が思いつかず言葉に詰まる二人。
リコルの主張や垣間見せる反応に違和感を抱き始めた一部の冒険者たちが疑心的な視線を送り始め、意見が二つに割れ始めた。
イゼルたちを無能のハッタリ集団と見下す者たちと、実はイゼルたちのほうが正しいんじゃないかと思い直す者たち。
どちらも行きつくところは同じで、真実をはっきりさせろという雰囲気が強くなっていく。
「お言葉ですが。あなた方の言う立ち位置が重要になってくるのでしたら、それこそギルドマスターは最初から一貫して彼の言うことを全肯定されてますよね? 一度でもイゼル様たちの意見に耳を傾けましたか?」
シクルが冷ややかな視線を向けながら問いかけると、さらに顔をしかめて行き場のない怒りで拳を強く握りしめるギルドマスター。
「その話は興味深いな。彼ら――イゼルパーティーも、リコルパーティーも救援依頼で来た冒険者で、どちらもセリエンスをホームとする者ではないと聞いているが? なぜそこまで信頼に差ができたんだ?」
「そ、そんなもの決まっているっ! 片や史上初の最低ランクを授かった無能と、『銀の死神』などと不吉な二つ名をつけられた冒険者のパーティー。片や、身元がしっかりとしている貴族でありながらSランク所持者、さらに支部認定の派遣員であるリコルくん。どちらのほうが信頼を置けるかなど、一目瞭然だろう?!」
「そ、そうだっ! だいたい、そいつは無能でありながら鉄級に上がっているばかりか、ソロで小魔鬼王を討伐したなどとホラを吹く嘘つきだぞ! そんなやつの言葉なんて信用できるわけないだろっ!!」
ここぞとばかりに言葉を並べ立て、自分たちの優位性を確保しようした二人。
だが、その狙いとは裏腹に警備隊長は別のところで驚いていた。
「こんなやつを支部認定の派遣員と認めた、ね……。それより、ゴブリンキングをソロで……君たち、その話は本当なのか? 私の前でも、嘘でないと断言できるか?」
「あー? 断言も何も、ここに来る前は豚鬼王の群れを討伐してきたんだが。なのに、どうして格下のゴブリンキング……それも部下もほとんどいないような魔物のことで嘘をつかなきゃならないんだ?」
呆れた表情を浮かべるイゼルに、笑いだす警備隊長。
「ああ、すまない。君たちが噂のビートダッシュの救世主だったのか、と思ってね。その節は、こちらも手一杯だったとはいえ救援に行けなくて申し訳なかった」
「お互いやるべきことをやってただけだろ。で、ソロ討伐の確証がほしいなら一騎討でもしてみるかい?」
どうする? と問いかけられ、自嘲気味に笑いながら首を横に振る警備隊長。
「ありがたい申し出だが、遠慮させてもらおう。私も一応、この街の警備隊を預かるトップだからな。部下の前で無様に負ける姿を見せるわけにもいかない」
その言葉に、ギルドマスターとリコルはもちろん、周囲にいた冒険者やシクルたちまで凍り付いた。
警備隊長といえば警備隊の中で最も実力があるものであり、セリエンスに置ける最大戦力といっても過言ではない。現に、リコルは警備隊長がいるからこそ、実力行使に出れずにいた。
そんな男が、戦わずして負けを宣言したに近い言葉を大勢の前で口にするなど、信じられることではなかった。
否、警備隊長ほどの実力を持つ者だからこそ、今のイゼルとの間にある実力差を推し量れたとも言えるのだが―――。
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