42話 裏切り者御一行
ミーナたちを連れてギルドへと戻ったイゼル一行。
その姿を見つけたギルドマスターは、ニヤリと笑った。
「おやおや、これはこれは嘘つきと裏切り者御一行様じゃないですか。よくもまぁ、平然と顔を出せたものですねぇ?」
「あー?」
何言ってやがんだこいつって顔をしたイゼルに、駆け寄るシクル。
「実は先ほどリコルがギルドへ報告に来て――」
シクルの話を要約すると、こうだ。
リコルが迷宮主を討伐したところ、ミーナを始めとするパーティーメンバーが報酬と名誉欲しさに全員裏切り、ダンジョンマスターの魔核と迷宮水晶を要求。
そこへイゼルたちが乱入し、ミーナたちと協力してリコルを脅迫。命が惜しくば手柄をよこせと武器をつきつけられた。
いくらSランク所持者といえど、味方が一人もいない上に相手には銀級までいる。多勢に無勢だったリコルは、ギルドへ報告するために一度諦めたフリをして要求を呑み、浮かれた隙をついてその場を退くと急ぎギルドへ戻った――という話らしい。
「お、お前たち! さっきはよくも、冒険者としてあるまじき非道な行いをしてくれたな! だが、ここではそんな横暴はまかり通らないぞっ! 素直に事実を認めて、謝罪するんだ! そうすれば、僕からも少しでも罪が軽くなるよう頼んであげるから!」
タイミングを見計らったようにリコルが現れ、演者も真っ青な熱演を披露。
周囲からは「ひどい目にあわされたのにリコルさんはなんてお優しいんだ……!」といった声が囁かれ始め、ギルド内は一気にイゼルたちが悪役といったムードが漂う。
「リコルくんもこう言ってくれている。素直に罪を認め、彼から奪ったものを返却するんだ」
ニヤニヤしながら、手を差し出すギルドマスター。
「なんだこの茶番はっ! これが本当にギルドマスターのすることなのかっ?!」
怒りを堪えきれず、ワナワナと震えながら声を荒げるレーティア。
「話になんねーな。おい、もう帰ろうぜ? やることはやったんだ、もうここに顔を出す必要もねぇだろ」
「……同感。報告は別のギルドですればいい」
踵を返した三人の前に立ちはだかる、警備隊らしき男たち。
全員が重厚な鎧に身を包み、槍の穂先をレーティアたちへ向けている。
「そんなわけにはいきませんねぇ。あなた方には現在、脅迫、殺人未遂、強奪といった容疑がかけられている。大人しくお縄につきなさい」
水を得た魚のように、余裕が滲む笑みを浮かべたまま見下すギルドマスター。
限界を迎えそうなレーティアたちは、戦闘も辞さないといった雰囲気を醸し出す。
一瞬たじろいだギルドマスターも、状況的有利からすぐに立て直した。
「往生際が悪いぞっ! どうしてそこまで罪を重ねる?! いくら君たちが優秀な冒険者であろうと、この数相手に勝てるわけないだろう! それに、ここには数多くの冒険者もいるんだぞ?! 逃げられるわけないだろう?!」
リコルの言葉に、ミーナたちですら怒りで震え始める。
そこへ響き渡る、愉快そうな笑い声。
「クハッ。クハハハハっ! いやぁ、さすがお坊ちゃんの考えることは面白くて良いね~」
腹を抱えて笑うイゼルに、一瞬ビクッと震えたリコル。
首を大きくブンブンと左右に振ると、笑い返した。
「己の犯した罪の重さに耐え切れず、気でも触れてしまったのかい?」
「あぁ、そーゆーのはいいよ。で、自称ダンジョンマスターを討伐した……リコットくんだっけか?」
「リコルだ!」
顔を真っ赤にして怒るリコルに、再び笑い出すイゼル。
「あーあー、そんな名前だったなぁ。で、リコルくんに聞きたいことがあんだけどよ、別にいいよな?」
「フン、なんで僕が貴様なんぞの質問に答えなきゃならない?」
「まぁそー言うなよ。なに、簡単な質問だからさ? リコルくんの報告が本当だとするなら、魔核と迷宮水晶を奪われたのは、ダンジョンマスターを倒した後だったんだよな?」
「そうだよっ! だからなんなんだっ?!」
「なら当然知ってるよなぁ? ダンジョンマスターが何の魔物だったのか」
「「「あっ……」」」
何かに気づいたミーナたちが声を漏らすと、ニヤッと笑いながらシーと合図するイゼル。
質問の意図を理解したリコルは、目に見えて狼狽え始めた。
「ど、どうしてオレ様がそんな質問に答えなきゃならないっ?! お前たちが奪ったものをさっさと返せば、それで終わるんだっ! 早く返せよ!!」
「おいおい、素が出ちゃってるぜ? 品行方正なお貴族様のフリはもう良いのか?」
「ぐっ!!」
悔しそうに顔をしかめ、睨みつけるリコル。
状況が悪くなってきたことを悟ったギルドマスターは、警備隊に命令を出す。
「ええい、なにをやっている! 早くこいつらをひっとらえるんだ!」
「おいおい、どうしたってんだよギルドマスターさん。なぁ、あんたらだって気になるよなぁ? リコルくんが討伐したっていうダンジョンマスターが、一体どれほどの魔物だったのかさ?」
イゼルが周囲に問いかけるように声をあげると、「確かに」「どれほどの相手だったんだ?」「武勇伝を聞かせてくれよ!」といった声が冒険者たちから上がり始め、リコルへと視線が注がれる。
警備隊もどうして良いか判断に悩み隊長に視線を向けるが、警備隊長は待てとだけ合図しじっと静観を決め込んだ。
「ええい、黙れっ! そんなものはあとでいくらでも聞かせてやるっ! だが、今は犯罪者を捕らえるほうが先だっ!!」
「別に詳しく話せとは言ってないぜ? 何を倒したのか聞かせてくれって言ってるだけだ。たった一言だぜ、簡単だろ? 何をためらう必要があんだ?」
大きく肩を竦めたりと、オーバーなアクションで周囲を巻き込んで答えざるを得ない状況を作りながら、不敵な笑みを浮かべて問いかけるイゼル。
ぐぬぬぬぬと顔をしかめたリコルは、何かを考え込んだあとすまし顔に戻った。
「そこまで言うなら仕方ないな。『将軍級魔蛇』だよ。信じてもらえないかもしれないけどね」
自嘲気味にフフッと笑うリコル。
その言葉に、冒険者たちが沸き立った。
「ジェネラルサーペントとか、D級ダンジョンで出る魔物の強さじゃないよな?!」「それをあっさり倒しちゃうとか、さすがSランク所持者!」「私たちを不安にさせないために、あえて黙っててくれたのかな?! さすがリコルさんよね!!」
次々にリコルを褒めたたえる言葉が並び、「そんなことないさ、みんなが上層の魔物を狩ってくれてたから攻略に集中できたんだ」と謙遜しながらも、その表情はもっと褒めろと言わんばかりの笑顔。
「あ、そうなんだ。オレたちはジェネラルサーペントなんて見なかったし、リコルくんが倒してくれてたお陰かな? すごいね~」
「フフン、そうだろう。もっと感謝し……今、なんと言った?」
「あー? オレたちはジェネラルサーペントなんて見なかったって言っただけだが?」
「……ッ!!」
周囲が「やっぱりあいつらはリコルさんの後をつけて、下層に潜ったなんて嘘ついてただけだったんだな!」と噂する中、顔を青くしていくリコル。
「シクル、悪いんだがこれの鑑定をお願いできるか?」
シクルはレーティアが差し出した白い水晶玉を受け取ると、それが何かに気づきさっと一礼してカウンター内へと急ぐ。
「ま、待ちたまえっ! 鑑定なんて後で良いだろ?!」
慌てて止めるリコルに、首を傾げる冒険者たち。
「どうしたんだね、リコルくん。アレはダンジョンクリスタルだろう? 君の言うことが正しいと証明できる良い機会じゃないか」
リコルの言葉を信じて疑わないギルドマスターも、不思議そうに首をかしげた。
迷宮水晶はソレ事態に素材的価値はないが、鑑定にかけるとドロップした迷宮、各階層に出現した魔物や、階層ボスなどの情報を表示する。
冒険者にとって迷宮を攻略したという一種の証明代わりになるものであり、トロフィーのようなものだが、今回はそれを逆手にとった。
九階層の階層ボスすら倒していないリコルに、ダンジョンマスターが何の魔物だったのかなどわかるはずがないのだ。
そうこうしている内に、カウンター内にある鑑定用の魔導具にダンジョンクリスタルをセットしたシクルが、表示された鑑定結果に目を見開く。
すぐさま羊皮紙に内容を転写すると、バタバタと駆けながらイゼルたちの元へ戻った。
「レーティア様、こちらをお返しします。この度は、本当にありがとうございました。それから、警備隊長。こちらをご確認ください」
シクルが羊皮紙を手渡すと、視線を落として内容を確認する警備隊長。
そこに記された内容にため息をつく。
「この内容に間違いはないのか?」
「ええ。セリエンス迷宮産のダンジョンクリスタルで階層ボスがこの配置だった事例はありませんから、今回の迷宮主が落としたもので間違いありません。上層の配置も、他の冒険者からの報告と一致しています」
警備隊長はちらりとイゼルたちを見やると、頭を振った―――。




