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41話 迷宮攻略の終わり


 

 リリスが短刀でワーウルフの腕を切断し、ジレグートが大戦槌(ウォーハンマー)で身体を吹き飛ばす。

 ワーウルフは抵抗なく飛んでいき、壁へとぶち当たった。

 レーティアは落下していく板状の半魔剣から飛び降りると、急いで駆け寄りイゼルを抱きかかえる。


「イゼルっ! イゼルっ!!」


 涙を流しながら必死に呼びかけると、うっすらと目が開いた。


「大したことないから泣くんじゃねーよ……。それより、回復薬(ポーション)をくれ……」


「リリスっ! 回復薬(ポーション)は余ってないか?!」


 ワーウルフを警戒しているリリスに声をかけると、力なく首を横に振った。

 回復薬(ポーション)を製造できるのは一部の職業(クラス)を持った人間だけなこともあり、一本あたりの単価が非常に高い。

 イゼルたちも緊急用に何本かは購入してあったが、それも使い切ってしまっていた。


「どうすれば……っ!!」


「おい、迷宮主(ダンジョンマスター)が落としたやつはどうだ?! 色的に回復薬(ポーション)だったろ?!」


「だが、鑑定していないんだぞ?! もし危険なものだったら……!」


「バカやろー! すでに危険なんだ、一か八かに賭けるしかねぇだろ?!」


 ジレグートが怒鳴り声を上げると、ぐっと唇を噛むレーティア。

 基本的に迷宮(ダンジョン)のボスが落とす小瓶は、上級以上の回復薬(ポーション)魔力回復薬(マジックポーション)なことがほとんどだが、稀に呪いがかかったものが存在する。

 そのため、まずはギルドで鑑定してもらい、安全性を確かめてから使用するのが一般的。

 だが、ジレグートの言うように一分一秒を争う傷なのも確かだった。

 街ですぐ手に入るような回復薬(ポーション)は品質の低いものが大半で、効果の高いものは店頭には並ばない。

 取り出した回復薬(ポーション)を握りしめたまま、決断に悩むレーティア。


「別にあんたが気負う必要はねーよ……。今あんたに死なれるのは()()から、オレが変わっただけだからな……」


 イゼルはヘッと笑うと、左手でワーウルフの腕を引き抜き、回復薬(ポーション)を奪うと指で蓋を折って口に運んだ。

 ぽっかり空いた穴が淡く緑色に輝き、見る見る間に傷口が塞がっていく。

 やがて綺麗さっぱり穴が消え去ると、身体の調子を確かめるイゼル。


「だ、大丈夫なのかっ?! 何か違和感とかはないか?!」


 心配そうに詰め寄るレーティア。


「問題なさそうだな。どうやら上級回復薬(ハイポーション)だったらしい。これもイゼルの日頃の行いの賜物ってやつかね?」


 おどけて見せたイゼルは、床に転がった板状の半魔剣を再び浮かせると手元に引き寄せ、片手剣に戻して歩き出す。

 壁にもたれかかったまま動く気配のない、ワーウルフに向けて。


「おいおい、いまさら死んだフリなんてしなくて良いんだぜ? それとも、一方的に消されるのがお好みか??」


 イゼルが殺気のこもった挑発的な視線を送ると、ワーウルフがビクッと身体を震わせた。

 慌てて起き上ると、戦闘態勢を取る。


「そうそう、そうこなきゃな。オレの身体に風穴開けてくれた礼をさせてくれよ」


 獰猛な笑みを浮かべながら駆けだしたイゼルは、半魔剣を袈裟懸けに一閃。

 爪で防いだワーウルフだったが、上空から片手剣が飛んで来ると右腕をあっさりと斬り落とされる。

 必死に左腕を振るうるが、ことごとくを躱したイゼルが左腕も切り落とした。


「おい、そこの連中!」


 片手剣を操作してワーウルフの相手をさせつつ、大きな声でミーナたちのほうを見ながら叫ぶイゼル。


「さっきの火魔法使いも友人なのか?」


 質問の内容に顔を暗くした三人は、少し逡巡したあとにこくりと頷いた。


「あ、そう。んじゃーいつまでもへたり込んでないで、さっさと助けてやれば?」


「ど、どういうことですか?! エンはもう……!!」


 ぽろぽろと涙を零しながら、ミーナが裾をぎゅっと握り俯く。


「男のほうは無理だが、女のほうはまだ助かると思うぜ? 依り代にされてるだけだからな」


「え……?」


「それでも、直にエネルギーが尽きて来れば喰われる。そうなったら最後、助けらんねーぞ?」


「……ッ!」


 顔を見合わせたミーナたちは、一筋の光明をつかみ取るべく決心すると立ち上がった。


「サラ、支援魔法をお願い! アリー、やつの動きを止めて!」


「うん! 『能力上昇(フィジカルブースト)』!!」


「エンを返してもらうよ。『捕縛の矢』」


 サラがスキルを発動すると、ミーナとアリーの身体がポウッと白い光に包まれる。

 すると、すでに弓を構えていたアリーがさらに一段深く弓を引き絞れるようになり、指を離すと20mはあろう距離を真っすぐに矢が飛んでいく。ワーウルフの足元に突き刺さるとロープが身体を捕縛。

 その間もワーウルフ目掛けて駆けていくミーナは、距離が近くなると杖を構えてスキルを発動。


「『水の剣(ウォーターソード)』!」


 生み出された水が杖の先に集まり、剣の形を成す。

 身動きが取れないワーウルフをロープごと袈裟懸けに浅く切り裂くと、ちらりと除くエンの顔。


「エンッ!!」


 杖を放り出すと、エンを救い出そうと無理やり肉をはがして引っ張り出そうとした。

 そこへ、イゼルが切り落としたはずの腕が床を這いながら近づいていき、床を殴りつけて飛びあがると鋭い爪を光らせながら襲い掛かる。


「えっ?!」


 驚いたミーナだったが、避けようと動こうとしたところでピタリと動きを止めた。

 バッと腕を大きく開くと、攻撃を受け止めようとする。


「バカかお前は。気持ちはわからんでもないが、それじゃ意味ないだろーが」


 呆れた声で呟いたイゼルは、ミーナへ迫る腕を二本とも片手剣を操作してリリスのほうへ向けて弾き飛ばす。


「リリス、よろしく~」


「……任された。『爆裂札生成』」


 バタバタと空中で暴れまわる腕に赤い札を投げつけると、印を結んで爆破。

 頭部同様木っ端みじんになった腕は、再生することなく消し飛んだ。


「あ、ありがとうございますっ!」


 ぺこりと頭を下げると、再びエンの救出に取り掛かるミーナ。

 レーティアも駆けつけ、二人係りで体内からエンを引っ張り出すと、エンの胸がわずかに上下していることに安堵したミーナが涙を流しながら抱き着いた。


「あー、感動の再開のところ悪いが、少し離れたほうがいいぞ。まだ終わってないから」


「なにっ?!」


 驚いたレーティアが、エンを抱きかかえてミーナと共にその場から距離を取ると、ワーウルフだったものがうねうねと触手へと姿を変えていく。


「いやー、どうやって作ってあんだろうな、これ。人狼が本体だと思ってたわー」


 軽い口調で話しているが、イゼルの顔は一切笑っていない。

 それほどまでに、先の風穴をあけられた一撃は痛恨の極みだったのだろう。


「ま、でもこれで終いだよ」


 半魔剣を三又の槍のような形にすると、『空中浮遊(エアリアル・マジック)』で投擲。

 半魔剣は触手に突っ込むと、中を切り裂きながら移動していき、やがて何かをひっかけたまま飛び出してくる。


「ジレグート、へし折ってくれ」


 ジレグート目掛けて引っかけてきたもの――リコルの魔剣を放り投げる半魔剣。


「なるほど、そーゆーことか。あいよっと!」


 大戦槌(ウォーハンマー)を大きく上へと振りかぶると、飛んできた魔剣へ振り下ろす。

 床へとクレーターが出来上がるほど強く打ち付けると、挟み撃ちになった魔剣はバキィンっと大きな音を立てながら中央から真っ二つに折れた。

 瞬間、まるで断末魔のように魔剣が激しく震えてキィィィィンという音が鳴り響く。

 もう一度ウォーハンマーを振り下ろして柄部分を砕くと、振動が止まり音が鳴りやんだ。


「終わった……のか?」


 レーティアが恐る恐る尋ねると、頷くイゼル。

 フーと大きく息を吐きだし、安堵の笑みを浮かべた。


「あ、あの……」


 うつむいたまま、声を絞り出すミーナ。

 その後ろにはアリーとサラが並んでいる。


「ほ、本当にごめんなさいっ! それなのに、私たちやエンを助けてくれて……あ、ありがとうございますっ……!」


 涙を流しながら、頭を下げる三人。


「あー? 気にすんなよ。どうもこいつは人が良すぎてな……オレはそれに引っ張られただけだ」


 トントンと胸を親指でたたきながら、肩を竦めたイゼル。

 こうして、短いようで長かった迷宮攻略は幕を閉じたのだった―――。

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