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40話 悲痛な叫び


 レーティアたちが目で追うのがやっとの速度で駆けだしたワーウルフは、フェイントをかけつつ三人を攻撃。かろうじて防げてはいるものの、攻撃に転じる余裕がないまま猛攻に晒された。

 攻撃を仕掛けると見せかけてさらに一段速度を上げたワーウルフは、ジレグートの背後に回り込むと回し蹴りで吹っ飛ばして壁へと打ち付ける。

 先ほど自分が受けたことを真似て、あえて同じ結果を生み出してみせたのだ。


「あぁくそ、いってーな! しかも手加減しやがって、なかなか小ばかにしてくれるじゃねぇか!」 


 むくりと起き上ったジレグートが、恨めしそうに睨む。

 ワーウルフは愉快そうに笑いながら手を叩きつつ、油断なく背後から振るわれた刀をしゃがんで避ける。

地面に手をついたまま足払いでレーティアの姿勢を崩すと、立ち上がりつつ蹴り上げた。


「完全に遊ばれているな、これは……!」


 空中でクルクルと回りながら着地し、ギリッと奥歯をかみしめる。

 速さという点ではワーウルフと大差ないリリスも、技巧の差で圧倒されてしまい、あっという間に吹っ飛ばされた。


「……むかつく」


 メラメラと闘志を燃やし、着地してすぐにクナイをかまえて駆けだす。

 だが、二度、三度と挑んでも結果は変わらず、レーティアとジレグートが参戦してもそれは同じだった。


「あー、ダメダメ。そんなんじゃ何度やっても変わんねーよ」


 魔剣を薄い板のように変質させた上で宙に浮かせ、その上で肘をつきながら寝転がっているイゼルが、あくびをしながらダメだしする。


「「「……は?」」」


 攻撃の手がピタリと止まり、驚いた顔でイゼルを見やる三人。

 ワーウルフがよそ見した三人に攻撃を加えようとしたが、イゼルが一睨みすると大きく距離を取った。


「細かい説明は後にするとして、目の前にしゅうちゅー。ジレグート、あんたの売りはなんだ? 一撃必殺の火力だろ? 二人を信じて機会を待てよ」


「お、おう……?」


「レーティア、一番戦闘経験の高いあんたが言い様に振り回されてどうする? がむしゃらに斬ろうとせず、動きをしっかり見て分析しろ」


「あ、ああ……」


「リリス、自分の役割を忘れんな。まだ前に出るのははえー。サポートに徹しろ。じゃないと仲間が死ぬぞ」


「……わかった」


「ああ、ビビらせてごめんな? もういいよ、良い練習相手になってやって」


 三人に言いたいことを言い終えると、ハッハッハッと荒く呼吸しているワーウルフに向かって無表情で声をかける。


「アォォォオオオオオオン!」


 向けられていた殺気が霧散し、動けるようになったワーウルフは自分の迷いを振り払うように雄たけびを上げると、荒々しく駆けだした。

 レーティアは前に出ると、イゼルに言われたことを反芻しながら行動に移る。

 無理に攻撃をしかけず、避けて、受け流し、抑え、相手の動きをよく見ながら観察。

 先ほどまで一方的に好き放題できていたワーウルフは、次第に苛立ちを募らせていき、どんどんと攻撃が大振りになっていく。


「……そこ」


 大振りな一撃の後のわずかにできる隙に気づいたリリスが、タイミングを合わせてクナイを投擲。

 右肩の付け根、右腕、右足の太ももの三か所に次々と突き刺さり、動きが一瞬硬直したところへジレグートが大戦槌(ウォーハンマー)をぶち当てた。

 防御されたものの、反動で大きく後ろへと後退させられるワーウルフ。


「当たったな」


「ああ、当たっちまった」


「……すごい」


 レーティアたちが感動している中、格下と見下していた三人に一撃をもらったワーウルフは激昂。全身の毛が逆立ち、シャッと音を立てて手と足の爪が伸びる。先ほどまでと違い、獲物を狩るときの獣の雰囲気を纏った。


「ガルルルルル……」


 床にヒビが入るほどの強さを込めて駆け出し、一瞬でジレグートの背後に回り込むと鋭い爪を一閃。ウォーハンマーで防御するも、深々と爪痕が刻まれる。

 ワーウルフが二撃目を繰り出そうとしたところへすかさずレーティアが援護に入るが、猛攻は止まらない。力任せに振るわれる腕や足のどれもが食らえば致命傷を負いかねない重い一撃であり、二人はなんとか協力して攻撃を捌くが少しずつ傷が増えていった。

 少しでも助けになるべく放ったクナイも逆立った毛に阻まれるだけで、リリスの表情が陰る。


「無力さを嘆く暇があったら、どうすれば二人の助けになるのか考えろ。一秒も無駄にすんな」


 イゼルが発破をかけ、気を取り直したリリスはじっと戦況を見つめた。


「……『爆裂札生成』」


 技能(スキル)で生成した赤い札をクナイの持ち手にクルクルッと巻き付けると、ワーウルフへ向かって駆けていく。

 近づけまいと振るわれた腕をなんとか躱し、崩れた体制のまま無理やり背中にクナイを突き立てた。

 大したダメージではないとはいえ、傷をつけられたことに怒ったワーウルフが体当たりをかますと、リリスは床の上をゴロゴロと転がっていく。


「……あとはお願い」


 床に倒れたまま、微笑を浮かべるリリス。

 突き立てられたクナイがドカーンと大きな音を立てて爆発し、背中が黒焦げになったワーウルフが衝撃でぐらりと姿勢を崩す。

 すかさず技能(スキル)を発動しようと刀を鞘に納刀するレーティア。

 そこへ、倒れずに踏みとどまったワーウルフが攻撃をしかけた。


「させねぇよっ!」


 ジレグートはインパクトの瞬間にウォーハンマーを止め、吹っ飛ばすことなくダメージだけを与えてワーウルフの動きを止める。


「『血華(けっか)・飛燕』」


 至近距離で放たれた斬撃は、見事ワーウルフの首を跳ね飛ばした。

 頭部を失い、ぐらりと後ろへ倒れる身体。床を転がっていく首。

 

「いやー、しんどかった……。しばらくダンジョンには潜りたくねぇなぁ」


 その場にへたり込みながら、ジレグートがぼやく。


「同感だな。私もまだまだ修行不足だ……」


 倒れたワーウルフを見つめながら、レーティアが悔しそうに呟いた。


「……私も修行したい。でも、問題はそれより……」


 チラリとイゼルを見るリリス。

 二人も視線を向けると、ゆっくりと浮いたままイゼルが三人に近づいて行く。


「あー、とりあえずお疲れさん。まぁ及第点ってとこだけど、よくやったんじゃね?」


 横向きからうつぶせに姿勢を変え、足をぶらぶらしながら笑う。


「なんつーかよぉ、イゼルと喋ってる気がしねーんだが……お前さんはイゼルなのか?」


「あー? 半分正解で、半分不正解だな。オレはイゼルだが、お前らの知るイゼルじゃない」


「どういうことだ……?」


 眉をひそめ、怪訝そうに尋ねるレーティアに、イゼルはどう答えたもんかと悩む素振りを見せる。


「なんて言えばいいのかなー。んー? まぁいいや。それよりさ、悪いんだけどあんたら――来んぞっ!」


 突然声を荒げ、左を向くイゼル。

 三人もすぐに同じ方向へ視線を向けると、跳ね飛ばされた首が頭部だけで地面を進んでくる姿が目に入った。


「なんだぁ?! どうなってんだ!」


 一番近かったジレグートが大戦槌(ウォーハンマー)を振り下ろすと、あっさりと叩き潰される。だが、ウォーハンマーをどかすとぺちゃんこだった頭部が何事もなかったかのように再生し、再び進み始めた。


「……『爆裂札生成』」


 今度はリリスが札を投げつけ、頭部を木っ端微塵に爆破。

 全員がしばらく意識を張り詰めたまま成り行きを見守っていたが、再生する気配を見せない頭部にほっと胸を撫でおろし、緊張を解いた時。

 まるでその瞬間を狙っていたかのように、倒れていたワーウルフの身体が起き上り、鋭い爪を立てながら無防備なレーティアの心臓目掛けて腕を突き出した。

 ワーウルフに気配はまったくなく、気づいているのは視認できたイゼルだけ。


「チィッ!! 『転換箱(コンバート・マジック)』!」


 スキルを発動すると、イゼルを白い箱が。レーティアを黒い箱が一瞬で覆い隠す。

 黒い箱に突き刺さり、反対側へと貫通するワーウルフの腕。爪から滴り落ちる赤い液体。

 フッと箱が消え去ると、そこには右胸を貫かれたイゼルの姿があった。

 レーティアは視界が突然覆われ何も見えなくなり、次の瞬間には景色がガラリと変わっていることに驚く。だが、一目見た瞬間すぐに、何かしらの方法を用いて自分と位置を入れ替え、その身をもってかばってくれたのだと理解。


「イゼルゥゥゥゥゥゥゥウウッ!!」


 彼女の悲痛な叫び声が、室内に響き渡った―――。

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