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36話 迷宮主<ダンジョンマスター>


 イゼルたちがしばらく進むと、突き当りで左右に別れる形の通路にぶち当たる。


「リリス、やつらはどっちに進んだかわかるか?」


「……ちょっと待って」


 じっと床を確認したリリスは、やがて左側を指さす。


「やつらの後を追っても仕方ない。私たちは右側に進んでみよう」


 この判断が吉と出るか凶と出るかはわからないが、ユリーアたちのためにもリコルたちより先に迷宮主(ダンジョンマスター)の元にたどり着きたいイゼルたちは、リコルたちと反対方向の道を進んで行く。

 十階層は今まで通路に出現していた魔物が全て現れ、上位魔蛇(ハイサーペント)上位犬頭小魔鬼(ハイコボルト)上位小魔鬼(ホブゴブリン)精鋭小魔鬼(エリートゴブリン)らが種族関係なく複数まとまって襲ってきた。

 そのこと如くを四人で協力しながら倒し、先へ進むこと二時間。

 イゼルたちの目に、大きな門が映った。


「問題は、迷宮主(ダンジョンマスター)がいるかどうか、だな……」


 道中、何度か二手に別れるタイプの通路があったため、リコルたちが進んで行ったであろう通路と繋がっていないと断言できないだけに、イゼルたちに緊張が走る。

 意を決したイゼルが門を開くと、視界に飛び込んでくる一本の大きな幹。それ以外に魔物らしき姿はなく、肩を落とす。

 急いで街へ戻ろうと一行が足を踏み入れたところで、リリスが叫んだ。


「……避けてっ!!」


 声に反応した三人が咄嗟に左右に飛び散ると、今までイゼルたちがいた場所に上空から木の幹が降ってきた。


「木の魔物だと……? いや、王魔蛇(キングサーペント)かっ!」


 木の幹に見えたのは、キングサーペントの胴体。上空から降ってきたのは、大きな口を開けた顔だった。

 王魔蛇(キングサーペント)は体長5m以上にもなる巨大なサーペントで、豚鬼将軍(オークジェネラル)ですら容易に丸のみにする獰猛な魔物。

 その鱗は非常に硬く、討伐推奨等級は鋼鉄級(スチール)+以上。だが、目の前のキングサーペントは通常より遥かに大きく、ゆうに体長10m以上あった。胴回りも直径3mほどと非常に太い。


「こいつがあの不気味ヤローの言ってた仕掛けってことか! ったく、ヤんなるぜ!」


 即座に大楯を収納拡張魔道具(リュック)にしまい、代わりに大戦槌(ウォーハンマー)を取り出すとリュックを捨てて駆けだすジレグート。

 大きく飛び上がると、身体ごとウォーハンマーを回転させてキングサーペントの背中に叩きつける。


「おいおい、渾身の一撃だぜ?! ヒビが入るだけとかシャレになんねぇぞっ!」


 鱗のあまりの硬さに愚痴をこぼしたジレグート。


「後ろですっ!」


 イゼルの声にキングサーペントの尻尾が迫っていることに気づいたジレグートは、ウォーハンマーの槌部分に手を添えると衝撃をうまく受け流しつつ防御。

 ズザザザザと大きな音を立てながら床に着地し、イゼルが放り投げた回復薬(ポーション)を受け取ると飲み干した。


「レーティア、お前さんの技能(スキル)なら斬れそうか?!」


 離れた場所にいるレーティアに大声で尋ねるジレグート。


「わからん! だが、おそらく全力で斬っても両断するのは無理だろうな!」


 キングサーペントの頭部の攻撃をかわしながら、返事をしたレーティア。


「どうしろってんだ、ちくしょうめ!」


 悪態をつきながらウォーハンマーを構えて駆けだすジレグートの姿を見つめつつ、イゼルは全体を見渡しながら思考を加速させる。

 レーティアは何度か鱗に向けて『血華(けっか)・閃』を放っているが、鱗に剣閃がつくだけで斬撃は肉まで届いていない。リリスも『爆裂札生成』を駆使して攻撃しているが、表面が焦げるだけで大したダメージにはなっていないようだった。

 何か良い方法はないかと考えているイゼルの目に、半ばやけっぱちな行動を起こしている姿が目に留まる。


「オラァァァアアア!」


 ヒビが入った鱗に飛び乗ると、力づくで剥がしとるジレグートだ。


「そうか! ジレグートさんっ!」


 イゼルが呼ぶと、攻撃をかわしつつ戻ってくるジレグート。


「どうした?! なんか良い方法思いついたか?!」


「はい! ジレグートさん、さっき鱗剥がしてましたよね? あれ、同じ場所でもう何枚かできないですか?!」


 尻尾の薙ぎ払いや突きを回避しつつ、会話する二人。


「できねぇことはねぇと思うが……まさか、何千、何万とある鱗を全部剥がせとかいわねぇよな?!」


「言わないですよ! あと5枚くらい剥がしてもらえれば十分です! あと、大楯を使いたいんですが、ダメになるかもしれません。大丈夫ですか?!」


「かまわねぇよ! んじゃ、ちょっくらいってくらぁ!」


 尻尾による叩きつけを回避したジレグートは、落ちていたリュックから大盾を取り出して床に放り投げると、先ほど剥がした場所目掛けて走りだす。


「『空中浮遊(エアリアル・マジック)』!」


 イゼルは大盾をスキルで浮かせると、その上に飛び乗ってリリスたちの元へ向かう。


「……なにそれ、面白そう」


 接近に気づいたリリスが、『天地無用』で天井を駆けながらクナイを投げつつ羨ましそうに呟く。


「リリスさん、この後――」


 苦笑いしながら、大楯をリリスに並走させて作戦を説明したイゼルは、地上付近に大盾を移動させると飛び降りてレーティアに近寄る。


「レーティアさん、この後――」


 レーティアにも同様に説明。


「ふっ、なるほど。どちらにせよこのままじゃ埒があかん、やってやろうじゃないか」


 ニッと笑ったレーティアにお願いします! と言い残し、再び移動。

 鱗を剥がし終えたジレグートと合流した。


「おう、準備はできたのか?」


「はい、二人に説明してきました。ジレグートさんに頼みたい仕事は、尻尾を止めることです。僕かレーティアさんたちに尻尾が向かうと思いますので、なんとか防いでもらえないでしょうか」


「任せな。んじゃ、あとは頼んだぜ」


 ジレグートが尻尾の近くに陣取ったのを確認し、大盾の操作に集中するイゼル。


「いきますっ!!」


 大きな声で作戦決行の合図を出すと、大楯をジレグートが鱗を剥がした部分へと飛ばす。

 盾の内側をキングサーペントの頭のほうに向くようにし、鱗がない部分に縁を押し付けると頭部へと向かって肉に強く押し付けながら動かしていく。


「キシャァアアアアアアアアアアアア!!!」


 甲高い叫び声をあげながら暴れるが、バリバリバリと鱗を剥がしながら進んでいく大楯は所々欠けたりしつつも、キングサーペントの背中に一本の鱗のない道を作り上げた。


「……お願いっ!」


 作戦の決行と共に床に下りていたリリスは、走ってきたレーティアが構えた手に片足を乗せると上空へと放り投げる。

 タイミング良く飛び立ったレーティアはキングサーペントよりも高く舞い上がり、刀を構えるとスキルを発動。


「『血華(けっか)・流閃』」


 鱗のない部分に刀を突き立て、二枚に下すようにサーーーッと背中を駆けながら斬っていく。

 途中、尻尾がレーティア目掛けて襲い掛かるが、ジレグートがウォーハンマーで軌道を逸らす。


「キシャアアアアァァ……」


 力なく床に崩れ落ちたキングサーペントは、最後の声を上げるとボフッと黒い粒子に変わる。

 後には、人の頭部ほどもある巨大な魔核と手の平サイズの白い水晶玉、剥がした大量の鱗と一本の小瓶が残されていた。


「ふいー、疲れたなぁ。ったく、おめーさんの発想には驚かされるぜ」


 イゼルの頭をわしゃわしゃとしながら、満足そうに笑ったジレグートは魔核や鱗を回収しに行く。

 入れ替わるように戻ってきたレーティアとリリス。


「フフ、また助けられてしまったな」


「……うん。イゼルがいなかったら、一度撤退してたかもしれない」


「そ、そんなことないですよっ?! あ、でも……」


 ちらりとジレグートを見るイゼル。

 彼にはまだレーティアたちの正体を明かしていないので、ここで封印を解くことはできなかったことを思い出し、言いよどむ。


「うむ……」


「……悩むところだね」


 表情を曇らせる二人だったが、ジレグートが戻ってくる頃にはもとに戻っていた。


「おい、これなんだと思う?」


 そう言って、小瓶を見せる。


「液体……? 色はピンクか……。赤系統だし、おそらく回復薬(ポーション)だろうな。品質はわからんが……」


「……ギルドで鑑定してもらお」


 リリスの言葉に一同が頷く。


「んじゃ、いくとするか? 素材もたくさん手に入って、ダンジョンマスターも討伐して、街も救ったんだ! 嬢ちゃんたちも呼んで今夜はパーッと大騒ぎ決定だな!」


 ガッハッハと笑うジレグートに、じと目を向けるリリス。


「……狙いはシクルでしょ」


「なっ?! 何言ってやがんでい! そ、そんなことはねぇっ!」


「……へー」


 冷たい視線を送り続けるリリスに、動揺するジレグート。

 イゼルとレーティアはリリスが何を言ってるのかわからず、首を傾げる。

 そこへ、怒声が響き渡った。


「きさまらぁ! 良くもやってくれたな……!! 俺さまの手柄を横取りしやがって!!」


 声の主は、怒りに染まった瞳で鋭く睨む、リコルだった―――。

お陰様で、総合評価100ptを達成することができました。

ありがとうございます!

今後とも、よろしくお願いしますー!

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