33話 責任の行き先
迷宮を出たイゼルたちは、急ぎギルドへと向かった。
相も変わらずがら空きのユリーアがいる窓口へと向かう。
「お、おかえりなさい、イゼルさんっ! ど、どうかしましたか?」
笑顔で出迎えたユリーアが、少し慌てた様子のイゼルに首を傾げる。
「ただいまです、ユリーアさん。少し内密にお話したいことがあるので、個室に移動したいんですが大丈夫ですか?」
「わ、わかりましたっ。 しょ、少々お待ちくださいねっ!」
そう言うと立ち上がり、受け付け奥の扉へ駆けていく。
しばらくすると、奥の扉からユリーアと共に四十代くらいの男が出てきた。
ユリーアに案内されてイゼルのもとに来た男は、ジロジロとイゼルたちを見た後口を開く。
「君たちが噂の……。まぁ良い、それで内密に話したいこととは何かね? ここで対応しよう」
さっさと済ませてくれと言わんばかりに、面倒そうに対応する男。
「ここで話すと、かえって事態を混乱させかねません。個室でお伝えするほうが良いと思うのですが」
「どうせ大した情報ではないのだろ? 大方、個室へ移動させて他の冒険者からの注目を集めたいとかそんなところか。そんな無駄なパフォーマンスはいらないから、さっさと説明したまえ。むの……ゴホン。一冒険者とゆっくり話している時間は、私にはないのだよ」
無能――そう言いかけ、わざとらしく咳払いで誤魔化す男。
「イゼル、ここで言って構わん。どうせこいつは信用しないし、したくないだろうからな」
レーティアが冷たい声音でそう告げる。
「……わかりました。僕たちは今日、八階層を攻略しました」
「……は?」
イゼルの言葉に、男は何を言ってるんだこいつはという顔をし、八階層という単語に周りの冒険者も聞き耳を立て始めた。
「その最中、怪しいローブ姿の人影と遭遇し、信じられない話を聞かされました。曰く、そのローブ姿の人影が今までダンジョン攻略の邪魔をしていて、目的は魔物の氾濫を引き起こすこと。今日で最後の仕上げが完了する、そう言っていました」
イゼルの言葉に、辺りがシンと静まり返る。
「……それで?」
「どこまでが本当なのかはわかりません。が、少なくとも攻略の邪魔をしていたという点については、本当じゃないかという結論を出しています。それほど異質な存在感がありました」
「つまり、証拠は何もない、ということだな?」
「……ええ」
ハッと鼻で笑う男。
「話にならんな。どうせお前たちのでまかせだろう。嘘をつくのが上手いようだしなぁ?」
見下した目でイゼルを見ながら、あざ笑う男。
「おい、いい加減にしろ。少なくとも、今の状況になるまでダンジョン攻略が進んでいないのは事実なんだ。それとも、この状況はたまたまだ、運悪く攻略がうまくいかなかったに過ぎない。とでも言うつもりか?」
剣呑な雰囲気を纏いながら、男を睨みつけるレーティア。
一瞬たじろいだ男は、すぐに立ち直るとニヤリと笑う。
「さぁ、それすらももしかしたらあなた方が引き起こしていたんじゃないですか? ギリギリの状況で邪魔するのをやめ、颯爽と登場。あっという間にダンジョンを攻略。栄誉と報酬を丸ごとかっさらう……。なかなか良い作戦ですねぇ、『銀の死神』さん?」
勝ち誇った顔で、ニヤニヤしながらレーティアを見つめる男。
『銀の死神』という言葉に、周りの冒険者たちもザワザワとし始める。
「はぁ……くだらん。そこまで調べているなら、知っているんじゃないのか? 私たちはビートダッシュにいたんだぞ。お前の言う作戦を実行することは不可能だ」
「……ッ」
失念していたことに気づいたのか、悔しそうに歯噛みする男。
「それに、鉄級向けのD級ダンジョンを攻略すべく、ギルドが指名した鋼鉄級冒険者パーティーが何組か攻略に挑んだと聞いているぞ。だが、未だ攻略されていないということは、失敗に終わったのだろう? それとも何か? 鋼鉄級パーティーがD級ダンジョンで全滅するなんてよくある話だとでも言うのか?」
レーティアの言葉に反論すらできない男は、ぐぬぬぬ……と顔をしかめる。
そこへ、聞き覚えのある声が響く。
「おやぁ? 今度はギルドマスターともめ事ですかぁ? 注目を集めるのだけは上手だなぁ、無能よぉ」
ギルドホール内を大げさに肩を竦めながら歩く、リコルとその一行。
「おや、これはリコルくん。今日もダンジョン攻略、お疲れさまです」
リコルを見た瞬間、すぐに笑顔を作り出迎える男――セリエンス支部・ギルドマスター。
「いやぁ、今日も大変でしたよマスター。でも、ついに七階層を突破しましたからね。迷宮主まであと少しです、どうか僕たちにお任せください」
ギルド内へ大きな声で成果をアピールしながら、爽やかな笑顔を振りまくリコル。
口調もいつもより丁寧で、いかにもマスターを敬ってますといった雰囲気を醸し出していた。
相手をするだけ時間の無駄だと悟ったイゼルたちは、ユリーアに手を振るとギルドを後にしようと歩き出す。
「待ちたまえ。君たちが上げた報告の真偽を確認するためにも、詳しく話を聞かせなさい。慎重に確認しなければならない事柄であるようだし、ニ~三日はダンジョンに潜らずギルドへ出頭してもらうことにしよう」
口角を吊り上げながら、そう告げるギルドマスター。
レーティアが文句を言おうとした時、先に口を開いた者がいた。
「お言葉ですが、マスター。もし彼らの言葉が真実だった場合、我々は最大戦力を欠くことになります。スタンピードが迫る今、そのように悠長にしている時間があるんですか?」
冷たい声音と視線で、ギルドマスターを睨視するシクル。
「そ、その通りだと思いますっ!」
ユリーアが賛同の意を示すと、ギルド職員や受付嬢たちが次々に賛同し、マスターへ非難の視線を向けた。
「だ、だからこそ確認すべきだと言っているんだっ! こいつらの言葉が嘘だったとき、だれか責任を取れるのかっ?!」
焦ったギルドマスターは、声を張り上げて威圧する。
「その時は、私が責任を取って職を辞しましょう。イゼルさんたちは、間違いなくこの街のために命がけで攻略に挑んでくれていると、断言できますから」
シクルがそう告げると、ユリーアや他の職員たちも「私たちも同様に責任を取ります」と続く。
「そ、その言葉本当だなっ?! だが、全員に辞められては冒険者の迷惑になる。そうだな……次の者が見つかり、仕事を覚えるまでの三か月間。全員無給で働いてもらい、その後辞職してもらう。それで良いな?」
「ええ、構いませんよ。ただし、イゼルさんたちの言葉が真実で……ダンジョンに何か異変が起きていた場合、ギルドマスターの今回の対応は全て本部へと報告させて頂きます。宜しいですね?」
そう言って、シクルは手元の水晶石を見せた。
シクルが持っているのは、映像を記録する魔導具――『記録水晶』。
本来は冒険者同士でもめ事が起きた時などに、ギルドが介入し有事の際に国や騎士などへ証拠として提出するための魔導具。
ギルドマスターがイゼルたちの相手をし始めた時点で嫌な雰囲気を感じ取ったシクルは、万が一に備えて記録していたのだ。
「きさまぁ……!! ええい、かまわんっ! ダンジョンを攻略し、スタンピードから街を守れるのはSランク所持者のリコルくんだからなっ!」
ギルドマスターがリコルに視線を向けると、「当然ですよ」と自信満々に笑う。
それを見たシクルは小さくため息をつくと、イゼルたちに視線を向ける。
「お手数をおかけしますが、個室のほうで先ほどのお話の詳細をお聞かせ頂けないでしょうか? 内容を聞いた限り、報告書を本部へ上げなければならない案件だと思いますので」
シクルはユリーアを連れてカウンターを出ると、義務的にギルドマスターへ軽くお辞儀をしてから二階へと上がっていく。
後に続いたイゼルたちの姿が見えなくなると、ギルドマスターはリコルたちを連れてマスター室へと戻っていった―――。




