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31話 リリスの試練


 リコルにギルドで絡まれた翌日。

 彼らより早く迷宮主(ダンジョンマスター)を討伐すべく、イゼルたちは朝から迷宮(ダンジョン)を訪れていた。

 入口を潜り抜け、階層転移水晶(ポータルクリスタル)の手前で立ち止まったレーティアは、イゼルたちを見て真剣な表情で語りかける。


「いいか、セリエンスダンジョンは中層区の存在しないダンジョンだ。今日潜る六階層からは下層区と呼ばれ、出てくる魔物たちの量も強さも上層区とは比較にならないほど跳ね上がる。決して油断するんじゃないぞ?」


 三人がこくりと頷いたのを確認し、ポータルクリスタルに手を触れるレーティア。

 四人は光に包まれると、あっという間に六階層の入り口に転移した。


「ここからはオレっちも道中の戦闘に参加するぜ。前衛は任せな」


 そう言って、大きな盾を叩いて見せるジレグート。

 狭い通路内では彼の得意とする大戦槌(ウォーハンマー)は不向きのため、高い筋力を生かしたパーティーの盾として志願。それに合わせて全身を重鎧で固め、その姿はさながら盾騎士のようだった。

 

 今日は昨日と違い、役割を固定。

 ジレグートが前衛で敵の注意を引きつつ攻撃を受け、イゼルが前衛と中衛を状況に合わせて入れ替わる遊撃、リリスが後衛として周囲の警戒をしつつ投擲武器でサポートといった具合だ。

 レーティアは今日もギリギリまで手は出さず、見守ることに徹する。


「ダンジョンでは連携が鍵になってくる。どう動けば仲間が動きやすく、どう動けば邪魔になってしまうのか。それを考えながら、慎重に進んで行くんだ」


 斥候を兼ねるリリスが先頭を歩き、左斜め後ろにイゼル、右斜め後ろにジレグートが続く。殿をレーティアが勤め、ひし形の形で進んで行く一行。

 やがて魔物の気配を察知したリリスが手で合図を出すと、ピタリと止まって戦闘体勢に入る。


「……数六。5m先、右に曲がると会敵」


 状況を伝えると、ジレグートが先頭を入れ替わり盾を構えたまま進んで行く。

 リリスの言う通り、T字路を右に曲がるとすぐに魔物の姿が目に入った。

 上位犬頭小魔鬼(ハイコボルト)が二体、上位小魔鬼(ホブゴブリン)が四体。


「オレっちがゴブリンを四体引き付けておく! その間にコボルトを!」


 ジレグートはそう叫ぶと、ホブゴブリンの前に躍り出る。

 イゼルは剣をハイコボルト目掛けて投擲すると、『空中浮遊(エアリアル・マジック)』を発動。

 槍で弾かれて後方へ飛んで行った剣を操作すると、背後からハイコボルトの心臓を突き刺した。


「まずは一体っ!」


 その横ではリリスが投擲したクナイがホブゴブリンに向かって飛んでいき、かわしたり防御したりと隙の出来た個体からジレグートが大楯を振り回して壁へと打ち付けていく。

 再び宙を舞い始める剣に警戒感を見せたハイコボルトは、ホブゴブリンが次々と戦闘不能になっていく姿を見た途端、背中を見せて逃げ出した。

 リリスがふくらはぎ目掛けてクナイを投擲すると、見事に命中。転倒したところを、イゼルが一刀両断。ホブゴブリンのほうもすでにジレグートが止めを刺しており、あっという間に下層区初戦を終えた。


「なんというか……。こう言っては何だが、等級と実力が見合っていないんだよな……」


 本来であれば鉄級(アイアン)四~五人掛かりで15分ほどかかる戦闘を、青銅級(ブロンズ)鉄級(アイアン)二人の計三人で、わずか3~4分で圧勝して見せたイゼルたち。

 戦闘を見ていたレーティアは、思わず呆れ顔で呟いた。

 

「まぁ青銅級(ブロンズ)のオレっちが言うのもなんだが、全員鋼鉄級(スチール)でもおかしくねぇ実力だからなぁ。こんなことなら、素材集めのついでに等級を上げときゃ良かったぜ」


 自分の思い付きで武器を作るときは自ら素材集めをしていたジレグートだったが、冒険者プレートは身分証代わりに作っただけで、鍛冶とは関係ない等級に一切興味がなかった。

 素材集めの最中に一度だけ魔物に襲われている商人を助けたことがあり、それがきっかけで青銅級(ブロンズ)へと昇級したに過ぎないのだ。


「……もっと強いのと戦いたい」


 ボソリと呟いたリリスに、笑うしかないレーティア。

 彼女が強者を求める理由もわからないではないだけに、反応に困っていた。


「よし、今日はいけるところまで攻略してみるか」


 気を取り直したレーティアがそう伝えると、すぐに移動を開始する。

 それから二度、三度とハイコボルトたちと戦闘を繰り返すが、苦戦することなく討伐。通算十五度目の戦闘を終えたところで、階層ボスがいるであろう部屋の門が目に入った。

 門の手前で少し休憩を取り、準備を済ませると部屋へと入る一行。


「……犬頭小魔鬼王(コボルトキング)


 2mはあろう巨大な身体と、スラリとしつつも引き締まった筋肉。頭部には金色の王冠が輝き、右手には身の丈ほどある十文字槍。堂々とした立ち姿のままじっと自分たちを見据えるコボルトキングに、イゼルとリリスはゴクリと唾を飲んだ。


「やることは変わらねぇ。ビビらなきゃ勝てる相手だ、そう固くなんな。攻撃はオレっちが全部防いでやるからよ」


 ヘッと笑うジレグートを見て、肩の力を抜いた二人。


「カッコつけてるとこ悪いが、お前は今回不参加だ」


「あぁ?! なんでだよ!」


 突然のレーティアからの不参加宣告に、抗議するジレグート。


「いざとなれば出てもらうが、それまでは待機だ。リリス、イゼルと二人で戦い、勝ってこい」


「……わかった」


 リリスへ真剣な瞳を向けたレーティア。

 何かを感じ取ったリリスは一度目を閉じると、クナイを握りしめて駆けだした。慌てて後に続くイゼル。


「焦るな! 諦めるな! 自分に何ができるのかを常に考えろ! 恐怖に負けるんじゃない!」


 リリスに向けて叫んだレーティアの姿を見て、ジレグートはため息をつくと腕を組んだ。


「あとで酒でも奢れや」


「フッ、いいだろう」


 そんなやり取りを交わした二人は、じっとイゼルとリリスの後姿を見守る。


 仁王立ちのまま動かないコボルトキング目掛けて、クナイを次々に投げつけるリリス。

 その全てを十文字槍であっさりと弾いて見せ、そのまま一歩踏み込むと鋭い突きを見舞う。石突のすぐ近くを持つことで、3mは離れていたはずのリリスにすら届かせて見せた。

 咄嗟にクナイの腹で穂先を滑らせ軌道を上へと逸らすが、コボルトキングが持ち手を捻ると穂の根元から左右に飛び出した鎌が下に向き、リリスへと迫る。


「……ッ」


 判断に迷い、身体が硬直した一瞬。わずか一瞬ではあるが、それは戦闘時に置いては致命的ともいえる時間だった。

 リリスはすでに、かわすという選択肢も、防御するという選択肢も取れない状況に追いやられている。

死を覚悟した瞬間、イゼルが背後から首元をグイッと後ろに引っ張り、無理やり体勢を崩すことで顔のすぐ真上を槍が通り過ぎていく。

 コボルトキングは槍をピタリと止めると、穂先を下へと下げながら手前に引いた。突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌と状況に応じて使い分けが利く十文字槍。

 形状からそれらの攻撃方法を予想していたイゼルは即座に反応し、剣で真上に力いっぱい弾くとリリスを抱えて後ろへと飛びずさる。

 追撃を諦め、槍を手元に引き戻すと不敵に笑うコボルトキング。


「大丈夫ですか? あのリーチは厄介ですね……」


 リリスを腕に抱えたまま、コボルトキングを見て呟くイゼル。

 死ななかったという安堵感と、また助けてくれたという嬉しさからイゼルの胸へ抱き着くリリス。

 すぐに落ち着くと、恥ずかしそうに離れて立ち上がった。


「……ありがと。私に足りないもの、私が持たなくちゃいけないもの。それが少しだけ見えた気がする」


「……行きましょうか」


 リリスの言葉にイゼルは頷くと、力強く駆けだす。

 あとを追うリリスは走りながら技能(スキル)を発動。


「……『速度上昇(ヘイスト)』『天地無用』」

 

 速度が急激に上昇したリリスはイゼルを追い抜き、横一閃に払われた槍を飛び上がってかわすと天井に着地。まるでそこが床であるかのように、逆さのまま天井を走り出す。


「……『爆裂札生成』」


 続けてスキルを発動すると、手元に赤い文字が描かれた札が出現。次々にコボルトキングへと投げつける。

 何かを察したコボルトキングは槍で弾かず回避行動に移るが、札が次々に大きな音を立てて爆発。身体が所々黒焦げになりながら吹き飛ばされるも、なんとか受け身をとって着地した。

 だが、足元にすでに先ほどの札があることに気づき、咄嗟に腕を交差させて防御体勢をとる。

 爆発が直撃し大きく上空に吹き飛ばされ、身動きが取れないところを『空中浮遊(エアリアル・マジック)』で宙を飛んできたイゼルの剣が一閃。十文字槍の柄ごと身体を真っ二つに斬り裂いた。

 コボルトキングが魔核に変わったことを確認したリリスは、床へと降りるとその場にへたり込んだ。


「大丈夫ですか?!」


 慌てて駆け寄るイゼル。


「……大丈夫。ちょっと疲れただけ」


 リリスはそう言うと、満足そうに微笑んだ―――。

 

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