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28話 初めての迷宮


 イゼルたちがセリエンスに到着した翌日。

 前日に練った作戦を実行に移すべく、イゼルたちはセリエンス迷宮(ダンジョン)に訪れていた。


「ここがダンジョン……。本当に街中にあるんですね」


 イゼルの視線の先には、崖を大きくくり抜いたような大穴が広がっていた。

 穴の大きさは高さ5mほどもあり、冒険者が穴に入って行ったり出てきたりしている。


「今日はひとまず、中の様子見をかねてダンジョンという特殊な環境に慣れてもらうことが目的だ。いつどこから襲ってくるかわからないからな、気を抜くんじゃないぞ?」


 レーティアの言葉に気を引き締めた一同は、大穴へと入っていく。

 進むうちにどんどんと通路はせまくなっていき、広さが入り口から半分ほどになったところに広間があり、中央には台座に設置された水晶がある。その奥に、地下へと降りる階段が続いていた。


「この階段を降りれば、そこはもうダンジョン内だ。準備は良いな?」


 三人がこくりと頷いたのを確認し、レーティアを先頭にイゼル、リリス、ジレグートの順番で連なって階段を降っていく。

 ダンジョンの中は幅5m高さ3mほどの通路が入り組んでいて、地下にも関わらず明るい。


「暗くないんですね……」


「不思議だろう? 理由は解明されていないらしいが、ダンジョン自体が光源になっているんじゃないかって話だ」


 キョロキョロと周囲を見渡しながら呟いたイゼルに、レーティアが先陣をきりながら答える。

 リリスが手に持った地図を見ながら案内し、レーティアが前を、ジレグートが後ろを警戒しながら先へと進んで行く。

 時折聞こえる戦闘音にイゼルが緊張した面持ちで歩いていると、レーティアが足を止めた。


「魔物だ。数は3、来るぞっ!」


 レーティアの視線の先から、ナイフを持った小魔鬼(ゴブリン)が3体飛び出してくる。

 ガーレイ大森林で見たゴブリンよりも少し体格が良く、身長も130cmほどあった。

 事前の打ち合わせ通り、レーティアが一歩下がるとイゼルが前へ出て、前後を入れ替わる。


「周囲は私たちが見張る。イゼルとリリスだけで倒してみろ」


 リリスはこくりと頷くと、間近に迫っていた3体のゴブリン目掛けて腰の収納拡張魔道具(ポーチ)から取り出した石ころを投げつける。

 リリスは敵を分散するために個体ごとに違う部位目掛けて石を投げつけていたが、ゴブリンたちは見事に思惑通りのよけ方をした。

 二体は足と腰を狙われたため上空へと飛び上がり、もう一体は胸を狙われたので左へと避ける。

 イゼルはタイミングを合わせて上空へと飛び上がると、引き抜いた剣を横なぎに一閃。空中で身動きが取れない二体はどちらも真っ二つになった。

 地上の一体はリリスが回避後にできたわずかな隙を狙い、クナイを投擲。避ける間もなく脳天に突き刺さり、力なく床に倒れこんだ。

 討伐されたゴブリンたちはブワッと黒い粒子になって弾けると、小さな魔核を残して消え去った。


「ふむ。やはり小魔鬼(ゴブリン)程度では相手にならないか……。まぁ、豚鬼(オーク)と戦っていたんだから当然か。真っすぐ二階層へ向かうとしよう」


 魔核を回収したイゼルたちは、さらに奥へと進んで行く。

 辺りの警戒をしつつ、イゼルはレーティアから聞いたダンジョンの説明を思い出していた。


 ――ダンジョンは生成されると、迷宮主(ダンジョンマスター)が討伐されるまで際限なく魔物が増え続ける、魔物の巣窟。

 ダンジョンから生まれた魔物は死ぬと黒い粒子へと変わり、魔核を落とす。時折貴重な素材を残すこともあるが、大半はダンジョンへと還ってしまい、ダンジョン内でしか生きられない特殊な魔物。

 ならば、ダンジョンマスターさえ生かしておけば永久に魔物を狩り続けることができるのではないか? そう思うかもしれないが、そうはいかない。

 ダンジョンは極稀に各地に突如として出現し、一度現れたダンジョンは消滅することがなく、ダンジョンが活動を開始してからおよそ五か月経つとダンジョンマスターが誕生する。

 ダンジョンマスターが誕生するとダンジョン内に出現する魔物が時間経過に比例して爆発的に増えていき、討伐されないまま一ヶ月~二ヶ月経過してしまうと、ダンジョン内に異変が起きる。ダンジョン内でしか生きられないはずの魔物たちが、外界へと出れるようになるのだ。

 そうなる前にダンジョンマスターを討伐できれば、主を失ったダンジョンは一時機能を停止する。だが、それもわずか一週間ほどのことで、すぐに活動を再開してしまう。

 だからこそ人間はダンジョンに潜り続け、定期的に誕生するダンジョンマスターを討伐し続けなければならない――。


 最初に聞いたときは、そんなことが本当にあるんだろうか? と半信半疑だったイゼルも、今では全てが事実なのだと理解していた。 

 その後十数回にも及ぶゴブリンとの戦闘を経て、一階層から二階層へと降りてきたイゼル達。


「まずいな、いくらなんでも魔物の数が多すぎる。溢れかえるまでにそう時間はないぞ……。良くてあと一週間というところか……?」


 先へと進みながら、険しい顔でレーティアが呟く。


「……そんなに多い?」


「ああ、体感だが普段より倍……いや、三倍近いかもしれないな。一階層はとくに冒険者が多いから、寄り道しなければ二階層まで降りる間に5~6回ほどの戦闘で到達できたはずだ」


 レーティアの言葉に、イゼルたちは顔を曇らせる。


「帰還石はあるんだ、とりあえず魔物の数を減らしながら進めるとこまで進んでみようや。おめぇさんのことだ、どっちにせよ階層ボスは攻略するつもりだったんだろ? っと」


 曲がり角から飛び出してきたゴブリンを、フルスイングしたハンマーで壁へと打ち付けるジレグート。

 レーティアを除く三人で交互に前衛を変わりながら、次々とゴブリンを倒しては魔核を回収するという一連の流れを繰り返し、一時間ほど進んだところで突き当りに大きな門がある通路へとたどり着く。


「あれが階層ボスのいる部屋だ。あそこを抜けないと、二階層には行けない。準備は良いか?」


「あの……! お願いがあるんですが……」


「どうした?」


「……階層ボスと1:1で戦わせてもらえないでしょうか」


 覚悟を決めると、まっすぐレーティアの目を見て希望を伝えるイゼル。


「一階層のボスとは言え、ゴブリンとは比較にならんほど強い。おそらく豚鬼(オーク)よりも強いぞ。それを聞いて尚、1:1でやりたいのか?」


「……はい」


 イゼルの決意が揺るがないことを理解したレーティアは、リリスとジレグートに視線を向ける。

 リリスは少し心配そうにしていたが、やがて判断は任せると折れた。


「わかった、いいだろう。正直、私も今のイゼルがどこまでやれるのか気になるところではあったからな。だが、危険だと判断したらすぐに救援に入る。良いな?」


「ありがとうございます!」


 お礼を告げたイゼルを先頭にボス部屋の扉を開けて中にはいっていくと、そこは飾りも何もない質素な広い部屋だった。

 部屋の中央には玉座が設置されており、背中に茶色いマントをつけ、王冠をかぶる巨大なゴブリンが1匹座っている。その周囲を守るように、肩など要所要所に革鎧を身に着けた片手剣を持つゴブリンが5匹いた。


小魔鬼王(ゴブリンキング)小魔鬼兵長(ゴブリンコマンダー)だと……? なぜ王級がこんな階層に……」


 状況が変わり、イゼルの希望を叶えるべきか否か、レーティアが悩んだ一瞬の間にイゼルが駆けだす。

 咄嗟に後を追おうとしたレーティアの腕をジレグートが掴み、首を横に振った。


「信じてやれ。あいつは今、自分の中に芽生えたもんを掴みとろうとしてんだ。邪魔しちゃいけねぇ」


「だが、イゼルはまだ冒険者になって一ヶ月ちょっとなんだぞ?! いくらなんでもゴブリンキングと取り巻きを相手に一人で挑むなんて早すぎる!」


 声を荒げるレーティア。

 そんな彼女の横に立ち、じっとイゼルを見つめたままリリスが口を開く。


「……大丈夫。イゼルは豚鬼(オーク)との戦いで、成長してる。それにきっと……死の際に託された言葉を、真実にしたいんだと思う」


「『少年は強い。まだまだ強くなれる』、か……。どうも弟子を過保護にしすぎて、いかんな。……いや、私はおかしくなくないか……? ゴブリンキングの討伐推奨等級は鋼鉄級(スチール)だぞ……?」


 リリスの言葉を受けて、自嘲気味に笑うレーティア。

 だが、冷静に考えると自分の言動におかしなところはない気がしてしまい、首を傾げるのだった―――。

 





 

 

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