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渋谷少女A―続編・山倉タクシー  作者: 多谷昇太
第二章 デュランス河のほとりで

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悪夢に落ちる

そう云えばこの月明りはあの折りの、水晶の部屋に差し込んでいた月明りとそっくりだな…などと思う内に肖像画のA子から呼びかけられたような気がした。「ウフフ、田中さん、田中茂平さん」と私の名を呼ぶ、あの時のエコーのかかったようなA子の魅惑的な声がまざまざと耳に甦る。その言霊と月の光がまじわって私の胸を怪しく掻き立てた。考えてみればA子とB子はチンピラどもに連れ去られて河原で殺されたのだったな…などと独白する内にしかし私はいつの間にかうたた寝をしたようだ。隣の部屋に入り込んで来た件のストーカーアベックのお陰で、私の普段の眠りは半寝半起状態のそれに戻っていた。このクズどもは1時間置きくらいに壁を棒で叩いては私を叩き起こしていた。その為に万年寝不足状態となり横になれば殆ど否応なしに眠り込んでしまうのである。気を付けてはいるが寝込む前にタバコを吹かしたりしていると火がついたままでそれを畳みの上に落としてしまい、為に畳のあちらこちらに焦げ跡を残してしまう始末だった。そしてそれは今日のように帰宅前に隅田公園などで幾許かの眠りを貪ったとしても同じだった。何せ都合20年間熟睡は得られず、畢竟この万年寝不足状態は心身に渡って大いなる支障を私に来していたのである。

 さてそのような苦しい眠りのうちに見た夢の中で、私は隅田川のほとりに佇んでいた。畔の場所は今住むこのアパートのすぐ近く辺りと思われる。そう判る分けは私が普段からその辺りに行って少しでも眠りを貪ろうとしていたからだが、無論それは隣のド畜生アベックどもの苛みを少しでも軽減しようとしてのことである。ま、それはともかく、夢の中の隅田川の川面には普段滅多に出ないもやが一面にかかっていて、堤の景色もぼんやりとしていた。しかしその中から大人の男と幼女の声と思しき、何かを言い争うような、緊迫した会話が聞こえて来た。

 

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