笑顔
「もう結構時間経ったな」
携帯で時間を確かめながら夏希さんがぽつりと呟いた。確かにもう日も傾きかけている。そろそろ戻らないと新幹線に乗り遅れてしまう。
真冬ちゃんに目を向けると、彼女は満足そうな笑みを浮かべて、こくりと頷いた。
「今日は付き合ってくれてありがとうございました、お兄さん……お姉さん」
「どういたしまして」
「かわいいとこあるじゃん。てか、別に礼なんていらねえよ」
「それもそうですね。お姉さんはそもそも呼ばれてないのに飛び出てきただけですし」
「やっぱかわいくねえな!」
「ふふっ、まあちょっとは感謝してますよ。お姉さんがいると賑やかですし」
「と、とりあえず駅に向かおっか」
この二人の喧嘩ループに巻き込まれたら間違いなく新幹線に乗り遅れるので、俺はやんわりと二人を急かした。
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凄まじい速さでも周りの風景の移り変わりはどこか緩やかで、見ているとついウトウトしてくる。夏希さんは既に熟睡していた。まあ、勢いで京都まで来たんだから、そりゃ疲れるだろう。俺もそうなんだけど。
「お兄さん、寝てて大丈夫ですよ。私、起きてますから」
「いや、流石にそういうわけには……」
別に悪くはないんだろうけど、最年少にそこまで甘えていいものかと思ってしまう。最年長は真っ先に寝たけど。
そんなこちらの気持ちを読み取ったのか、真冬ちゃんは大人びた笑みを見せた。
「いいんです。今日はお兄さん達に素敵な思い出をもらいましたから。このぐらいしないとバチが当たっちゃいます」
「……そっか。じゃあ少しだけ眠るね」
「ええ、おやすみなさい」
そこまで熟睡しようとは思ってないけど……まあいいや。
抗いがたい睡魔に身を任せると、すぐに意識はどこかへ飛んでいった。
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「……さん、お兄さん。そろそろつきますよ」
「直登、起きろ」
「……うん?ああ、もう着いたの?」
どうやら熟睡してしまったらしい。いつの間にか窓の外の風景が見慣れたものに変わっていた。
二人か顔を間近で覗き込んでいるものだから、すぐに眠気は吹き飛んだ。あと夏希さんが「お前、いつまで寝てんだよ」みたいな目で見てくるのは少し納得いかない……。
傾けた座席を戻し、もう一度窓の外に目を向けると、寝ている間に何処かに押し付けたのか、左の頬に何か違和感があった。さすがに熟睡しすぎだろ。しかもまだ眠気が残っている。
「お兄さん、お兄さん」
「ん?」
「家に帰ったらすぐに写真送ってくださいね」
そう言って笑う真冬ちゃんの顔はさっきより大人びていて、窓から差し込む夕陽が頬をほんのり染め上げていた。




