ぷりぷり
「まったく、お姉さんは本当に淫乱な人ですね……」
「淫乱て……」
予期せぬ単語に、つい俺が反応してしまった。淫乱な夏希さん……それはちょっと見てみたい。
当の本人はまだケラケラと笑っている。何がそんなに面白いのやら。
ちなみにまだ俺は左の頬を押さえている。まだそこにはっきりと感触が残っていた。
「お兄さん?デレデレと鼻の下を伸ばして随分嬉しそうじゃないですか。押し倒しますよ」
「いや、さりげなく何言ってんの?」
「お前の方が淫乱じゃねえか」
「くっ、まだ余裕の笑みが残ってますね。いいですよ、私もお兄さんの隙をついて一発かましますからね」
「そ、それを俺がいる前であえて言うのか……」
「ふん、やれるもんならやってみな!」
「夏希さんも何の許可を出してるんですか!?」
「さあ、お兄さん行きますよ。そんな所に突っ立っていては邪魔になってしまいますよ」
「そうだぞ。いつまで顔赤くしてんだ」
「おい、二人実は仲良いだろ!」
周りの視線にさらされ何故か一人だけ恥をかかされたような気分を味わいながら、俺は2人の後を追ってその場をあとにした。
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「ここも来たことがありますね」
「……そっか」
しばらく歩いてから円山公園に到着すると、真冬ちゃんがきょろきょろしながら呟いた。夏希さんは彼女の感情をはかるような目でしばらく見つめてから頷いた。
桜の名所としても知られるこの公園は、今は桜散っているので花見客こそいないが、それでも思ったより多くの人がいる。観光客っぽいリュックを背負った海外の人もいれば、並んで歩く老夫婦もいたり、様々な会話の声があちこち飛び交い、それなりに賑やかだ。
「ここには桜を観に来たの?」
「そうですね。人が多くてすごかったですよ。お父さんもお母さんもホテルに戻った時は疲れてぐたりしていました」
「うわ、確かにすげえな、これ」
携帯で桜が咲いてる時の風景を確認したのだろう、夏希さんが目をキラキラさせながら感想を漏らした。前にテレビで見たことがあるけど、確かに一生に一度は見てみたくなるような素敵な風景だった。
「よし、じゃあ写真撮ろっか」
「ええ、よろしくお願いします」
そう言うと真冬ちゃんはまるでそうするのが当たり前とでも言いたいかのように手を繋いできた。
突然の小さく柔らかな感触に呆気にとられてしまう。
「えっ?」
「あっ、おい何やってんだ!」
「ほら、人多いから迷子にならないようしてるんですよ。私子供だから」
「このタイミングでそれ言うのか!?」
「さっ、お兄さん。あの辺りで撮りましょう」
そう言って笑う真冬ちゃんの顔はさっきよりもだいぶ楽しそうだった。




