上書き
「わあ……」
「こりゃあ絶景だな」
「とりあえず写真撮っとくか」
それから俺達は京都でも特に人気の観光名所、清水寺を訪れていた。周囲は観光客でごった返して騒がしくはあるが、それでも写真からも伝わってくるような風情は失われていなかった。
「久しぶりに来たけど……やっぱりいい所です」
「ほら、写真くらい撮ってやるよ」
「あら、お姉さんにしては優しいですね。じゃあお願いします」
珍しく自分から真冬ちゃんに優しい提案をする姿に感心していると、夏希さんは間近でスマホを構えた。
「お姉さん?そんなに寄られたら背景何も入らないですよ」
「心配すんな、しっかり撮ってやるからな」
「もはや私のきめ細かい肌しか写らないですね。まさかこんな嫌がらせがあるなんて想像もしませんでした」
「ほら、ちゃんと笑え」
「しょうがないですね。今だけはお姉さんのしょうもないイタズラに付き合ってあげます」
「あはは……」
そんなやりとりを苦笑いで見ていると、夏希さんは真冬ちゃんのドアップの写真を撮ってから、急に彼女の隣に回り込み、肩を組んで写真を撮った。
いきなりすぎる出来事に真冬ちゃんも目を丸くしている。
「わわっ……」
「よし、これでいいだろ」
特に気にした風もなく写り具合を確認する夏希さんに、呆気にとられていた真冬ちゃんが控えめに口を開いた。
「あ、ありがとうこざいます……」
「よし、次は直登だ!」
「は?えっ……!」
夏希さんは打って変わったように獰猛な目つきになり、こちらの肩を強引に引き寄せ、携帯を構え……
「んっ……」
「はっ!?」
頬に柔らかな感触が伝わってきた。
それと同時にシャッター音が鳴る。
慌てて夏希さんの方を向くと、彼女はしてやったりみたいな表情で携帯を確認していた。
「よし、ブレてねえな。良い感じだ」
「な……な……何やってるんですかぁ〜〜〜〜〜!」
満足げな笑みを見せている夏希さんに、真冬ちゃんがわなわなと震えながら詰め寄った。
「私の写真を撮ってる間ずっとそんないやらしい作戦を考えていたんですね!」
「んなわけあるか!一週間前から温めてたアイデアだわ!」
「脳内ピンク色です!お兄さん、この人脳内ピンク色ですよ!知ってましたけど!」
「策士と呼べ、策士と」
「…………」
2人がぎゃあぎゃあ言い合っている間、俺は思考回路がぼーっとしたまま夏希さんの唇を盗み見て、さっきの感触を思い出していた。
ここが観光地で周りに人が沢山いることを思い出したのは10分くらい経ってからだった。




