一件落着?
「千花!」
「あ、おねーちゃん!」
「バカっ!勝手に出歩くなっていつも言ってるだろ!?」
夏希さんは怒りながらも、千花ちゃんを思いきり抱きしめ、それに対し、千花ちゃんは「くるしいよ~」と言いながらもがいているが、それでも姉を抱きしめ返した。
ちなみに、千花ちゃんが見つかったのは、この街の中央病院だった。どうやら一人で歩いて来たらしい。
何故ここまで一人で来たかというと、この病院は……
「本当にごめんなさいね。この子ったら、この前来た時に道覚えちゃったみたいで」
そう、夏希さん達のお母さんの職場だからだ。彼女はここで看護士として働いているらしい。
少し前に来た時に道を覚えてしまったらしく、つい出かけてしまったようだ。なんて行動力……ていうか本当に何事もなくてよかった。
もうすっかり暗くなった窓の外の景色を眺め、俺は心からそう思った。
「なあ、直登……」
外の景色をぼんやり見ているうちに、夏希さんが、いつの間にかそばまで来ていた。
そして、そのまま俺の右手を両手で包み込む。彼女の指先は、意外なくらい細く感じられた。
「……ありがとな。本当に……ありがとう」
「いや……なんていうか、その……手伝ったのは俺だけじゃないし、結局大したことはできなかったんで」
「んな事ねーよ。アタシ一人だったら、テンパってさらにヤバいことになってたかもしれねーし。ああいう時、誰かが隣にいてくれるだけで心強いっていうか……だから、今度お礼させてくれ。な?」
「わ、わかりました」
夏希さんの目が潤んで、普段より少しだけ幼く見える。
あれ?夏希さんって、こんなに可愛かったっけ?
どくん、どくんと胸が高鳴る感覚に戸惑っていると、今度は急に温もりがぶつかってきた。
「お兄さん、お疲れ様です」
「ま、真冬ちゃん!?」
これまたいつの間に病院に到着したのだろうか。真冬ちゃんが笑顔で胸元に頬を押しつけていた。
不意打ちの甘い香りと感触に、こちらがあたふたと何も言えないでいると、呆気にとられていた夏希さんが真冬ちゃん詰め寄った。
「おいっ!?どう考えても今はお前のターンじゃないだろ!?空気読めや!!」
「どうですか、お兄さん。私からのセクシーなご褒美は。何ならもうしばらくこのままでいてあげてもいいんですよ」
「無視してんじゃねえよ!ほら、そこ代われ!」
「お兄さん、雑音は気にせずにJCの温もりを堪能してください」
「誰が雑音だ、誰が!」
「ちょっ、ここ病院だから!」
この後、夏希さんのお母さんから、「静かにしなさい」と叱られる羽目になった。どうして俺まで……。
*******
帰り道、夏希さんの反対側から千花ちゃんと手を繋ぎ、てくてく歩いていると、少し先を歩く真冬ちゃんが振り返った。街灯がぼんやり照らす笑顔は何故か儚げに見えたが、それは気のせいだと言いたげに彼女は口を開いた。
「でも、よかったですよ。本当に。何事もなくて」
「おう……てか、お前もありがとな。手伝ってくれて」
「構いませんよ。ほら、貸しの1つや2つ作っておいたほうが、この後色々と有利に事を進められそうですから」
「いや、進ませねえよ。直登に何する気だよ」
「あれ?私、お兄さんの事だなんて一言も言ってませんけど?お姉さん、発情期なんですか?知ってましたけど」
「や、やかましいわ!お前、いい加減頭はたくぞ!」
まったくこの2人は……会う度これだから、もう一周回って仲良いんじゃないかと思ってしまう。
すると、それを見かねたのか、千花ちゃんが夏希さんの手をぶんぶん揺さぶる。
「けんかしちゃだめなのー!」
そんな可愛らしい仲裁に2人は目を見合わせ、大人しく頷いた。
「「……はい」」
だが、千花ちゃんの猛攻はそれだけにはとどまらなかった。
「じゃあ、おててつないでなかなおりー」
「えっ?いや……」
「さすがにそれは……」
「するのー!!」
「「…………」」
「さあ、2人とも。はやくはやく。仲直りのチャンスですよ」
助け船を出そうと促してみたら、どちらも『覚えとけよ、お前』と言いたげな視線を向けてきた。怖い。
夏希さんと真冬ちゃんは逡巡してから、どちらからともなく手を繋ぎ……こっそり溜め息を吐いた。
結局、夏希さんの家に着くまで、2人はそのまま手を繋がされていた。




