告白
それから、俺達は帰ることにした。夏希さんだけは自転車だが……。
「てか、よくそれでここまで来ましたね」
「こんぐらい余裕だよ。なんならお前もやってみるか?」
「いや、心の底から遠慮させていただきます。俺は普通の人間なんで」
「そうですよ。お兄さんは普通の人間なんですから。お姉さんと一緒にしないでください」
「アタシもその辺にいる普通の女の子だよ!見りゃわかんだろ!」
「……はんっ」
「おいこら、デコピンしてやるから、そこに直れ」
「もちろん、いやです。さ、お姉さんは行った行った」
「真冬。年上の方に対して、そんな口の利き方をしてはダメよ」
「大丈夫です。年上ですが、ライバルなので」
「そう……ならいいわ」
「いや、アンタ止めねえのかよ!?」
夏希さんのツッコミに、真冬ちゃんのお母さんはキョトンとしている。さすがあの子のお母さんだけあるな。なんか変だ。
まあ、何はともあれ、当初の目的は達成したから良しとしよう。
ぎゃあぎゃあ口喧嘩する二人を見て、彼女は確かに笑っていた。
*******
翌日、いつもより少し爽やかな気分で、俺は通学路を歩いていた。今日はあの二人も来ていないので、だいぶ静かなのだが、静寂が耳に疼くあたり、あの騒がしさにも慣れていたのだろう。
先日の母親の笑顔を見る限り、真冬ちゃんはそのうちキチンと和解できるんじゃないかと思えた。そう素直に思える瞬間だった。何かを手伝ったというほど大したことはしてないけど、あの場にいれただけでもよかった。
……いつか、真冬ちゃんが心の底から笑えるといいな。
「あの、日高君。今、少しいいですか?」
「うおっ!!び、びっくりしたぁ……!」
突然声をかけられ、慌てて振り向くと、そこには前田さんがいた。いや、気配も足音も何もなくて気づかなかったわ。忍者かよ。
「あ、ごめんなさい……驚かせました?」
「いや、大丈夫だけど。てかごめん。全然気づいてなくて……」
「あはは、大丈夫ですよ。私よく気配消してるねとか言われるんで。そんなつもりは一切ないんですけど」
「そ、そうなんだ……ドンマイ」
思わずドンマイとか言っちゃったよ。なんか地雷な気がするから踏み込まないでおこう。特に「そんなつもりは一切ないんですけど」のあたりの声がやばかった……割と気にしているんだろうか。
気を取り直して、話を聞く態勢に入ると、前田さんは決意を込めた瞳をこちらに向けてきた。
「あの……私、今日言おうと思います」
「……そっか。」
どうやら穏やかなだけの日々は、まだ先の事らしい。
そんな確信に近い予感がした。
*******
それから夏希さんにメールを送ると、すぐに返事がきた。『わかった』と一言だけなのも彼女らしい。
放課後になると、彼女は既に待ち合わせ場所の公園で待ち構えていた。
目が合うと、彼女は機嫌よさそうに、片手を挙げた。
「おう、どうかしたか?」
「あー、実はですね……この子が夏希さんに用事があるみたいなんで」
俺は背後に隠れている前田さんを前に出るよう促した。
彼女は前髪を慌てて整えながら俺の隣に立つ。なんか人慣れしてない小型犬みたいだ。
すると、夏希さんは表情を変え、プルプルと震え始めた。え、何?
「……マジか。お前……マジか」
「はい?」
「彼女ができたから紹介しに来たんだろ!そうだろ!?この浮気者っ!!」
「いや、ちょっと待ってください!彼女とかじゃないし、あと浮気者もよく考えたら違う気がします!」
「そ、そうですよっ、私、彼氏いますから!」
あ、いるんだ。
いや、別に狙ってるとかじゃないけど、なんか複雑な気分……。
夏希さんは頷きながらも、訝しげな目を向けていた。
「……本当か?」
「あ、はい。本当です……それで……その……私、水瀬さんに謝らなきゃいけない事があって……!」
前田さんは、何度か視線をあちこちさまよわせてから、言葉を発するより先に頭を下げた。
「ごめんなさいっ!あなたのお父さんが亡くなったのは……私のせいなんです!!」




