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つよがり

 ひとまず夏希さんと目が合った件は置いといて、しばらく外のありきたりな風景を眺めていると、やがて眠くなってきた。

 だが、そのタイミングで車がスピードを緩め始める。どうやら目的地に着いたらしい。


「着きましたよ、お兄さん」

「ああ……はいはい。てか、ここどこ?」

「公園ですよ」


 窓の外に目を向けると、そこそこ広い駐車場のそばに緑が広がっている。

 車から降りると、ふわりと優しい風が頬を撫でていくのを感じた。しばらくこうしていたい気分になるくらいには気持ちがいい。


「へえ……こんな公園あったんだ。ていうか、今日は何故ここに?」

「ここ、思い出の場所なんですよ。ちっちゃい頃によく家族で来ていたと言いますか……それで、母を元気づけたいと思いまして、私からここに来るのを提案したのですが、やはり二人っきりは気まずいので、お兄さんにも来てもらいました」

「…………」


 こちらが色々聞く前に全部説明されてしまった。

 正直、部外者の自分も気まずいのだが、先日の件もあり、どうも拒否する気にはなれない。

 真冬ちゃんのお母さんは、ベンチに腰かけ、遠くの街を見下ろしていた。その横顔は、これまでと一緒でボーッとしているが、どこか寂しげにも見える。

 憂いを帯びた瞳はなんだかやけに湿っぽく、何故か視線を吸い寄せられた。


「あの、お兄さん……傷心中の女は口説きやすいらしいですよ」

「口説かない。まあ、しばらくそっとしておいた方がいいんじゃないかな?真冬ちゃん、ちょっと奥の方行かない?」

「なるほど。私が目当てでしたか。仕方ないですね。でも、初めてどから優しくしてくださいね」

「何もしねえよ!最近ちょっと下ネタが過ぎるぞ!」

「ふふっ、そうかもしれませんね。お兄さんのせいですよ?」

「何可愛らしく名誉毀損してくれてんの?いいから、行くよ」

「はいはーい」


 自分ごときが大人の問題を解決できるとは思わないし、でしゃばるべきではないのはわかっている。

 ならば、この子に今だけでも、肩の力を抜いてもらえればそれでいう。


 *******


 奥の方に進んでいくと、少し離れた広場のあちこちにアスレチックが設置していて、家族連れが何組かゆったりとしたペースで攻略していた。全部やってみたら、結構な運動になりそうだ。


「むむ、迂闊でした。私ったらこんな時にスカートを……」

「とりあえず今は散歩だけでいいんじゃないかな。俺、初めて来たとこだし」

「それもそうですね。あ、向こうには大きな池があるんですよ」

「そっか。ああ、一応言っておくけど、今は無理しなくてもいいよ」

「……え?」


 俺の言葉に、真冬ちゃんはきょとんとしているが、今はそれが演技だとはっきりわかった。

 その瞳を微かな動揺が震わすのを見つめ、俺は言葉を選びながら口を開いた。


「その……つらい時にはつらいって言えばいいんじゃないかな?」

「…………」


 真冬ちゃんは黙り、こちらに一歩踏み込んできた。

 その予想外の近さに、少し後退りしそうになったが、何とか踏みとどまった。

 すると、こちらの心情を察したかのように、彼女はまた一歩踏み込み、思いきり抱きついてきた。


「えっっ!?あっ……え?」


 いきなりの出来事に、思考回路がろくに働かなくなる。

 ふわりと甘い香りが漂い、これまで感じたことのないような胸の高鳴りに戸惑っていると、胸元から彼女の声が聞こえてきた。


「それじゃあ……甘えちゃいますね。後悔しないでくださいよ。私、実は甘えん坊ですから」

「いや、知ってるから。甘えん坊じゃなきゃ、あんな無茶振りしてこないだろ」

「…………」


 何故か脇腹をつねられる。おかしい、ただ事実を指摘しただけなのに……。

 だが、それも気にならないくらい、鼓動は高鳴り、両腕をどうすればいいか、わからないままだった。

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