ほっこりのちドタバタ
「ん~、やっぱり夏希が作った料理は美味しいわね♪ね、直登君」
「は、はい、そうですね。美味しいです」
「なんで母ちゃんが隣に……」
夕食の準備が終わり、俺は夏希さんの作ったコロッケを頬張っているのだが、これがまた美味い。美味いのだが、斜向かいにいる夏希さんは何故かこちらにジトーっとした視線を向けていた。
いや、理由はなんとなくわかるんだけど、つっこむとさらに場の空気をかき乱してしまいそうな気がして、とても口には出せない。
「あらあら、夏希ったら、もしかしてジェラシー?たまたまこの席の位置になっただけなのに。」
「別に。そんなんじゃねえし」
まあ、今は食事に集中するか。よし、次はソースをかけてみよう。
そう考えて、ソースの方に手を伸ばすと、先に手を伸ばしていた夏希さんの手に触れてしまった。
「「っ!」」
ひんやりして、意外なくらい華奢な指の感触に、ドキリと胸が高鳴る。
俺は慌てて手を引っ込めた。
「す、すいませんっ」
「……べ、別に謝らなくていいっての。たかがが、手が触りぇただけだろ」
「ふふっ、夏希。顔赤いわよ。あと結構噛んでる」
「母ちゃん!」
「あー、姉ちゃん顔あかーい!」
「あかーい!」
「あかーい」
「お、お前らも!てか、真帆まで……!」
「たまにはこういう流れに便乗しとかないと。ね?」
「今じゃなくてもいいだろうがぁ!」
ウチとはまた違った賑やかさに、見ているだけで、ついつい頬が緩んでしまう。なんだか幸せをお裾分けしてもらってる気分だった。
こうして賑やかでほんのり温かい夕食の時間は過ぎていった。
「お前も少しはこっちを加勢しろ!」
「えぇ……そんな理不尽な」
*******
夕食を食べ終え、片付けを済ませてから、俺は帰ることにした。
チビ達に引き留められたり、水瀬家母から「泊まっていってもいいのよ~」とか言われ、つい流されそうになったが、夏希さんの「そんなスペースねえだろ」という現実的な言葉に我に返った。
そんなわけで、夏希さんがわざわざ見送りに外まで出てきてくれていた。もう外はすっかり真っ暗で、空には星がチカチカと輝いている。優しく頬を撫でる風は、ちょうどいい涼しさで、このまま星を眺めていたい気分にもなった。
「あの、今日はごちそうさまでした。すごく美味しかったです」
「ありがと。まあ、気にすんなよ。たまにはこうして礼をしとかないとな。てか、悪いな。毎度毎度騒がしくて。しかも今日は母ちゃんもいたから、三割増しだったし」
「いえ、楽しいですよ。お母さんもすごくいい人ですし」
「そっか、ならよかった。あ、そういや、前田って奴の事なんだけど……」
「まだ時間かかりそうなんで……もう少し待ってもらえますか?」
「そっか。お前がそう言うなら別にいいけど。それじゃあ、気をつけて帰れよ」
「ええ。それじゃあ」
そう言って歩き始めると、なんとなくだけど、まだ彼女はこちらを見ている気がした。
一応振り返ってみると、やはりまだ同じ場所に立っていて、目が合うと、手をひらひら振ってきた。
それに合わせ、こちらも同じように手を振り返し、また歩き始める。
少し歩いても、まだ背中に視線を感じる。普段はこんな事ないんだけど、何故か確信があった。
なので、もう一度振り返ると、彼女は意外だったのか、一回首を傾げてから、さっきより勢いよく手を振っていた。
俺は、もう一回手を振り返し、今度こそしっかり前を向き、帰路についた。
*******
翌朝。
何やら息苦しさを感じる。
こう、ひどい重圧が体にかかっているというか……のっかってるというか……もしかして、これが金縛りというやつだろうか。
「おはようございま~す」
「…………」
何やら声が聞こえた気もするが、今はそれどころではない。くっ、なんで俺が金縛りに……こういうのは普段から騒いでばかりの千秋がかかり、普段の言動を悔い改めるべきだろう。
「おはようございま~す」
「……んん?」
もう一度声が聞こえてきて、意識が徐々に覚醒していく。……あっ、なんかこの先の展開予想できたわ。
「あっ、多分もうこれ起きてますね。お兄さ~ん、はやく起きてくださ~い」
「…………」
どうしようか。このままだと重いし息苦しいし、かといって目を開けてもロクな展開にならない気がする。いや、確信している。
だが、このままというわけにもいかない。
おそるおそる目を開けると、目の前に真冬ちゃんの顔があった。
さすがにこれは予想外。
「うおっ!」
「お兄さん、何て声をあげてるんですか。まるで幽霊でも見たかのように」
ちなみに、予想外だったのは、彼女の顔が近かった事よりも、彼女が横から顔を覗き込んでいたことだ。てっきり、上に乗っかってると思ったんだが……。
「えっ?じゃあ、上に乗っかってるのは……」
「お母さんです」
「えっ?」
確認してみると、真冬ちゃんのお母さんが、気まずい表情で俺の上に馬乗りになっていた。
だから何でだよ!!




